④ 離脱 追撃 強襲
碧は後部座席のドアをゆっくりと開ける。目の前で蔓がうねうねと動き回っていた。息を大きく吸い込むと、一気に外へ飛び出した。
蔓は……、蔓は全く碧に興味を示さない。
「双葉ちゃん、早く!」
数メートルほど離れたところで碧は振り向か、車内で見守っていた双葉へ声をかけた。
「さあ、行くんだ!」
真一が最後の背中を押す。
双葉が外へ飛び出した。やはり蔓は反応をしなかった。
真一は小さく、良し!、と呟いた。
後は自分だけだ
ドアを開け、タイミングを計って転がり出る。前進する力を失ったパトカーは蔓に引っ張られずるずると後方へ引きずられていった。
真一はパトカーに巻き込まれないように少し横に転がると立ち上がり、双葉や碧のいる方向へ走り出した。
蔓はパトカーを引っ張るのに一生懸命で真一に見向きもしなかった。
成功だ!
そう思った時だ。
チチチチチチ
虫の鳴き声のようなものが後ろからか聞こえてきた。振り向くと、さっきまで歩いて近づいていた2体の化け物が猛然と自分を追いかけてくるのが見えた。
一難去ってまた一難とはこのことか、と思いながら真一は走る早さを上げる。走りながら碧たちに向かって叫ぶ。
「走って! とにかく走れ!!」
碧と双葉、それを追いかけるように走る真一。そのまた後ろを2体の化け物が追いかける。走る3つのグループの差は徐々に短くなっていった。
「ああ、くそっ!」
真一は忌々しそうに叫ぶと走るのを止め、後ろを向いた。迫り来る化け物を迎え撃とうと両手を広げた。
「真一なにやってんの!」
「お兄ちゃん!!」
「いいから、二人はどこか入れそうな建物にでも逃げるんだ!」
二人の声に振り向くこともなく真一は叫びかえした。
チチチチチチチ
化け物は耳障りな音を発しながら一目散に真一に近づいてきた。
ドルルルルルル
重低音が響き渡り、真一の腹をビリビリと振動させる。と、同時に化け物1体が吹き飛んだ。
えっ?
なにか黒く大きなものが疾走してくる。カツン、カツンとアスファルトを蹴る音が響く。馬か大きな犬かと一瞬思ったが、違う。真っ黒なそれはあっという間に真一の横を通りすぎる。
『下がって』と通り過ぎる瞬間、それは言った。言いながら真一と残ったもう1体の化け物の間に割りこんできた。
『危ないから下がって』
外観からは思いもしない女の声に真一は少し驚きながらも、それが自分たちを守ろうとしていることを理解した。
チチチチチチチ
苛立たしそうに化け物が音を発すると、両腕の触手を鞭のようにしならせ、その黒い邪魔者に打ち下ろした。だが、正体不明の乱入者は四つの脚で跳躍して触手を素早く避けた。避けながら装備しているショットガンを打った。
「ぐぎゃ」
うめき声とも悲鳴ともつかないな声を上げ、化け物は吹き飛ばされ動かなくなった。
「大丈夫?!」
碧と双葉が駆け寄ってきた。が、果たして大丈夫と言って良いのかどうか判断に困った。
「えっ、うん、どうなのかな。助かったは助かったんだと思うけど……」
真一は歯切れ悪そうに言い淀んだ。
「化け物はやっつけたんだよね」
碧は地面に倒れて動かなくなった化け物たちに目を向けると確かめようと近づこうとした。
『近づかないで!』
再び、女の声。碧はびくりと体を飛び上がらせると声のしたほう、その黒く角ばって馬のような四つの脚を持つ奇妙な代物を、見た。
『こちら自衛隊です。あなたたちを保護します。
他に生存者はいますか?』
「いえ。僕たち3人だけです」
『……詳しい説明はあとで。
今は安全なところへ移動するのでついてきて』
それだけいうとそれは歩き始める。
3人は一度顔を見合わせると無言でそれに付き従った。




