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⑦ 学徒動員

「絹川2尉の結果は2.03だった。

残念だが必要DoL2.21に少し足りない」


 再びのWeb会議での席。熊野の言葉に場は微妙な雰囲気に包まれた。


「申し訳ありません」


 由真がうつむき加減で小さく謝った。先の会議とは異なり、由真と麻衣は熊野や早苗たちの同じ会議室で、警戒体勢の葵といすずがオンラインで参加していた。


「あなたが謝ることはありません。そうなることも想定内の話です。ならば予定通り、次は私が投薬を受けます。由真と麻衣は私の代わりに警戒任務について下さい」


 葵は事務的に言葉をつないでいく、とそこに熊野が手を上げる。


「ああ、その話なんだがね。実は戮天の適合者が見つかったよ」


 その言葉に一同は驚いた。


「どう言うことです?

私たち以外にDoLが2.21を超える人材がいると言ってますか?」

「その通りだ。DoL 2.78の人材が見つかった」

「2.78……一体だれですか?」


 葵の問いに熊野は早苗の方へ顔を向けた。どこか皮肉っぽい笑みを浮かべていた。


「最上真一君だよ」

「真一?! うちの真一が、ですか?

そんな、なんでそんなことになるんです」


 弾かれたように早苗が叫んだ。それに対して、熊野は肩をすくめ、首を軽く横に振る。


「さぁな。DDに受けた傷を治療して、念のために感染症などの異常がないかを確認をしていた時に気づいた。DDに傷つけられたことが原因ではないか、と思っている。

そう言う事例は程度の差はあるが傾向として確認されている」

「そんな馬鹿な……」


 困惑する早苗は言葉が続かない。


「まあ、だが良かったじゃないか。つまり戮天を使えるということだろう?」

「良くはありません!」


 警備部長の言葉に早苗は食ってかかった。


「あなたは息子に戮天に乗って戦え、と言うですか?!

あの子はまだ、高校生なんですよ!」

「いや、今までずっと適合者を探していたんだろ? それも、それなりのリスクを払ってだ。

それがせっかく見つかったというのに諦めるのか?」

「それは大人の個々人が判断して選んだことです。それに……」


 そこまで言って、早苗は言葉を途切らせる。ちらりと由真たちや葵の方へ目をやると大きく息を吸い込んで、一気に吐き出した。


「それに、彼女たちが戦うのと私の息子を戦闘に巻き込むのをいっしょくたにしないで下さい!」

「今は非常事態なんだ、みんなが生き残るために協力する必要がある。戦えるならば学生だとか子供だとか我が儘を言ってる場合じゃないだろう」

「だから学徒動員ですか?」

「学徒動員のなにが悪い」

「悪いって……悪いに決まっているでしょう!」

「まあ、まあ。気持ちは分かりますが最上課長ちょっと落ち着いてください」


 たまりかねて局長が早苗と警備部長の間に割って入った。しかし、早苗は余計に猛り狂う。


「ふざけないでください。

動かせられると言うだけで真一を戮天に乗せて、本当に役に立つと思っているのですか!

銃の意味も知らない子供に弾をいれたまま渡すようなものです。危険なだけです」

「そうかな。真一君とは話をしてみたが、中々に芯のある、頭の良さそうな子だったよ。

さすがに最上課長の息子さんだ」

 

 誉め殺しに神経を逆撫でされた早苗は物凄い表情で熊野を睨み付けた。一方、熊野は受けてたつように眉一つ動かさない。


「役に立つかどうかは戦闘の専門家に聞いた方が良いのでは?」


 その視線はWeb会議画面に映る葵に向けられていた。一同の視線が葵に向く。


「民間の、それも未成年を戦闘に参加させる訳には行きません」


 いや、いや、いやと熊野は首を横に振る。


「ルール、規則を聞いているのではない。

動かすのが素人であったとしても今後の戦闘に役に立つのかどうか、その意見を聞かせてくれ」

「一概にはなんとも言えません。

どんな優秀な武器でも使う者の技量に左右されます」

「それはそうだ。だが僕たちが聞きたいのはそんなお行儀の良い一般論じゃない。

生きるか死ぬかに関わる選択をしている。その判断の最良として真剣に答えてくれ。

そもそも戦闘に有利になるから今まで手間隙かけて来たのではないのかね?」

「それは、そうですが……

まだ、私が乗れる可能性が残っておりますので、その結果を待ってからでも」

「いや、いや、そんな時間は残っていないぞ」


 声を上げたのは警備部長だった。


「今こうして我々が無駄な議論で時間を浪費している間にも民間人のデモナイゼーションは次々に起こっているんだ。

それが君たちは分かっているのかね?

誰が何時、DDになるか分からんから、民間人は屋外で距離を置いて分散待機されられているんだぞ。不安、疲労、不満はもう我慢の限界に来ている。それを抑えている私の部下も同様に限界だ。

今すぐにでも行動を起こしてもらわねば、なにが起きても保証はできんぞ!」


 熊野はこれ見よがしにやれやれと首を振って見せた。


「だそうだ。

どうだろう、我々で決められないというのであれば本人に決めてもらう、というのはどうだろう?

つまり、真一君に乗るかどうかを、さ。」


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