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① 百万回見た風景

 ドタン、ドタンとドアが跳ねる。

 双葉や碧、そして、眞菜が適当な板やら棒を持ってきてドアに押しつけ動かなくした。

 真一はそっとドアから離れる。ドアはまだ激しく叩かれていたがそれでも開くことも破られることもなさそうだった。

 ドアも壁も金属製で、かなり頑丈そうなので簡単に破壊されそうには見えない。避難設備だけあって無駄になんでも頑丈にできているようだった。それが、今はなによりも嬉しかった。


ガツン ガツン ガツン


 激しく叩かれるドアを双葉や碧たちが強張った表情で凝視していた。


ガツン ガン ガン ……


 音が止んだ。

 さっきまでが嘘のような静寂が訪れる。その急変ぶりがかえって不気味だった。


「ちょ、ちょっと、私たち、これからどうなっちゃうのよ」


 碧が真一の耳元で囁く。


「さぁ……分かんない。

とりあえず、あいつは諦めたみたいかな」

「こーいうのって、ホラー映画とかだとさ、なんだろう~って感じでドアに耳つけて向こうの様子を伺ったりしてると、突然ドアを破って腕とか出てきて殺られちゃうんだよね」

「ああ、あるある。百万回くらい見た」

「真一……確認してきてよ」

「あっ?」


 信じられないものを見るような目で真一は碧を見た。


「お前ね、わざわざそこまで話を振ってからそーいうこと言うかね?」

「えっ? だって気になるじゃん」

「なんないよ。 絶対行かねーから!

それより他に入口ないか調べるぞ」

「あー、それそれ!

安心してたら部屋の奥に入口があって、怪物がさ、もう侵入しちゃってるやつ!

私、百一万回ぐらい見たわ」

「だから、無駄にフラグ立てんなって!」


 真一は眞菜の方へと顔を向けた。


「鳥海さんも手伝ってくれるかな」

「眞菜で、いいです」

「えっ?」


 眞菜は顔を伏せる。耳が赤い。


「眞菜でいいです。その代わり私も真一って呼びます。嫌ですか」

「いや、そんなことは、ない、けど……」


 消え入りそうな声の眞菜に真一の心臓はばくばくと脈打った。この急展開は一体なんなんだろう、と狼狽える。


 名前を呼び合うってまるで恋人見たいじゃないか。


 心の中で雄叫びを上げたい気分になった。


 吊り橋効果か? 吊り橋効果なのか?

 いや、吊り橋効果だろうがなんだろうがこのままそれを利用して二人の仲を……


「あ、痛ぁ!」

  

 足を踏まれて真一は大声を上げた。


「あらっ、ごめんあっさーせ!

鼻の下長くしてたから思わず踏んじゃったわ」

「鼻の下長いからって足は踏まないだろ!」

「じゃあ、通路に突っ立てて邪魔だったからうっかり踏んじゃったわ」


 碧はふんと鼻息も荒く部屋の奥へと歩いていく。


「じゃあってなんだよ。いや、絶対わざとだろ!」


 真一は碧を追いかけようとして、踏みとどまった。くるりと双葉の方へ顔を向ける。

 

「双葉はここでドアを見張っていてくれ。ドアには絶対近づいたりしないこと、物音でも何でも変なことがあったらすぐにみんなを呼ぶんだ。一人で確かめようなんて絶対しないように。いいな」


 そう双葉に言い聞かせると、眞菜の方を向いた。


「えっと、眞菜……さん、は。俺と一緒に部屋の奥を調べてもらえるかな」

「はい、わかりました」


 おおう、()い!


 素直な眞菜の返事に、真一は心の中で雄叫びを上げていた。なんだ、天使か、と本気で思う。自然に、にやけた表情になる。と、通せんぼするように碧が仁王立ちしていた。


「一応、私も居るんですけどぉ↓」


 じとっと睨みつけて低い声で言う。しかし、今の真一にはどこ吹く風だ。


「ああ、うん。そうだね」


 半ば夢遊病者のような足取りで、その横を通り抜ける。眞菜がその後を少し恐縮したようについていく。


「あーー、もう、なんかムカつく」


 碧は唇を尖らせ、舌打ちをするとはガシガシ足を踏み鳴らしながら二人を追いかけた。


2021/06/13 初稿

2021/06/13 誤字修正

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