⑥ 市内模様
ガシーーン
金属音が換気管の中を無数に反響しながら消えていった。真一は開いた鉄の扉から顔を突きだし、周囲を確認する。
そこは今まで苦労して這いずってきた換気管とは異なり人が立って歩けるぐらいの空間が広がっていた。
「ここなに?」
換気管から這い出て、服の埃を払いながら碧が言った。
「さあ? 換気管とかのメンテナンス用の通路かな。あっちに通路があるよ。どこへ繋がってるかわかんないけど、多分、出入り口があるはずだ」
真一は通路を指差して言った。
「DD確認!」
由真が操るハンターの一つがDDを発見した。スクリーンに投影されたモニタ画面の一角にマークが浮き出ていた。ハンターは飛天同様シナプスリンクを使って手足のように扱うこともできたが、複数のハンターを一人で動かすのは難度が高かった。そのため、今のハンターたちはAlにより半自律で動いていた。由真たちがあらかじめ各ハンターに目的地や大まかな命令を与えておけばそれなりに行動してくれる。
今の命令は市民の救助及び、DDの索敵と駆逐だった。
モニターに様々な諸元データが映し出された。
「レジストコード 0113
コードネーム 『Daddy-Long-Legs』
距離 52メートル
周囲には人の姿はない。今から狩ります。
H02 攻撃せよ!」
由真がコマンドを入力するとユーマH02は目の前のDDにウェポン1、すなわち12.7mm重機関銃を1発打ちこんだ。
ギャウ
銃弾を受けたDDは数メートル吹き飛び動かなくなった。
「接近 DDの状態確認!」
ハンターはゆっくりと近づいていく。地面に倒れたDDはピクリとも動かない。先端についているマニュピレーターを動かし触ろうとした瞬間、DDがそのひょろひょろした長い手足を鞭のようにしならせてハンターを殴りつけた。
H02とタグ付けされたモニター画面が激しく乱れる。殴られて昏倒したのだ。
ガリガリガリガリ
ハンターの内蔵マイクが拾う音が聞こえてきた。どうやら噛られているようだったが、ハンターのステータスに異常は見られなかった。飛天の装甲に使われている超硬度カーボンナノファイバーと同じものが使われているため、そう簡単に傷つけれるものではない。
「振り払いなさい」
由真の命令でハンターがロデオの馬のように跳ね、取りついたDDを振りほどいた。振りほどかれ、地面に転がったDDに12.7mm弾をすかさず撃ち込む。今度は連射で確実に止めを刺しにいった。
「DD 撃破を確認」
「了解。こちらも一体仕留めたわ」
碧はさらに言葉を続ける。
「市民の誘導先が決まったわ。双美ドームよ。
そこの守りにハンターを3体配置する。各自1体を送ってちょうだい。ドームの位置は今送ったわ。
残りは今まで通り市中を哨戒。
ある程度市民の保護が完了するまで《0020》の対策はお預けよ。
スズ、《0020》の方は動きはない?」
「動きないねぇ。
タワーのてっぺんでじっとしてる」
「そう、なによりだわ。
こっちが一段落するまではおとなしくしてもいてもらいたいわね」
「そーだねぇ」
梯子を上りきり、扉を開くとそこは学園の裏庭の一角だった。
「へえ、こんなところに出るんだ」
真一は少し感心したように言った。見知った場所に出られたことがなにより嬉しかった。
「あれ、空が変」
碧の声に釣られ真一は空を見た。全面が白いものに覆われていた。雲かと思ったが質感が明らかに違う。
「一体なにが起こっているの?」
碧の言葉に返す言葉を真一は持ち合わせていなかった。




