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超弦天使 レヴァネーセス ~ 夏に降る雪  作者: 風風風虱
epic 12 夏に降る雪(後編)
89/104

⑨ カウントダウン

 スクリーンの葵のフェイス画面が鮮血で真っ赤に塗りたくられた。

 あれほど《0020》を押し込んでいた飛天が糸が切れた操り人形のように崩れ落ちる。


「葵、葵、あおいー!」

 

 パイロットルームで由真は絶叫した。


「なんてこと……くそ、くそ、くそ」

 

 由真は激しい絶望と無力感に頭が真っ白になる。涙が溢れ視界が歪んでいく。このまま、なにもかも放棄したい気分だった。


「由真、指示をちょうだいぃぃ!」

 

 いすずの悲鳴がそんな由真を現実に引き戻す。見ると顔を真っ赤にして踏ん張っているいすずの顔が画面に映っていた。ずっと一人で頭と6本の腕を押さえ込んでいるのだ。


「なーがーくはーもたないぃ、なんとかしてー!!」

 

 口をへの字にして踏ん張るいすずの目にも光るものがあった。葵のことはみんなショックに思っているはずだ。だが、それに浸っている場合ではないと思い当たる。と、スクリーン片隅の注意ダイアログに気づく。


 なにこれ? いつの間に送られてきたの?


 注意ダイアログを開いてみて、息を飲んだ。そして、自分の額を何度も拳で叩き、自分に喝をいれた。

 

「ごめん! もう少し踏ん張って!

状況は? SSIB爆心地に入っている?」

「……残り5メートルほど足りません」


 葵の命と引き換えにしてこれか、と由真は舌打ちをした。その時、麻衣の声が割り込んできた。


「自分が行きます」


 飛天が1機、猛然と走り込んできて《0020》に取りついた。

 ヒメ。

 麻衣の飛天だ。

 助走の勢いでDDは大きく後退する。


「SSIB爆心予定区域に入りました!」


 工藤の声が響く。


「よし! 麻衣といすず、二人がかりで《0020》を押さえ込め。極力、中心へ引き込んで!

SSIB起爆準備 爆発時間180(セコンド)にセット!

最上さん、起動したらすぐに下に降りて!

避難してください」

「了解。 起爆準備……

180秒セット完了」

「SSIB起爆!

起爆チーム退避!

カウントダウンはオペチームに任す!」

「了解 爆発まで179 178 17……」


 一方、SSIB爆心予定域ではヒメ、スズの2機が《0020》と死闘を繰り広げていた。

 

「あっ、しまった!」


 いすずがロックしていた右腕の内、一番下の腕が外れた。自由になった腕の爪は一旦横へ長く伸びる。細長い放物線を描くように方向を変え、獲物に急降下する鷹のようにヒメの後頭部へ襲いかかった。

 

ブオン


 ヒメのMDFが襲いかかる爪を弾いた。

 弾かれたが、すぐさま、今度は脚部に狙いを定め猛進してくる。


「ヒメ FC 97 94 ……」


 爪は執拗にヒメに襲いかかる。その度にMDFに弾かれ、ヒメ本体に傷をつけることはできなかった。それでもFCは確実に削れていった。


「149 148 14……」

「爆発まであと2分半あります。このままだとヒメのフィルタの方が先に破られてしまいます」


 ヒメオペレーターチームのサブオペである松永が悲痛な声を上げた。


「スズ! ヒメの援護を」

「無茶ぶりだよ。どうせいちゅーのよ」


 由真にいすずが抗議する。スズも《0020》の動きを止めるため両手両足が塞がっていた。これを外せば、6本の爪と光学兵器が自由になる。そうなっては2機の飛天で《0020》を抑え込むのは不可能になるだろう。


「ヒメ FC 85……」

「ああ、もう。対空防御! 

当たれ!」


 いすずは、ヒメに襲いかかる爪を迎撃しようと20ミリ機関砲を撃ち込んだ。


ブン


 機関砲の弾丸で爪の軌道が外れた。


「やった!」


 すかった爪がよろよろと軌道を修正する。八の字を描き、今度はスズへと狙いを変えた。右足の膝部分に爪が襲いかかる。


ガッ 


ブゥン


「ズズ FC 97」


 スズのMDFが攻撃を弾くが、何度も執拗に襲いかかってくる。


「FC 94 91 88……」

「良い感じですね。

良い感じにタゲがスズに変わりましたよ」


 ズズのフィルタが削れていくのを見ながら蜜子がぼそりと言った。


「どこがよ~」

「いや、このまま起爆まで時間稼げればうちらの勝ちすっ」


 蜜子はのんびりとした調子で本音をぶちまける。


「ふ、ざ、け、ん、な!」


 いすずが悲鳴を上げた。



2021/08/29 初稿

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