⑧ おいかけっこ リターン
真一は全力で走って逃げる。
だが、走りながらすぐにその結末にぶち当たる。
行き止まりだ。
相変わらずのノープラン、と真一は自虐気味に思った。
考えるんだ
真っ白になりそうになる頭を懸命に振り絞る。
ズズズ
ズズ
ズズズズズ
薄暗がりに隠れ姿は見えなくなったが眞菜が床を這いずり近づく音は確実に大きくなっている。やがて視認できるようになるだろう。そうなったらおしまいだ。その前に打開策を見つけなくてはならない。
碧と双葉を助けるためとは言いながら、こうなることは最初から分かってはいたではないか、と自分に言い聞かせながら懸命に周囲を探った。やはり、目は壁の上にある換気口に注がれる。あそこから逃げれるかもしれない。口を塞ぐ金網は力ずくで外せないことはなさそうだったが、今となってはその時間は残されていない。外そうと格闘している間に後ろからパクり! とされそうだった。こんなことなら外して中を覗いて見るぐらいしていても良かったな、と後悔するが始まらない。
ダメだ、ダメだ
真一はぶるぶると頭を振り、不毛な現実逃避から抜け出す。
棚の物を使って簡易のバリケードを作る?
やれそうだが、所詮段ボール。強度が悲しくなるほどに足りなさそうだ。しかし、なにもしないよりかはましだ。真一はそう考えると棚にある段ボールを手当たり次第に中央の廊下に積み始めた。
ズ ズズズズズ
眞菜が中央に積み重ねられた段ボールのバリケードを突き崩し、そのまま前へと進む。が、すぐに壁に突き当たる。眞菜はゆっくりとぶよぶよした体をねじり、左右を探る。
真一の姿はどこにもなかった。
眞菜は不満なのか困惑なのか分からない低いうなり声を上げた。
ぶるぶると水袋のような体を震わせながら行き止まりのその狭い空間を真一の姿を求めてズルズルと床を這いずった。
カッーン カツン カツン
乾いた音が響き渡る。
眞菜の目の前に小さなものが転がる。動きを止め、彼女はそれをじっと見つめる。
乾パンの欠片。それは上から、立ち並ぶ棚から落ちてきた。
眞菜はゆっくりと顔を上げる。
棚の上に身を潜めていた真一と視線がぶつかった。
「お、おおおおお」
眞菜の体がグニャリと伸びる。棚の上の獲物を捕まえようと手を伸ばす。真一は慌ててすぐ前に並んでいる棚へと飛び移った。眞菜の両腕が虚しく空をきる。逃げた真一を追って、眞菜の体をズルズルと伸びる。上半身が真一を追って棚の一番上に取りついた。伸びきった体が収縮して、床に張り付くように残っていた下半分がぷるんと離れ、上半身に吸収される。
眞菜が自分を追い掛けて棚の上へ移動してきたのを見て、真一はさらにもうひとつ前の棚へと飛び移る。眞菜は眞菜で逃げる真一を掴まえようと、棚の上を体を伸縮させ、ズルリズルリと追いかけてきた。
「おおぁあぁぁぁ」
天井と棚の隙間はそれほど広くない。逃げる真一と追いかける眞菜では、眞菜の方が僅かに早い。真一と眞菜の距離は部屋の真ん中に到達するころにはかなり縮まっていた。このままでは掴まるのも時間の問題。そう思われた時、真一は素早く棚と棚の間に身を落とすした。そして、すぐさま渾身の力で棚を押し始めた。
棚が傾きはじめた。
「ああぁ」
棚の上から眞菜が伸ばした手が真一の腕に触れた。
「このぉ!」
気合い一閃。火事場の馬鹿力。
ついに棚のバランスが崩れた。
ぐらりと棚が倒れはじめる。
上に乗っていた眞菜も棚に乗ったまま倒れていく。棚はドミノ倒しのように後ろの棚を倒し、倒れた後方の棚は更に後ろの棚を倒していく。その大崩壊に眞菜は巻き込まれ、あっという間もなく幾つもの棚の下敷きになり埋もれてしまった。
「真一、真一」
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
背後から声がした。みると双美と碧の姿があった。二人は駆け寄ってきたかと思う、同時に抱きつかれた。
「ちょ、ちょっと落ち着け。大丈夫だから」
「ほ、ほんとう? 嘘っ! 怪我してるじゃん!!」
「そうだよ、お兄ちゃん。血が出てる!」
「えっ?」
腕を見ると三本の引っ掻き傷がついていた。さっき眞菜が倒れ離れて行く時につけられたようだ。
「かすり傷だよ。心配ない」
「ほんとう?」
碧が探るように真一と腕の傷を見比べる。
「全然大丈夫だって」
真一は二人を安心させようと笑って見せた。
「それなら良いんだけど……」
碧がそう言いかけた時、倒れていた棚がぐらりと動いた。
2021/06/13 初稿
2021/06/13 誤字の修正。文章少し改良
□□□ 次回予告 □□□
化け物から必死に逃げようとする真一たちを
嘲笑うかのように次々と化け物に変貌を遂げる人々。
早苗の恐るべき仮説に閉じ込められた人々は恐怖する。
今、絶望と破滅へのカウントダウンが始まる。
真一は、早苗は、葵や麻衣たちはそれを食い止めることができるのか?
次回、超弦天使レヴァネーセス
epic8 時は残酷な女王の吐息
さぁ~ 次回もぉ~ ハッスル ハッスル!
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