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④ 世界は今、相転移する

 午前中の授業はいつものように退屈だった。

 出来事が少し変わっても昨日と今日を入れ換えてもなにも困らない。相互互換性のある日常。

 何を嵌めてもかまわないジグソーパズルをやらされている、真一はたまにそう感じることがあった。そんなものになんの意味があるのだろうと思うことも多かった。

 目の前にある作りかけのジグソーパズルをクチャクチャに壊して高笑いをする。

 本当にそんなことができたら楽しいだろうなと妄想することもあった。だか、繰り返される平穏な日々というものが、どれ程贅沢であったかということを、真一はすぐに思い知らされることになる。


 始まりは昼休憩の時に送られてきた悠哉からのメールだった。


”DDでたよ!”


 悠哉からのものだった。文面に動画がついていた。

 動画を開いてみる。どこかのビルの屋上から撮ったような動画だった。

 やっぱり目立つのは双美山で、最初何を撮っているのか良くわからなかった。目を凝らしてみると、豆粒ぐらいの白いものが動いているののようやく気づいた。


 これがDD?


 真一は少し拍子抜けした。


 ”もっとましなの送れ”、そう書いて送ろうとしたその瞬間、ボーンという爆発音がした。


 「わっ、ビルが!」と言う、誰かの悲鳴が教室に響いた。振り向くと、何人ものクラスメートが窓際に群がっていた。眞菜の姿もあった。

 真一は、さりげなく眞菜の近くの、しかし、少し離れた男子の一群の背後から外をうかがう。しかし、煙が出ているのが見えるだけで今一つ何が起きたのか分からなかった。

 携帯が震える。見るとメールが届いていた。悠哉からだ。


”ビル壊れた”


 やはり動画が付いていた。

 開いてみる。

 やはり、双美山周辺の遠景から始まっていた。山の中腹から突然目映い光が発せられる。フレームが慌てたようにぶれながら動き、ビルを映し出す。

 屋上が半分に引き裂かれ、崩落していくビル。砕けたガラスがキラキラと反射していた。

 まるでスペクタクル映画のワンシーンのようだったが、そのビルには見覚えがあった。自分の見知ったビル、それが真一にこれが作り物の話ではなく、自分たちの現実であることを雄弁に物語っていた。


「ごめんなさい。それ、もしかして今の事故の映像?」


 澄んだ声に顔を上げるとそこに眞菜の顔があり、真一の心臓はビクンと跳ねた。


「えっ、ああ、そうだよ」

「もう、アップされているの。

えっと、最初から見せてもらえないかな」

「あ、うん。いいよ」


 真一はもう一度、再生ボタンを押す。眞菜は真一の横に寄り添うように体を寄せると動画を食い入るように見つめる。


「なんで……こんなことが」


 眞菜の口から言葉がこぼれ落ちる。


「DDの仕業らしいよ。ついさっきDDが現れたらしい」

「えっ? DDって、あのDD?」


 眞菜は驚いたように聞き返してきた。真一は曖昧な笑みを浮かべながらうなづいた。


「えっ、なになに、さっきの事故の動画?」

「おいおい、DDが出たのかよ。どこに出たんだよ」

「いやー、こわーい~」


 眞菜との会話を聞きつけて、みんなが好き勝手なことを言いながら寄ってきた。


「うん、双美山に出たみたいだ」、「大丈夫だよ、自衛隊が来てるらしい」、などと真一は持っている乏しい知識を総動員してみんなに説明をする。例え、乏しくとも、今のみんなを自分は一歩リードしているという優越感に真一の心は踊った。

 

《双美山にDDが出現しました。

現在、双美市内全域に避難準備が発令しています。

全学生はすべての活動を直ちに中止して1次避難をしてください。

1次避難場所は中等部、高等部の学生は各教室。

大学部は各学部の講堂となります。

繰り返します……》


 みんなでワイワイやっていると校内放送が流れてきた。ほぼ同時に担任の相沢(あいざわ)桂太(けいた)先生がやって来た。


「点呼取るぞ。席につけ~」

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