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超弦天使 レヴァネーセス ~ 夏に降る雪  作者: 風風風虱
epic 1 デーモンスレイヤー
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③ 天使は舞い降りたか?

 葵達の画面が消えるのと入れ替わりに別の画面が立ち上る。

 自分が乗っているトレーラー内のコントロールルーム、そして、オペレートクルー達の姿が映し出された。

 

「それじゃあ、お姫様、舞踏会の準備を始めましょうか」


 髭面の男が軽口を叩いたが、麻衣は特に言葉を返すでもなく、ただ小さくうなづくだけだった。それでも、それがいつものルーティーンだとばかりに、チーフオペレーターの秋月(あきづき)曹長は気にも止めずに作業を続行する。


「起動シークエンス開始

バイタルチェック」 

「……クリア」

「カラビ-ヤウ空間(スペース) 伸長開始」

「10 …… 20 …… 30 …… 安定化(ステーブル)

「ブレーン 固定(フィックス) 確認」

「超重力子井戸 汲み上げ(レヴァレージング) 開始」

「出力 10% …… 20% …… 40% …… 80% …… 最大出力 オールクリア」

「ヒメ、準備はいいか?」


 秋月はインターカムに向かい麻衣に問いかける。ヒメとは麻衣のTACネームだ。


「いつでも」


 いつも通りの素っ気ない返事を麻衣が返すと、座っていたシートの背もたれがズズズッと倒れはじめた。

 麻衣は力を抜き、シートに背中を預け、両手、両足を少し開いて定位置へ持っていく。

 ガチンという音とともに両手、両足の関節が固定される。「拘束(バインド)!」という声がオペレーターから聞こえた。続いて、足の付け根、下腹部、胸、肩、頭部が装着しているコテクティングスーツとヘルメットを介してガッチリとシートに拘束される。もう、首ひとつ満足に回せない状態だ。

 オペレーターの声は続く。


「シナプス 接続(リンケージ)

「リンケージ

レート 83.4はちじゅうさんてんよん クリア!」

「レート調整」

「レート調整 50.1 クリア!」


 秋月は再びインターカムに、すなわち麻衣に向かって言う。


「ヒメ マイクテスト」

「本日は晴天なり

隣の客は良く柿食う客だ」

「ヒメはそれきゃないねぇ」


 シナプスリンクが麻衣の声帯領域の神経パルスを拾って電気変換したものがオペレータールームのスピーカーから聞こえてきた。

 「クリア」と言いながら、相変わらない麻衣のセリフに秋月は苦笑する。いすずなどは、毎回違うセリフを喋るとか言っていた。聞いてもみたいが、聞いたこともないスイーツの名前を聞かされても胸焼けするだけかとも思った。秋月曹長は甘いものが苦手だった。

 秋月は隣に座る人物へ目で合図する。白須(しらす)露子(つゆこ)1曹。技術医官でもある。白須1曹はコンソールに表示される麻衣のバイタルデータを真剣な眼差しでチェックする。


「バイタルチェック オールクリア

ノルゾアベバム 0.2mg 注入(インジェクション)


 白須の声が聞こえるとすぐに麻衣は左鎖骨付近にチクリと痛みを覚えた。

 シナプスリンクの伝達率を上げるための神経伝達増強剤。これがエンジェル、レヴァネーセスのパイロットたちにはすこぶる評判が悪かった。痛みは大したことはない。あっという間もなく消えてしまう。しかし、その後に全身を氷の塊が通りすぎるような悪寒と落下するような感覚がどうにも嫌がられている、らしい。

 だが……

 

 私は嫌いじゃない


 と麻衣はいつも思う。

 静かに海の奥底に沈んでいくようなこの感覚が嫌いではなかった。勿論、誰にも話したことはない。話せば間違いなく変人扱いされるからだ。


 きっと私はどこかおかしいのだろう


 静かにゆっくり沈んでいく感覚に溺れながら麻衣はぼんやりと考えた。

 しかし、それも刹那でしかない。

 秋月の声が麻衣を現実に引き戻した。


荷台展開(キャリアエクステンド)

3式機動歩兵 飛天(ひてん) 起動!」

荷台展開(キャリアエクステンド)

了解 飛天 0320303まるさんにぃまるさんまるさん ヒメ 起動します!」


 大型トレーラー、通称 クレードルに乗せられた飛天が一瞬淡い光を放つ。と、同時にキャリーの架台がするすると伸び、全長25メートルほどのトレーラーは一気に倍の長さに伸長する。

 麻衣はゆっくりと手足を伸ばす。

 実際のところ手足はシートに完全に固定されているためほとんど動かせない。だから、体を動かすイメージだけだ。だが、そのイメージはシナプスリンクを通してトレーラーに積まれた飛天に伝達される。

 人型機動兵器、飛天。

 人型と呼称されるだけあって麻衣と同じように手足を持っている。今の今まで子宮で眠る赤子のように丸まった姿でクレドールに載せられていた。それが、麻衣の動きに連動してその両手、両足をゆっくりと伸ばし始めていた。

 飛天の足首が丁度伸ばしたトレーラーの荷台の端に付いた。


保持(リテンション)!」


 モニターで飛天の手足が伸びきるのを確認すると秋月は命じた。

 荷台に装備された鋼鉄のアームが飛天の脚と腕を掴む。

 麻衣は両手首、足首をなにかに掴まれる感触を覚えた。飛天の外装センサを介してリンケージされたもたらされた偽りの()()だ。


両足保持(レッグスリテンション) 固定(ロック)! 

両腕保持(アームズリテンション) 固定(ロック)!」

「良し! 荷台起こせ(ジャッキアップ)!」


 荷台がゆっくりと立ち上がる。

 麻衣はまぶたをあける(イメージをする)と天球モニタに飛天の周辺が投影される。既にほとんど垂直に起き上がっていた。

 麻衣は視線で各種サブスクリーンを移動させながら飛天の状況を素早く確認する。


「出力 安定 

リンクレート 正常

フィードバックレート 正常

オールクリア」

「バイタルチェック クリア!」


 麻衣と露子がほとんど同時に宣言する。


「了解 保持解除(リテンションフリー)

保持解除(リテンションフリー)!」


 保持が外れて飛天は荷台を滑り降りる。

 麻衣は両足に地面を感じる。

 高々2メートルであったが、身長40メートルの人、いや天使が魔物を狩るために、今、地上に舞い降りた。


2021/04/04

2021/07/18 衛生士→技術医官

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