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③ 閉じる空

 DDが電波塔を上っていく。


 飛天の全天スクリーンの一角に映し出した、ワンこと、怜奈のモニタ画面を見ながら、なんで怪物や怪獣というものは高いところに上りたがるのかと不思議に思った。


『なに? あいつの体からなにか出てない?』


 怜奈の緊迫した声がスピーカから流れてきた。その声に葵は物思いから現実に引き戻される。画面に目を凝らすと確かになにか細い糸状のものがDDの体からゆらゆらと空に向かって立ち上っているのが見えた。


『ワンよりコマンドルームへ。

あれが見える? なんなのあれは?

攻撃した方が良くない?』


 戸惑ったような怜奈の声が続く。確かに判断に迷う。


「こちらアオ。アオから仕事中毒者(ワークホリック)アルファへ。聞こえますか?」


 ワークホリックとはSSIB設置部隊のコードネームであり、アルファはその指揮チームであった。


「こちらアルファ。聞こえます」


 少し間が開いて、返答がきた。


「SSIBの設置状況を教えて」

「……後、30分はかかります」

「巻いてちょうだい」

「今でも巻きまくって30分なんですよ」

「そんなことは分かってるわ。でも、それ以上に巻いて。なにか変なことが起こっている」

「変なこと……?

変なことってなんですか」

「変なことは変なことよ。なにが起きているか正確なことは分からないわ。でも、なにか相当悪いことが起きそうなの。だから一刻も早く設置を完了して。以上!」


 通信を一方的に打ち切ると、すぐに麻衣たちとの通話を開く。

 

「麻衣、いすず、見てる?

なにかやばいことが起きそうよ」

「うん、見てるよ。なんだろ、あれ」

「分かんない。けど、警戒。なにがあってもここを守るわよ」


 そう、二人に発破をかけた瞬間だった。

 ワンからの画像がふっと真っ黒になった。


「また、なの?」


 また電子機器無効化結界が発動したのかと思った。だが、摩耶たち、コマンドルームの通信も切断されていることにすぐに気づいた。

 コマンドルームとの接続は飛天のリモートコントロールと同じMMSCM、転送データを多層次元に拡散して通信する多層膜拡散変調通信と呼ばれる技術を使っていた。複数次元膜にデータを分散して通信をするため、例え、どこかの次元膜のデータがなんらかの障害で欠落しても他の次元膜のデータが欠落データを補完して修復される。そのため、電磁ノイズは言うに及ばず、距離や障害物など理論上あらゆる障害に強い耐性を持っていた。だから、システム自体がダウンするでもしなければ通信が切断されるなどということは考えられなかった。

 で、あるのに現実は切断されている。


「こちらアオ。コマンドルーム、応答願います。

こちらアオ。コマンドルーム……」


 まるで手応えがなかった。


「ねっ、空、見て。空が閉じるよ!」


 いすずの声にうながされ空を見上げた葵は言葉を失う。

 そこには見慣れた青空ではなく真っ白なものに覆われていた。雲でもない。もっとずっと低い位置だ。その得体の知れない白い物質、物質と言って良いだろうか?、が空一面を覆っているのだ。いすずの空が閉じる、と言う表現はまさにぴったりな形容だった。


「……一体なにが起こってるの?」

 

 今日、何度この言葉を呟くのだろうか、と葵は頭の片隅で語彙の乏しさに苦笑いをする。

 しかし、そうは思いながらも、やはりそう呟くしか今の葵にはできなかった。

 

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