⑥ SSIB
「FJ4支援戦闘機 更和基地発進
現地到着時刻1528」
「MOPポインティング 確度54
スーパーファイアフライ 時間差で順次発射
発射後は移動せよ
誘導はこちらで引き受ける
敵の光学兵器の射線に決して入るな!」
無線上に支援航空機隊への指示や戦闘ヘリにより遠距離ミサイル攻撃を指示する如月1尉の声がせわしく行き交う。
「ファイヤフライ 発射準備。
MOPデータ 入力 発射!」
戦闘ヘリ、ストリクスからミサイルが打ち出される。
ずりずりと蛇体を滑らせながら進み続けていた《0020》が不意に上半身を回してほぼ真後ろを向く。右目周辺に粒子が現れ、一瞬明滅する。ほぼ同時に遠方で小さな火球が生じて消えた。
ストリクスの横を《0020》の光学兵器がかすめる。その衝撃波でヘリが前後左右に激しく揺れる。ヘリのパイロットは歯を食い縛りながら、ヘリを懸命に制御しながら悪態をつく。
「くそっ! 20キロも離れてるのに見えてるのかよ。撃ったとたんに迎撃してやがる」
「ミサイル 迎撃!
ダメです。単発攻撃は完全に迎撃されます」
「いいのよ。迎撃に気をとられて少しでも遅くなればいいの。続けて!」
如月加奈子の泣きそうな声を怜奈は一蹴する。そして、飛天を走らせる。
ジャギーン
ジャギーン
ジャギーン
赤い飛天5機と黄色の飛天1機が山腹を土塊を巻き上げながら疾走する。かなり離れたところ、木々の隙間に《0020》の姿が見え隠れしていた。その横を6機の飛天はわき目ふらず通りすぎた。
「ワン 以下 5機の飛天 《0020》を追い抜きました。
双美市外縁到達予定時刻 1524
《0020》双美市まで後9キロ。およそ15分で外縁部に到達します」
「爆撃間に合う?」
「ぎりぎり。市外での爆撃になります。
ただ、問題は……」
摩耶の質問に衣笠は言い淀む。
何が言いたいかは分かる。遅滞爆撃はしょせん遅滞爆撃。《0020》を倒す決定力にはなり得ない。今、移動中の怜奈たちも同様だ。
「分かっている。でも、今は時間が必要よ。
双美市内の避難状況はどう?」
「市内全域に避難命令発令。
最寄りの地下避難壕に誘導中です。
全市民が避難するのに1時間はかかります」
「1時間……」
このままだと後、10分もすれば《0020》は市内外縁部に到達する。遅滞爆撃で稼げる時間はせいぜい10分から良くて20分というところか。残りの30分以上を怜奈たちの飛天に頑張ってもらう計算になるが……
とても現実解とは思えなかった。
「SSIBを使うことを進言します」
その言葉に摩耶はぎょっとした表情を妙高山に向けた。妙高山はその視線を眉ひとつ動かさず受け止める。
「もともとSSIBは来るべきカテゴリー5との戦いのために開発されたものです。今、この状況でなんで使うことをためらうことがありますか」
超空間爆縮弾。
指向性空間爆裂弾を使って空間そのものを圧縮する新型爆弾。理論上無限大の威力を発揮できる。対DD戦の切り札といわれていた。
「でも、SSIBはまだ実験段階でしょう?」
「3次元爆縮は実験段階ですが2次元、つまり平面爆縮ならば既に実用レベルです。
これを見てください」
妙高山がパネルを操作すると第3スクリーンに線画のシミュレーション画面が映し出された。フレームで表現された《0020》を8個の小さな球体が囲んでいた。8個の球体が同時に破裂すると、球をつなぐ円が形成され、それが中心の《0020》の向かって小さくなっていくアニメーションが表示される。
「あの8個の球がSSIBです。地上20メートルにSSIBを設置して、その中心に《0020》を誘きよせるのです」
「地上20メートルの位置に設置するってどうやって? SSIBを浮かべるわけにはいかないでしょう。SSIBの設置には数センチの位置精度がいるのでしょう。まさか飛天に持たせる訳にはいかないわ」
妙高山の提案に摩耶は難色を示した。
SSIBの難点は、その複数個の空間爆裂弾を数センチの精度で設置しなくてはならないことだった。その為、動く相手に使うのは難しかった。
「地上20メートルはおよそ6階建てのビルぐらいです。双美市中心部ならそのぐらいのビルは至る所にあります」
妙高山が再びパネルを操作すると、スクリーンにフレームワークのビル街が浮き上がった。
「まさか、SSIBを市内中心部で使うっていうの?」
「そうです。
双美市中心、エリア41ポイントです」
妙高山が三度パネルを操作するとフレームワークであったビル街は実在のビル街の映像に切り替わった。
2021/04/18




