④ 少し前は別の顔
「駄目ね。コマンドルームと全く連絡がつかない。大隊も同じ。
秋月さん。そちらはどう?」
長良葵はチーフオペレーターの秋月に尋ねる。
「こっちも駄目だ」
全面スクリーンの片隅に映し出されたフェイス画面の中で秋月も困惑したような表情で答えた。
「中隊のオペビークル間の通信は問題ないが、他は全て駄目だ。この状況から推察するにどうやら、DDがさっきだした妙なもののせいで俺たちは外界と隔離されたのじゃないかと思う」
「外界と隔離?」
「閉じ込められたってことかな」
「大隊長たちの飛天はどうなってるか分かる?」
「分からんが、大隊長たちのオペビークルは双美市から離れた位置にあったから、俺たちのように閉じ込められてはいないと思う。
逆の言い方をすると、そのせいで飛天とパイロットルーム間のリンクが切れて制御不能状態になってるだろうな」
「どうしょう?」
「それは、貴官が判断するのだよ。
今、この状況での最上位階級は君だ。長良1尉」
「なにか質の悪い詐欺にあった気分だわ……
いいでしょう。
じゃあ、まずは現任務SSIBの設置を完了させます。その後にコマンドルームとの連絡確保を考えます。秋月さん、それまで可能な限りの情報収集をお願いします」
「了解」
「こちらアオ。アオからワークホリックへ。
そちらの状況を教えて」
秋月との通信を打ちきると葵はSSIB設置班との回線を開いた。
「ね、結局あいつらって一体なんなの?」
ぼそりと碧が呟いた。誰もその質問に答えようとはしなかった。その場に居合わせた真一も双葉も答えを持ち合わせていなかった。勿論、碧も誰かが答えを持っているなどと期待はしていない。だから問いかけと言うより単なる独り言に近かった。
「どこから現れたの?」
碧は問いを繰り返した。と、それに答える声があった。
「わたし……」
双葉だった。
驚いたように碧が双葉の方を見る。真一も意外そうに顔を向けた。一方、双葉は両足を抱くように抱えたまま、焦点の定まらない視線をなにもない床へと投げかけていた。
「わたし、見ちゃったの」
そう言ったきり、再び黙りこくる。
「見ちゃったって……なにを?」
沈黙に耐えきれなくなり碧が双葉を促す。上擦ったかすれた声が緊張感を煽った。雰囲気だけで真一は少しずつ心拍数が上がるのを感じていた。
「さっきのわたしたちを追いかけてきたやつ。
わたし、あの化け物の前の顔を知ってるの」
「前の顔を知ってる……
前に顔を見たことがあるってこと?」
意味を問いただす碧に、双葉は小さく首を横に振った。
「違うの。違うの。
前に見たんじゃなくで、前を知ってる。つまり……化け物が化け物になる前の顔に見覚えがあるの」
「ごめん。意味が良くわかんない。
化け物が化け物になる前の顔って……
化け物の前は別のものだったってこと?」
碧の問いに今度はこくりと双葉はうなづいた。そして、吐き出すように一気に捲し立てた
「クラスの柿崎くんだった!」
「………… はっ?」
妙な間が開いて、ようやく碧はそう言った。
「クラスの男の子。柿崎くん!
最初見た時は、顔が左右に引き伸ばされた感じだったからちょっと自信がなかったけど。
気のせいとも思ったんだけど、逃げてる時に、はっきり見えたの」
「見えたってなにが?」
「あのね、柿崎くん、おでこにホクロがあったのよ。3つ横に並んでる変わったやつ。
それで、みんなからオリオンなんてあだ名で呼ばれてたんだけど、それがきっちりあったの。あの化け物のおでこに!」
「待ってよ。それ、単なる偶然とか、勘違いとか、そういうもんじゃないの。
じゃなけりゃ、あの化け物はもとは柿崎くんって男の子ってことになって……それってつまり、普通の人が化け物になっちゃったって……こと?」




