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⑥ カテゴリー1(ワン)

「た、す、け……、ぎぃゃあ!」


 ブツン


 悲痛な悲鳴と共に高崎の体が二つに切断され、血肉を雨のように地面に撒き散らした。

 

「DD カテゴリー1(ワン)

なんでこんなところに……」


 剣埼がうめき声を上げた。

 早苗は呆然と立ち尽くし、得体の知れないものがゆっくりと全貌を現すのを見つめていた。


ギシギシギギギギギ


 耳障な軋み音が一際大きくなる。

 単なるムカデのお化けかと思われたが違った。運転席から姿を現したのは人の体からムカデの体躯が幾条も突き出た悪夢のような存在だった。だが、早苗が心底恐ろしいと思ったのは、その化け物が着ている服だった。あちらこちらが破れてほとんど布切れが体にまとわりついているぐらいであったが、それは紛れもなく運転手が着ているつなぎであった。

 その意味することに早苗の膝は震え、止めることができない。


「構え! 射て!」

 

 剣埼の指示で隊員たちは素早く自動小銃を構えると発砲を始めた。しかし、銃弾はみなムカデ状の触手に弾かれた。

 

 ブワリ


 化け物が運転席から飛び降りる。

 早苗は首根っこを捕まれて後ろへと引き寄せられた。

 引っ張ったのは剣埼だ。


「下がって。警備車まで下がっててください」


 言われるままに早苗は警備車まで下がる。この状況で自分がやれることはないと、自覚していた。


「回り込め」


 正面からの銃撃をことごとく弾かれたのを見て、剣埼は化け物の左右に回り込むよう指示をする。


「うがっ」

「ぎゃっ」


 ムカデ触手がぐうんと伸び、回り込もうとした2人の隊員を捉える。先端のハサミが突き刺さり、切断して、あっという間に人を解体してまうのを目撃して、早苗の胃はでんぐり返る。吐かずに済んだの一重に彼女の自制心の賜物だった。


「下がれ、下がれ! 距離をとれ」


 剣埼たちは慌てて後退する。早苗の待機する警備車まで戻ってくる。


「駄目です。我々の装備では奴に対抗できません。対DDの専門部隊の出動の要請をしてください」




「戻れ? 今、戻れと言いましたか?

戮天(りくてん)……い、いえ、クレードルの荷の回収はどうするのですか?!」


 局長から戻れと言われ、早苗は衝撃を受けた。DDはともかくクレードルの荷を放置するなど考えられなかったからだ。


『言いたいことは分かるが、非常事態なのだよ。君が思っているより悪いことが起こっている。

どこもかしこも圧倒的に人手が足りなくて、かつ大混乱している』

「どういう意味です」

『無線で話すには込み入っていてね、とにかく君には一度戻って来てもらいたい』

「こっちはどうするんですか?」

『取り敢えず監視の者だけ残しておいて、もう少し事態が落ち着いたら回収することを考えよう』


 無線を切ると早苗は剣埼の顔を見た。


「だそうよ」

「なにが起きてるんですかね?」


 早苗はただ黙って首を斜めにするだけだった。

 ようしっ! と、剣埼は警備車のルーフを叩いた。


「お前は課長を研究所に送り届けろ。

じゃあ、最上課長。取り敢えず、次の命令があるまでこっちのほうは自分たちで見ます」

「うん。お願いします。荷は傷つけないように注意してね」


 もっとも自動小銃程度で傷をつけれる代物ではないのだけど、と走り去る車の中で早苗は微かに呟いた。

 




「いや、それはいくらなんでも無理があるでしょ。人があんな化け物に変身しちゃうなんてのは……」


 やや、ぎこちない笑いを浮かべながら碧は双葉の言葉を否定する。


「そもそもなんで変身するの? 原因は?

ね、ねえ、真一もそう思うでしょ?」

「お、俺?」


 いきなり振られて真一は戸惑う。


「眞菜さん、遅いね」


 はっ、なに言ってるの? という表情を露骨に碧は浮かべた。

 話題を変えようと咄嗟に出た言葉ではあった。碧は大いに不満だろうが、それでもそれほど唐突な話でもなかった。

 真一は部屋の奥へと目を向ける。一向に戻ってくると雰囲気はなかった。お花摘みにしては少々長い。


「う~ん、やはり、大きい方でしたか。

便秘かもね」


 少し悪意のこもったあおりに真一はムッとした表情を碧に向ける。


「デリカシーないよ」

「悪ぅござんすね」


 悪びれもなくペロリと舌を見せて笑う碧を無視して真一は立ち上がった。


「あら、どうするつもり?」

「俺、心配だからちょっと様子を見てくる」

「えーーー、マジ止めなよ」

「いや、だって倒れていたりしたら大変じゃないか」


 真一は碧が止めるのも聞かず、眞菜の名前を呼びながら部屋の奥へと歩き出した。

 

「眞菜さーん」


 ゆっくりと歩きながら真一は眞菜の名を呼んだ。


「ちょっとぉ、本当に止めときなさいよ。もしも、本当に最中だったら彼女、見られたくないと思うよ」


 後ろから碧がついてきた。


「もしも見られたくなかったら、彼女の方から声をかけてくるでしょ」


 真一は碧の忠告に耳を貸すことなく薄暗い通路を進む。


「眞菜さーん。大丈夫? 返事してー」

 

バリ バリ ガリガリガリ


 眞菜の返事はなかった。代わりに部屋の奥から妙な音が聞こえてきた。

 真一は歩みを止めると耳を澄ました。


バリバリバリ クチュ クチュ


「なに、今の音」


 碧が囁くように言った。

 

2021/06/13 誤字の修正

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