⑤ 飛天に咲く百合
カシューン
カシューン
カシューン
アスファルトを踏み砕きながら真っ赤な飛天が猛然と走り寄る。
金色の肩の装甲がキラキラと太陽光を反射する。通称GS。大隊長機のユニークカラーリング、すなわち玲奈の飛天、ワンであった。
ワンは腰の鉈を引き抜くと、ハナを押し潰そうとしている爪の一つに叩きおろした。
ブン!
干渉膜が煌めく。
ダメージは与えられないが、ハチェットの圧に押され爪の力の向きが僅かに反れた。だが、その力の乱れでハナを包み込んでいた干渉膜の綻びが生じる。ワンの手が伸び、干渉膜の中からハナを引きずりだした。
ハナを抱きかかえ、心配そうに様子を伺うように見つめるワンの姿がスクリーン一杯に映し出されいた。
その姿に風花は頬を染め、熱いため息をもらした。
「だ、大隊長……」
感動で言葉が出ない。
次の瞬間。
「うぎゃ」
ワンに後方に放り投げられ、風花ははしたない声を上げた。
ワンはワンで、それ自体が一つの生き物のようにグネグネと複雑な動きをしながら再び襲いかかってくる爪をバックステップでかわすのに忙しかった。
「大隊長、ヒドイ……」
地面にひれ伏し、なぜかしなを作り身悶えるハナを尻目に、ワンは襲いかかってきた爪をハチェットで弾き返す。
「えっ? なんだって? よく聞こえなかった」
聞き返す玲奈に風花はふるふると首をふった。
「……いえ、なんでもありません」
ガキン!
再び襲ってくる爪を玲奈は叩き落とす。
「とりあえず風花はFCが復活するまで後方からのサポートに回って」
「……はい」
ガックリ肩を落として、後方に去っていく風花を背景に玲奈は次々と襲いくる爪をハチェットで捌きながら指示を飛ばす。
「早希! 櫻! 回り込んで」
左右から襲いかかる爪を紙一重で避ける。
この伸びる爪、意外とうざい。
ビルの影から湾曲して伸びてくる爪は予測が難しい。かつ、こちらからは攻撃できない。
「ワン! 爪、左から来ます」
若葉の声。少し遅れてピッピッと接近警告がなる。
ブゥン
ハチェットで爪を叩き落とす。
「ワン! 続けて上から爪2つ!」
バックステップで後方に飛びすさる。と、ほんの一瞬までいた場所に上から爪が2本突き刺さる。
コマンドルームからのナビがなければ、こうは反応できないな
ポケットから手榴弾を取り出すと高層ビルの上に放り投げる。続けてもう一つ。
放り投げられた手榴弾は高層ビルの上を越える。数秒の間が開いた後、爆発音が響いた。
「手榴弾、《0020》に着弾!」
まあ、全部フィルムで無効化されてるでしょうけどね、と若葉の報告を聞きながら玲奈は思った。
「ニャン、射線クリア!」
「射線クリアになり次第、各自の判断で射撃して!」
「了解」
「こちらモモ。FS弾なくなりました。市街地でHE弾使って良いですか?」
「使用許可!
SSIB設置エリアに近づけないことを最優先にして!」
「チェリー、視線クリア。ファイア!」
高層ビルの裏側から激しい閃光と爆発音がしてきた。
「ニャン ファイア!」
「モモ ファイア!」
立て続けに爆音が響き渡る。あれほど執拗だった爪の攻撃がパタリと止んで、ようやくタクティカルパネルへ目を向ける余裕ができた。
タクティカルマップを見ると、モモ、ニャン、チェリーが《0020》を3方向から包囲していた。
スカウターからの映像に目を向ける。
モモ、ニャン、チェリーの攻撃が散発的に《0020》を捉えるが、全てがフィルタに防がれていた。
「むぅ……」
玲奈は眉をひそめ、《0020》の頭部を注視する。キラキラとした光の粒子が現れ始めていた。
「光学兵器! 回避ッー!!」
玲奈が大声で叫ぶのと《0020》が周囲に向かって光学兵器を発射したのはほとんど同時だった。




