② 微かな希望?
「大隊予備を?」
「そうです。5機あります。それをすべて現場に寄越してください」
「それは良いけど、まさかまたリンクするつもり?」
「そうです、完全に戦力がなくなってしまってます。このままではDDが出てきたら対応できないです。すぐに戦力を整えるべきです」
「それは、まあ、そうなんだけど……
あなた自身は大丈夫なの。三度の想定外切断は相当の負担のはずよ」
「ふふん。全然平気」
怜奈は口角を上げ、不敵な笑みを演出したが、その真っ白の顔色と額に粘りついた脂汗を摩耶が見逃すことはなかった。怜奈の背中越しに映っている白樺小百合衛生士に目を向ける。
「白樺1尉、鈴谷1佐はこういってるけど、本当のところはどうなの? 意見を聞かせて」
「大丈夫よね、小百合!」
「1佐、あなたは黙りなさい。白樺衛生士、答えて!」
怜奈に睨まれた小百合は蛇に睨まれた蛙のようであったが、意を決して答えた。
「服務規定では、アクシデンタルカットオフが発生した場合、直ちに当該レヴネーセス搭乗者はメディカルチェックを受けることになっており、かつ、異常が有る無しに関わらず、10時間のクールダウン期間を設けることになっております」
その言葉に怜奈は猛然と反論をした。
「なにをそんな悠長なことをいってるのよ。
本人が大丈夫だっていっているんだから大丈夫よ。
メディカルチェックもクールダウンも必要ないわ!」
「しかし……」
「しかし、じゃない。私は断固拒否するわ。
それよりは早く予備の飛天を手配してください」
「駄目よ、メディカルチェックもクールダウンも貴重なレヴネーセス適応者を守るための大切な規則よ。あなたの意見で曲がるものではないわ」
「でも!」
「でも、じゃない! これは命令です」
摩耶の高圧的な言葉にさすがに怜奈も開いた口をぐっと閉じた。それを見て、摩耶は少し表情を和らげる。
「そんな顔をしなさんな。予備の飛天は手配するわ。手配するにしても、そんなに簡単にはいかないから。準備に5時間、移動に10時間ぐらいはかかるから、その間にメディカルチェックを受けて、ゆっくり休みなさい。
良いわね」
怜奈との会話を打ち切ると、摩耶は近くに待機していた美琴へ目を向けた。
「と言うことで、予備の飛天手配をお願い。
それから、あのコクーンってやらの周囲を警戒する部隊も調達して」
「了解。
それは良いとして、虎の子の特務大隊が全滅となると東部か西部戦闘団に支援要請をした方が良いのじゃないの」
「う~ん、余り気が進まないなあ」
眉間にシワを寄せ、摩耶は情けない顔を見せた。それを見て、美琴はふっと笑う。
「気持ちは分かるけどね。
あれがカテゴリー5だとしたら人類が初めて遭遇した敵よ。だれもあなたを責めることできないわ。今は優先すべきは、打てる手は全て打つことよ」
「ふう、そうね」
摩耶は恨めしそうにじっとコクーンを見つめる。そして、ふと思い出したように呟いた。
「あの中の飛天はどうなってるのかな」
「どうって、オペレートビーグルのリモート制御ができないから完全な鉄屑でしょ。飛天は鉄じゃないけど……」
「じゃあさ、O.V.ごと閉じ込められたならどうなるのかな」
「O.V.ごと……
それって葵たちのこと?」
美琴の問いに摩耶はこくりとうなづく。
「そうよ。葵たちはO.V.ごとコクーンに閉じ込められた。それでね、あのコクーンを破壊できないのならコクーンの中のDDに私たちは手を出すことができない。でも、逆の言い方をすると中に居る存在ならDDを倒せるじゃないかな。
それで中のDDが倒れたら、あのコクーンはどうなるんだろう?」




