⑬ 混戦
「ジョーカー FC 218!」
「SSIB 起爆まで後 140秒!」
蜜子と工藤が同時に叫ぶ。
「真一君、頑張って! なんとしても起爆まで踏ん張るのよ!」
由真は真一を励ますように声をかけた。しかし、形勢はかなり危機的状況だと理解していた。戮天で組み付いて起爆までの時間を稼ぐという計画が完全に崩れていた。今の《0020》はウナギのようなものだ。組み付きたくとも簡単にすり抜ける。となると、頼りは戮天の膨大なFCのみ。
「あいつの光線に集中して。まだ、数発食らっても大丈夫だけど、極力避けて!
発射のタイミングはこちらで読むから、合図したら避けるのよ!」
「了解」
「《0020》 高エネルギー反応!」
「起爆まで 残り 120!」
「臨界! 来ますよ!」
「ジョーカー! 回避!!」
《0020》が発射したビームをジョーカーは横に回転しながら避ける。
「真一君、上手い!」
「残り 100秒」
「エネルギー反応! どんどん来ますよ。
ほらほら……臨界!」
「回避」
由真の指示に従いジョーカーは回避運動をとる。そのすぐ横をビームが横切って行った。
「真一君、動きいいっすねぇ~」
蜜子が感心したように呟く。由真も同意だった。とても初めて動かすとは思えなかった。
「起爆まで後 80秒!」
キュロロ、と苛立たしそうな声を上げた《0020》はずるりと上半身を持ち上げる。一瞬、ジョーカーを見下すとそのまま、頭部を急降下させた。
うわっ!?
真一は急降下してきた《0020》の頭を半身をずらしてなんとか避ける。避けた頭がジョーカーの背後に回り込む。気づけば《0020》の蛇体がぐるりとジョーカーを囲んでいた。
戮天を絡めとろうと、ズズズズズッと蛇体で作った輪が狭まる。
真一の頭に一瞬、大蛇に胴巻きにされた哀れウサギの映像が過る。
ヤバい!
ギリギリで戮天を跳躍させて、胴体を乗り越える。
乗り越えたと思った瞬間、《0020》の尻尾が戮天の背中を強かに打った。
「うわっ!?」
MDFに守られて直接的なダメージはなかった。それでもジョーカーは地面に叩きつけられた。
すかさず《0020》がのし掛かってくる。
ブウウン
赤い干渉膜が《0020》の一定以上の接近封じる。が、スクリーン全面がDDの異形に覆われる。髪を振り乱し、腕のない体を身悶えさせるようによじらせる。下手に人に似ている分、じっと見ていると吐き気を催してきた。
《0020》の顔が縦に捲れ、鋭い牙が見える。
「真一君。その顔を近づけさせないで!
そいつの顎はMDFをすり抜けるわ!」
由真に言われて真一は動揺した。顔はジョーカーの喉笛を狙っているようだ。
「この!」
一瞬の躊躇の後、《0020》の顔を右の拳で殴った。
メキョリ
妙に柔らかく、まとわりついてくるような感触が拳に伝わってきた。人を殴ったことはなかったがきっと、こんな感じなのだろうと真一は思った。棒で殴った眞菜の顔がフラッシュバッグした。
紫色に腫れ上がり半分潰れた目やだらだらと血を流す破れた唇。
目の前のDDが女性を連想させる形態のせいなのか。背中に鳥肌が立った。
「真一君!」
由真の声に真一ははっとなる。知らない間に意識に間隙が生じていた。DDの顔が目前に迫っていた。身をかわそうとしたが一瞬遅れた。
「うがっ」
右膝のすぐ下辺りに激痛が走った。
「ジョーカー 右膝部 損傷
FCに変化なし フィルタ貫通するとか、マジ反則技~。
んで、ジョーカーの右脚部シナプスリンクを切断しますか?」
「ダメよ。そんな大きなところのリンクを切ったら身動きできなくなる」
蜜子の進言を由真は即座に却下した。
「真一君、痛いけど、耐えて。
バルカンの使用を許可します。顔面に集中させて顎を近づけさせないで!
工藤さん、爆発まであとどのくらい?」
「爆発まで54秒! 1分切ってます」
「白須さん、真一君に鎮痛剤を投与して」
「了解。右膝部分にペンタゾハム0.5mg投与」
《0020》の顔が再び迫る。ジョーカーは足を引きずりながら距離を取ろうとするが思うにまかせないのが明らかだった。
「なにやってんの! バルカンで迎撃しなさい!」
由真は大声で怒鳴った。
2021/09/12 初稿




