② 何故それが起きないと思うのか?
「了解」
ピピピピピ
ターゲットロックを報せる電子音がパイロットルームに鳴り響く。
スクリーン正面。
まっすぐ伸びた大通りの先に進路を阻まれる戸惑っている《0020》がいた。その横顔に直接照準の照準マーカーが重なる。
「距離 3200 AP弾 発射!」
抑揚はないが凛とした麻衣の声と共にヒメのハンドキャノンから砲弾が吐き出される。
ガコン
AP弾はDDに命中することなく、宙空でひしゃげ、弾かれる。勿論、折り込み済みだ。麻衣は構わず2発目を撃つ。
2発目も赤い障壁に阻まれた。
《0020》の顔が動き、ヒメを睨み付ける。
麻衣はその顔の額の真ん中にターゲットを合わせると3発目を放った。
ブウン
膜が3発目も何事もないかのように呑み込む。
「キュロロロロ」
《0020》は苛立たし気な咆哮を上げると猛然とヒメに向かって突進し始めた。
「《0020》 Cポイントへ移動開始
このまま誘導する」
麻衣はキャノンを構えたまま、ヒメは後ろ向き走行を始める。そして、4発目を撃ち込む。
ブゥン
4発目を弾くと《0020》は6本の爪を一斉にヒメに伸ばした。
「対空射撃 オート!」
20ミリ機関砲が次々と爪を撃墜する。が、全部を弾くことはできない。空間に咲いた赤い花のような障壁を突き抜けて爪が1本、ヒメの喉笛に襲いかかる。命中寸前、麻衣はハチェットを抜いてそれを叩き落とした。
「Cポイント到達までおよそ60秒!」
「了解。
麻衣。敵の光学兵器に注意!
最初の時に比べて威力が上がっている。
3発もらったら確実にフィルムが剥がれるわ。絶対に喰らわないで!」
秋月冬馬曹長の声に応えるように葵は麻衣に指示を出した。
「いすずは、予定通り、SSIB爆心予定区域へ移動して待機」
「りょーかーい」
葵はタクティカルマップへ目を向ける。
マップには双美市内が投影されていた。マップのほぼ真ん中を走る1本の線の上を▲と●がゆっくり移動している。▲が《0020》、●がヒメ、すなわち麻衣の飛天を示していた。彼女たちが移動している線は櫻崎通りと呼ばれる幹線道路だ。
今、麻衣はその通りを東進している。その先で双美市の南北に貫くもうひとつの幹線道路と接続する。その十字路こそがCポイントだった。
葵は十字路のやや北で身を屈め、《0020》が来るのを待ち受けていた。Cポイントから南に1500メートル行けば、そこがSSIB爆心予定域だ。
「ジョーカー、真一君。準備は良い?」
「……良いです」
少し間を置いて返事が返ってきた。緊張しているのが手に取るように分かる。
「大丈夫。私たちが押し込むわ。基本、君は何もする必要はない。気を大きく持っていてちょうだい」
気休めにしかならないとは思いながらも葵はそう真一に言う。
「いすず、報告!」
「爆心予定区域に到達。いつでもどーぞー」
「了解」
タクティカルマップでスズの位置マーカーを素早く確認すると最後にSSIBの起爆操作を担当する部隊へ回線を繋げた。
ワークホリックは《0020》がSSIBの爆心予定区域に入ったら、直ちに起爆処理して退避する手筈になっていた。爆発までの猶予は6分。
「ワークホリックへ! ターゲットがそろそろDポイントに達するわ。
SSIBをすぐに起動できるようにしておいて」
「……」
返事が返ってこなかった。
「……?
ワークホリック、ワークホリック、聞こえるか? そちらの状況を報せよ!!」
もう一度、ワークホリックを呼び出す。しかし、ワークホリックからの返信は返ってこない。
なに? なにが起こった?
頭の血が一気に下がる。
「《0020》 Cポイント到達までおよそ30秒」
チーフオペレーター秋月春樹曹長の声。
「秋月さん、ワークホリックと連絡が取れないわ。状況がよく分からない。そちらで把握できますか?」
葵は自分の声が上擦っているのが分かった。話しながらパニックになるのを懸命にこらえる。タクティカルマップで▲と●の位置を確認する。マップでは●はもう□のすぐ隣のところまで来ていた。
「連絡がないのはこちらでも把握している。呼び出しにも応じない。今、ビルの監視カメラにアクセスを……うぉ」
秋月曹長の息を飲むような声がした。
「なに、どうしたの?」
「が、画像を送る」
スクリーンに秋月が送ってきた画像を写し出される。
どこかの部屋の一室。厳ついSSIBを背景に、一体のDDが映っていた。
「レジストコード 0105
ハンマーヘッドデビル……」
葵は絞り出すように呟く。
ハンマーヘッドデビルは、ワークホリックのオペレーター要員の制服を着ていた。




