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⑤ 真一と麻衣

「血液のサンプルは採ったかね?」

「いえ、まだです」

「すぐに採集してチェックをするほうが良いな」

 

 真一は自分をギラギラした目で見くる、この熊野と言う男がすごく気に入らなかった。動物園のパンダでも見るような血の通わない興味だけの視線、と思った。


「そっちの機械にサンプル入れれば結果が出る。操作は彼に任してくれ」


 部屋にいるスタッフの1人を指しながら熊野は露子に指示をした。そして、自分は一緒に入室した2人の女性の内の長身の方を連れて隣の処置室へと入った。残った白髪の女性は黙って立ちすくんでいた。


「絹川2尉、どこか適当なところに座って待っていてください」


 見かねたように露子が言った。一瞬、赤い瞳が露子に注がれ、さらにその視線は隣に座っている真一へと向けられた。きょとんとした無表情はどんな感情の色もなかった。そして、言われたままに適当な椅子にすとんと腰をおろした。

 白い髪に、赤い瞳。

 いわゆるアルビノと呼ばれる人なんだな、と真一は思った。


「気になるの?」


 露子に言われて、真一は内心どきりとした。


「い、いえ。別に……」

「嘘っ。さっきからチラチラ覗き見してるじゃない」

「そんなことはないです……

いや、あるかな。真っ白できれいな人だな、と思って……」

「正直でよろしい。ま、あれはあれで大変なんだけどね。本当にヒメは綺麗だよねぇ」

「ヒメ? 『まい』って名前じゃないんですか?」

「ああ、それはTACネーム。本名は、君の言うように麻衣よ。あら、あら、名前までしっかり覚えちゃった? 油断も隙もないわね」

「違いますよ。 

その、彼女には助けてもらったから、お礼が言いたいと思っていたんです」

「へぇ、そうなの。じゃあ、おねえさん、手伝って上げるわ」


 露子はにんまりといやらしい笑いを浮かべると、麻衣に向かって手を振った。早業に止める間もなかった。


「絹川2尉、この子。最上真一君。

先ほど2尉が保護した民間人の1人です。

この子が2尉にお礼が言いたいそうです」


 露子は楽しげに真一を麻衣の前へと押し出した。


「あ、あの、先ほどはありがとうございました。

もしも、あの時助けてもらえなかったら僕たちはどうなっていたかわかりません」


 麻衣は椅子から立つこともなく目の前の真一を不思議そうに見上げた。それからたっぷり二呼吸ほどの間を置いてようやく口を開いた。


「そう。私も助けられて良かったと思う。

妹さんたちは無事?」

「はい。無事です」

「そう」

 

 あっという間の会話の種がつきて沈黙が訪れる。会話が恐ろしく続かなかった。すごすごと身を引くべきか、それとももう少し話の穂を接ぐ努力をすべきか悩んでいるところに露子が助け船を出してくれた。


「喉が渇いたから何か買ってくるよ。絹川2尉、何が飲みたいですか」

「ミネラルウォーター」

「了解。真一君は?」

「なんでもいいです。炭酸の冷たいのをお願いします」

「良し良し。今回は特別にお姉様が奢ってしんぜよう。苦しゅうないからその辺で腰かけて待っておりゃれ」


 この人、本当に自衛官で医師免許持ってるのか、と生ぬるい視線を投げ掛ける真一だったが当の露子は全く気づく様子を見せなかった。と、処置室のドアが開いた。


「あっ、ちょうどいいところに。

名取2尉、なにか飲み物買ってきましょうか?」

「あっ? ああ、ありがとう。水でも買ってきてくれ」

「あいっす。熊野さんはどうされますか?」

「僕は自前のコーヒーがあるからいいよ」


 熊野は手を上げて、やんわりと断った。そして、顔を由真の方へ向ける。


「薬が効くまで少し安静にしていてくれ。

気分とか悪くなったらすぐに言ってくれ」


 熊野は自席に戻ると机の上の魔法瓶を取り、中のコーヒーをカップに注いだ。そこへスタッフの1人が紙の束を持ってやってきた。


「先ほどの……結果です……で……」


 熊野の耳元で何事か囁く。熊野は軽くうなづくと書類を受けとった。少しの間、書類を見つめていたが手に持っていたコーヒーを一気に飲み干した。


「これは、これは、中々に面白い結果だ」


 小さく呟くと、秘かに視線を椅子に腰かけている真一へと向けた。

 

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