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⑤ 事故

 ガリガリ


  ガリガリガリ


 運転しながら頬や首、腕を掻きむしる湊を早苗は心配そうに見守っていた。


「かなり酷そうね」

「ええ、たまりません。急にこんな感じになって。初めてで……」

「気持ちは分かるけど、我慢して掻かない方が良いわよ。掻けば掻くほど痒くなるわ」

「分かってはいるんですけどね。

ああ、くそ、痒くてたまらない!

我慢できないんですよ」


 湊はまたひとしきり頬の一掻きした。ツーーっと赤い筋が一本走った。


「ちょっと、掻き破っちゃってるわよ。

ちょっと止めて。運転を交代しましょう」


 早苗はそう言うと、無線に開いた。


「全隊停止。

1号車の運転手の具合が悪いので交代するわ。

1号車後部座席の高崎(たかさき)くん、聞こえる?」

『聞こえます』

「停車したら湊くんと交代してちょうだい」

『了解しました』


 早苗が助手席から降りようとすると、「すみません」と湊が言った。言いながらも体もしきりにもぞもぞさせていた。痒みは全身に広がっているようだ。安心させるように早苗は笑顔を向けた。


「良いのよ。あなたは助手席におとなしく座ってなさい」


 早苗は指で頬を指し示す。


「それから傷の手当てしなさいよ。(あと)が残るわよ。手当てしてあげたいけど、時間が無いから自分でやりなさいね。

グローブボックスに救急箱が入ってるはずよ」




 早苗は降りるとクレードルの後ろに向かって走り出した。

 後部座席は文字通り車両の後ろにあった。クレードルⅡの全長は40メートルある。前部運転席から後部座席へ移動するとなるとちょっとした運動になる。途中で高崎とすれ違った。軽くハイタッチをかわす。理系畑の早苗ではあったが、現場のこういう体育会形のノリは嫌いではなかった。


「ふぅ」


 ようやくクレードルの後ろにたどり着くと息を吐いて、目の前の梯子(ラッタル)を見た。ラッタルは垂直に上へと伸びている。いわゆるモンキーラッタルと呼ばれているものだ。後部座席へはこのモンキーラッタルを5メートルほど上った先にあった。

 一度深呼吸をすると、早苗はラッタルへ手と足をかける。金属のひんやりした感触を手のひらに感じながら出来る限りの早さで上り始めた。




「オーケー。準備できたわ。出発して」


 シートベルトをはめながら早苗は無線で呼び掛ける。クレードルはゆっくりと動き出した。ところが数分と経たずクレードルは激しく蛇行を始めた。


「こちら早苗。どうしたの? なにがあったの?」

 

 驚いて無線に叫ぶ。しかし、返事はなく、蛇行は更に激しくなった。ついに反対車線にはみ出してしまった。全市内に避難命令が出ていて交通量が減っていたため良かったがそうでなければ大事故になっていた。


「もしもし、応答して。高崎くん、応答しなさい。

きゃっ!」


 応答がないままクレードルは反対車線を横切り、歩道を越えコンビニエンスストアに突っ込んだ。



「う、ううん」


 呻きながら早苗は目を覚ました。衝突の衝撃で意識が飛んでいたようだ。とは言えそれもほんのわずかな時間のはずだ。

 早苗は気力を振り絞り、シートベルトを外し後部座席から外へ出た。

 積み荷へひとしきり視線を走らせる。


 良かった。取り敢えず異常はなさそうだ。


 安堵の息を吐くと無線を開く。


「高崎くん、大丈夫?」


 相変わらず反応はなかった。


「湊くん。湊くん。返事をして」


 こちらも無反応。


「ガードアルファ。剣埼さん、聞こえる?

トラブル発生。クレードル1号車が事故を起こしました」

『ああ、こっちでも見てた。なにが起きたんだ?』

「分からない。すぐに来て」

『了解。

こちらもガードアルファ。

ブラボー、チャーリーはクレードル1号車に集まれ。

デルタはクレードル2号車の護衛だ。

ところで、最上課長。クレードル2号車はどうする?』

「2号車は先行させて。こっちはいつ復帰できるか見当もつかないから」

『了解。2号車先行。

デルタは先導せよ。連絡は絶やすな』


 早苗は二度ほど足を踏み外しそうになりながらもなんとか地上に降り立つと運転席に向かって走った。途中、車体中央の燃料電池の機関部のパネルで異常がないことを確認した。特に発火のような事故を引き起こしそうな異常が見られないことに心底ほっとした。


 これならすぐに復帰できるか


 そう思いつつ、前に向かって走った。

 早苗が前部運転席に着いた時には、剣埼たちの警備車3台も集まっていた。


 前部運転席はコンビニの2階に半分めり込んだ状態で止まっていた。


「どんな感じ?」


 早苗は肩で息をしながら剣埼に問いかけた。


「下から声をかけたけど応答がないので今、直接運転席を確認しようとしてます」


 顎で指し示す方を見ると警備(ガード)の一人が運転席のラッタルを上りきり、運転席のドアに手を掛けようとしているところだった。


バキン


 突然、ドアが内側から吹き飛んだ。


「えっ?!」

「なっ!」


 早苗と剣埼は同時に叫んでいた。その目前でドアとガードが宙を舞い、アスファルトの叩きつけられた。


ギギギギギ


 歯ぎしりのような軋み音とともに運転席からムカデの胴体のような節くれだったものが飛び出てきた。先端はハサミムシのようなハサミがあり、血まみれの高崎が挟まれていた。


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