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⑤ 地獄絵図、再び

「こちらヒメ。

DD カテゴリー1 2体撃破。

民間人 3人保護。

遠方にDD カテゴリー1を1体確認。

レシストコード 0127 コードネーム 『腹上華(フクシャンハ)』。

民間人を安全な場所に誘導後、『腹上華』を攻撃予定」


 麻衣からの報告を受けた葵はスクリーンに映し出された3人の姿を確認する。制服を着た男の子1人、女の子2人。高校生ぐらいかと値踏みする。


『さっきお巡りさんが、みんなを双美ドームに集めていると言ってましたが』


 ハウンドからの声が漏れ聞こえてきた。保護した3人の内の1人の女の子の声だ。

 そうよ、と麻衣が答えているのも聞こえた。


『それダメです。絶対にダメです』


 と、突然少女が大声を上げた。その必死さに葵は驚きと不穏さを感じ取った。そして、気づいた時には麻衣と少女の会話に割り込んでいた。



『長良と言います』


 ハウンドからの声がした。さっきの女性の声とは違う。複数の人でこの見慣れぬ機械を動かしているのかと真一は思った。


『なんで駄目なのか教えてもらえるかしら?』


 自分の話を聞いてもらえると分かった双葉は身を乗り出して、身振り手振りを加え、説明する。


「人が、さっきのような化け物に変身してしまうのです。理由は分からないけど……

でも、きっとなにか条件があると思うんです。それで、人がたくさん集まるってことは、その中に化け物になってしまう条件の人がたくさん含まれるってことです。

そうしたら双美ドームが化け物で一杯になってしまいます!」

『ちょっと待って人がDDになるっていうの?

あなたたちはそれを見たの?』

「見ました」


 心を決めて真一は言った。


「見ました。僕たちの友達が化け物に変わって襲いかかってきました」




 真一の言葉に葵は衝撃を受けた。

 詳しく話を聞かなくては、と思ったがいつDDに襲われるか分からない路上で事情聴衆するわけにもいかなかった。


「麻衣、その3人に詳しい話を聞きたい。

護衛しながらオペビークルへ誘導して。

そこで話を聞かせてもらいましょう」

「捕捉しているDDはどうしますか?」

「それは私のハウンドで対処します」

「了解。位置情報を送ります」


 すぐに位置情報が送られてきたので、手近のハウンド02を現場に向かわせる。そして、すぐにハウンド03のカメラへ目を向けた。

 03は双美ドームの護衛につかせていた。

 ドーム内のアルプススタンド上段からグラウンドを一望できるポジションだった。広いグランド全体に避難した人が点在していた。

 特に異常は見られない。

 人がDDに変身するなど聞いたことがない。

 しかし、それが事実であれば、突然市中にDDが大量に現れた理由がついた。それでも、本当にそんなことがあるのか、まだ、葵には半信半疑であった。

 ふと、葵の頭にある考えが浮かぶ。


「秋月さん。双美研究所と連絡は取れない?

あそこの研究者と連絡を取って、今の話、人がDDになるって現象について問い合わせましょう」



 グランド。

 人工芝に敷いた防水シートに座り込んでいた男が隣の男に声をかける。


「おい、大丈夫か? 顔、真っ青だぞ」


 声をかけられた男は、大丈夫と言わんばかりに無言で首を二度ほど縦に振ったが、とても大丈夫には見えなかった。青というより青紫色の顔色に額に玉の汗を浮かべている。


「腹が痛い」

「おう、トイレ言った方が良くねぇか」

「駄目だ、痛くて動けねぇ。あ、イタタタタ」

「そんなに痛むのか? ちょっと待ってろ。医者探してくる」

 

 男は慌てて立ち上がり、キョロキョロと辺りを見渡した。

 医者を連れてくると言ってみたが当てがあるわけではないのだ。少し離れたところに警察官が二人たっていた。まずは、そちらに聞いてみるかと2、3歩歩いたところだ。


「ぎゃあああ」


 凄まじい絶叫に振り返る。

 見るとさっきの男が仰向けに倒れ、体をのけ反らして叫んでいた。大丈夫か、といいかけて言葉が止まる。絶叫している男の顔がみるみると(しな)びていく。顔だけではない。手も足もミイラのように萎びていく。その代わり腹の辺りがぐんぐんと盛り上がっていく。

 服が破け、ずるずるとなにかが空に向けて伸びていく。

 それが植物の蔓のようたものと理解するのに二拍ほどかかった。

 無数の蔓が幾重にも絡み合いながら伸びていく。やがて巨木のような蔓の天頂に巨大で毒々しい花が開く。赤茶けて、中央に向かうほど黒くなっている。世界最大の花弁と言われるラフレシアを男は思い出した。

 その花の下に袋のようなものが垂れ下がったかと思うと、見る間に膨れ上がり大の大人が二人は入りそうな巨大なウツボカヅラ風の房に成長する。

 仰向けに倒れた男の腹に咲く禍々しい食虫植物だ。

 萎びた本体であった残骸が弓なりに反り返りブリッジをするような姿勢になると、ヨロヨロと歩き出した

 男は子供の頃、親に連れられ見に行ったサーカスのピエロの芸を思い出す。カラフルな飾りのついた如何にも不安定そうな長い棒を胸板に立ててステージを一周する芸だ。その狂気に満ちたパロディを見せられている気分だった。

 その狂気の化け物がゆっくりではあるが自分に向かって近づいてくる。その事実に男は我にかえった。そして、あわてて逃げようとする。

 と、その両肩を掴まれた。と思うまもなく、強い力で引っ張られる。さらに足も両側から挟まれる。なにかなんだから分からないまま前を見ると、異様に手足の長い鬼のようなものがいた。

 そいつの両手両足でがっちりと捉えられていることにようやく気がついた。逃げようともがいたが万力のような力に全く抵抗できなかった。そのままなす術もなく引き寄せられる。

 ナイフのような牙の白さ。蛇のような長い舌の赤色。底無しの穴の如く広がった口腔の漆黒。男の視界一杯がその3つ色に支配され、すぐに何もない虚無へと変わった。


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