⑦ 避難模様色々
避難設備は学園の敷地内の地下にあった。
避難前の簡単な説明だと、一辺150メートルの大広間が4区画。1区画で1万人収容できる設計だそうだ。
思いの外長い階段を下りて、たどり着いた広間は一言でいうなら地下駐車場だ。
天井の高さは6メートルほどで、白色LED灯が規則正しく並んでいた。同じように等間隔に金属の太い柱が床から伸び天井を支えている。
床はざらざらとしたむき出しのコンクリートで、全体的に薄暗く、寒々としている。空気も淀んでカビ臭かった。
床には白文字でアルファベットと数字が書かいてあることに真一は気がついた。
訳もわからず連れていかれた場所は『C3』。広間のほぼ中央に位置する。どうやらそこが真一たちのクラスにあてがわれた場所と言うことらしい。
真一は無意識に眞菜の姿を探していた。
数メートル離れた所に、親しい二人の友達と並んで眞菜は立ちすくんでいるようだった。いつもは薔薇のような頬も青白く見えるのは単に薄暗い照明のせいばかりではないのだろう。
真一は今度は自分から声をかけるべきか悩んだ。正直、かけたくともその勇気も話題もない。できれば悠哉からの情報を話題にしたかったが、その頼みの綱のメールも先程の”ヤバい”以降、ぷっつりと来なくなっていた。
「また~見て~る~」
「うわっ!? びっくりした!!」
背後からの声に真一は飛び上がった。
「あははは、なにその、カエルが熱湯から飛び出たようなリアクションは」
碧がケタケタと笑う。
「背後から話しかけるのは止めてくれよ」
「いや、無防備過ぎるのでついね」
「つい、じゃないよ。なんの用だよ?!」
「えーー、つれないなぁ……
真一たちはここの位置なんだぁ。
私たちのクラスはB4だよ。あそこ」
と、言いながら碧は斜め後ろを指差した。
「それで」と真一の砲に向き直る。
「んっとね……、ほら、悠哉が心配でさ。
”ヤバい”ってメールが来てから、ずっと音信不通なんだよね」
碧の言葉に真一もうなづいた。
「確かに心配はしているんだ。DD倒したっていってたのに、次が”ヤバい”ってなって。
その後メールしても返信がこないし、避難命令でるし。
わけわかんないよ」
「それね。色々ネットを調べたんだけど、どうもDDが2体出たんだって」
「2体? そうか、最初の1体を倒したら2体目が出てきて、それで”ヤバい”っていってきたのか」
「その2体目がかなり厄介らしいの、それでね……
えっ、なに!? なに、地震?」
「うん。揺れてるね。でも、大したことないよ。ほら、おさまった」
「……そうだね。
でも、DDとか地震とかなんか嫌な感じね」
さすがの碧も、立て続けに起きる出来事に不安を感じるのか、居心地悪そうに辺りを見回した。
「2号車準備できた?」
早苗は、クレードル1号車のコックピットの助手席から無線で2号車に問いかけた。
『2号車準備よし』
「了解。では、出……、地震?」
「……ですね。でも、もう止まりましたよ」
運転手がそう言った時、遠くの方で爆発音がした。
「今度はなに?」
戸惑う早苗に、無線連絡が入った。
『双美市内西地区にDDが侵入した模様』
「なんですって? 自衛隊は何をやってたのよ」
『DDを回避しつつ、至急脱出してください』
言われたことを喋ってるだけです、という顔も名前も知らない無線機の相手に、なにを当たり前のことを仰々しく命令してるのかしら、と早苗は心の中で毒づくが、めんどくさいので、了解とだけ言って無線を切った。
「ルートどうしますか?」
「当初のプラン通りでいいわ。ルート33を通って全速で離脱よ。
2号車、聞こえる? プランA。ルート33を通って離脱。分かった?」
『……2号車、了解』
「さあ、出してちょうだい」
早苗の命令で2台のクレードルはゆっくりと動き始めた。




