⑥ それは突然現れる
「停電復旧しないね」
床に座り込んだまま、双葉が物憂げに呟いた。
「そうだなぁ、もう1時間ぐらいになるかな」
真一は答えながら、DDが暴れている限り電気は復旧しないだろう、と思ったがそれは言わないでおいた。それは未だにDDが暴れているという意味だ。しかし、そんなことを言って双葉を不安にするつもりはなかった。
周りを見てみると、みな床に座り込んで黙り込んでいる。不安という海水に満たされた淀んだ海の底のようだ。
なんか、喉乾いちゃったね、と碧が言った。言われると確かに喉が乾いている気がしてきた。
「そうだね。とはいえ自販機なんかないからなぁ」
どうしたものかと思っていると、見慣れた人の集団を見かけた。相沢先生とクラスメートたちだ。眞菜の姿もあった。みな、段ボール箱を抱えて歩いていた。
真一はその集団に声をかけた。
「先生、なに運んでるんです?」
「ん? ああ、最上か。
なにって、水だ。ペットボトルの配給があったんだ。それを、みんなに手伝ってもらって運んでいる。
それよか、なんでもお前はこんなのところにいる?
この辺は中等部のエリアだろ」
「え、えっと、妹が心配で……」
「妹?」
すかさず双葉を二人の間に割って入ってきた。ペコリとお辞儀をする。
「私、最上双葉と申します。いつも兄がお世話になってます」
「おっ?! おお、そうか、最上の妹さんか」
「こんなことになって妹が怖がるといけないからついていたんです」
「ふむ。なるほどそう言うことなら一緒にいてやれ。箱からお前と妹さんの分のペットボトルを持っていけ」
「わっ、やった!」
双葉はピョコンと跳ねて全身で喜びを表す。
先生の背後から可愛い、という小さな声が上がる。ちらりと見ると、女子たちが双葉を見て、笑っていた。その中に眞菜もいた。眞菜も小動物を愛玩するような視線を向けていた。と、彼女が突然視線を真一に向ける。一瞬視線が絡み合う。そして、眞菜はふわりと笑った。
真一の心臓が跳び跳ねた。
慌てて顔をうつむかせて、視線を外した。
「はい、はい! わたしも、わたしも。ペットボトルください」
テンパる真一を尻目に、碧が手を上げ大声で叫んだ。
「なんだ、柳、何でお前もいるんだ?」
「えっ? なんでだろ……
強いていうなら最上くんの付き添い?」
「……わけがわからん」
「そんなことはどうでもいいですから、私の分も一本分けてくださいよぉ」
「あん? お前の分は、自分のクラスの配給分からとれ」
「えーー、そこをなんとか。戻ったら私の分を持っていっていいですから」
「仕方ないな。分かった。持ってけ」
「わい! やった」
双葉とほとんど同じリアクション。まるで本当の姉妹のようだな、と真一は碧を横目で見て思った。
「よし、じゃあ、俺たちは戻るぞ」
相沢先生の号令でクラスメートたちは一斉に歩き始めた。その中には勿論眞菜も含まれた。
眞菜はなぜか視線を真一に向けたまま、ゆっくりと横を通りすぎていく。ねっとりとした視線を感じながら、真一は顔を上げることができなかった。心臓が早鐘のように鳴り響いた。
その時だ。避難所に悲鳴が響き渡った。




