① それらは破壊できない
「コクーン……
それは一体なに?
知らないのは私の勉強不足のせいかしら?」
「極秘事項、といいますか、それ以前に良く分かっていないために展開できる情報がないと言うべきですかね。
一年ほど前、中欧のある村付近にカテゴリー3が現れた時のことです。初動の迎撃に失敗した後、部隊を再編し現場に戻ったのですがDDの姿はなく、村の一角にこのようなものがありました」
妙高山参謀はタブレットを摩耶に見せた。それには白いお椀を逆さにしたようなものが映っていた。
「直径およそ500メートル。村の公民館がすっぽり覆われていました」
「規模は違うけど、色や形状は似てるわね。一体何でできてるの?」
妙高山は首を横に振る。
「構成物質がなんなのか分かっていません。
分光計やあらゆる化学物質に不活性。強度も常軌を逸した代物で、サンプル回収もままなりません。
MDFが物質化したものだと主張する科学者もいます」
「それがコクーンってことね。
中は一体どうなってるの?」
「それもわかりません。このコクーン、地面に対してほぼ面対称な形状が地下にも伸びています。つまり、一つの閉じた空間なのです。
コクーンは先の事例以外に数例しか見つかっていません。
実はコクーンの発生にDDが関わっているだろうと推定されていましたが、DDがコクーンを発生させているのを初めて捉えたのはついさっきのあの映像なのです」
「世界初なのに全然嬉しくないわ」
「つまり、コクーンに関してはその役割も対処方法もなにも分かっていないのです」
「破壊、壊す方法はないの?」
「ほんの微少の粉末のサンプルすら手に入れれない状況です」
「つまり、破壊は不可能だと?」
「今のところは、yesです」
摩耶は若葉の報へ顔を向けた。
「双美市内とは連絡はつかないの?」
「駄目です。有線も無線も全て繋がりません」
若葉の言葉に妙高山は落ち着いた声で補足をする。
「有線は物理的に断線。
無線も飛天の多層膜拡散通信ですら障害を受けるのですから他の方式では全く通らないでしょうね」
摩耶は大きく息を吐いた。
「いいわ。一度、状況を整理しましょう」
顔を上げ、正面の大スクリーンに目を向ける。
「あれがコクーンだと仮定した場合、あれは完全に双美市内を覆っていると言って良い?」
「はい、直径およそ10キロメートル。双美市内を完全に覆っています」
「32特務大隊の飛天は全て中に取り込まれたのね」
「はい。コクーン生成前に健在であったワン、カナ、リー、モモ、ハナの5機。およびSSIB設置支援にあたっていたアオ、ヒメ、スズの3機。合計8機、全てコクーン内に閉じ込められています」
「言い方を変えると全滅ってことよね」
「とは、限らない」
考え悩む摩耶に声が割って入ってきた。
怜奈だ。
ワンのオペレータールームのモニターに青い顔をした怜奈が映っていた。
「怜奈、あなた外に出たの?」
「ええ、リンクできない以上、リンケージルームに籠っていてもしかたないですから。
それよりは大隊予備の飛天を輸送してください」
2021/05/16 初稿




