⑤ SCAOの予言
「ワン システム再起動 完了
シナプスリンク 再接続 レート 75.7
調整 49.8」
叢雲オペレーターの声とともに怜奈のモニタ画面が回復した。
「怜奈、怜奈、聞こえる?
大丈夫なの? 一体何があったの?」
摩耶は、少し白い顔の怜奈に問いかける。しかし、怜奈の反応は鈍い。微かに首を横に振ると答えた。
「私の方が聞きたいわ。突然、リンクが切れた。
うう、気持ち悪い。体も動かそうとすると痛む」
「シナプスリンクのアクシデンタルカットオフで神経節過敏症を起こしてます。
ステルチン 0.5mg
ペンタゾハム 0.1mg を投与します」
衛生士、白樺小百合1尉はコンソールを操作する。首筋にチクリと感じた痛みを無視するように怜奈はスクリーンに広がる光景に目を見張る。
緑や黄色い飛天の手や足、頭部がバラバラに引きちぎられて散乱していた。さながら猟奇殺人の現場のように見えた。
「なによ。どうなってるの?」
「ムン システムエラー 再起動失敗」
「カワチャン ジンク タマ システムエラー! 再起動できません」
怜奈の呆然とした声にオペレーターたちの慌てたような声が被った。
摩耶はじっと大隊員のモニタ画面を見つめる。怜奈のように再起動に成功した飛天は画面が復帰し、美佐緒たちのように再起動できない飛天は黒い画面のまま。それは多分、破壊されたと言うことだ。
結局、第2中隊の美佐緒、そして第4中隊は全ての画面が復帰することがなかった。
「ムン、カワチャン、ジンク、タマの破壊を確認。
第32特務大隊 残存兵力 8機」
双美市内の第3中隊の3機を合わせて11機の飛天。戦闘ヘリ、ストリクス12機。それが今の手持ちの兵力全て。どう戦況を立て直そうか思案していると傍らに人の気配を感じ、振り向く。そこには妙高山参謀が立っていた。丁寧にオールバックにまとめた髪と痩せた体格。そして、銀色のメタルフレームのメガネがいかにも情報畑出身という雰囲気を醸し出していた。
「どうやらあれはSCAOが予言したカテゴリー5ではないでしょうか」
「カテゴリー5? まさか、あれはあくまで可能性の話であって、実在するなんて……」
「SCAOの予言を街角の占い師の与太話と一緒と考えるべきではないですよ。
SCAOがはじき出した予測は、緻密かつ膨大な演算の結果です」
妙高山は手に持っていたタブレットを摩耶に見せる。そこには墜落したスカウターの画像が映っていた。
「スカウターは双美山の山腹に激突しています。無線制御ができなくなった場合、自律飛行で帰還する機能がありながら、です」
「だから?
それとカテゴリー5となんの関係があるの?」
「電子機器無効化結界。
SCAOが予言したカテゴリー5が有する能力です」
「その能力でスカウターが墜落したということ?」
「おそらく。そして飛天もです。
ブラックアウトの状況から推測するにDDの半径5キロは結界の有効範囲のようです。
結界を常に展開できるわけではないようですが、迂闊に近づくと先と同じことが起きると思われます」
「《0020》とスカウターの距離 8000メートルを維持!」
即座に吹雪3尉に命じる。
半信半疑であったが、可能な限りリスクは回避したい。想定外にはもううんざりだ、と摩耶は心の中で思った。続いて怜奈との回線を開く。
「怜奈、聞いて。そいつはどうやらカテゴリー5のようよ。電子機器無効化の能力があると思われるわ。だから近づかないで。
距離をとって戦って。5000……できれば8000から10000よ」
「カテゴリー5?
電子機器無効化って……無理!
どう戦えって言うのよ」
「こっちでも考える。
とにかく時間を稼いでちょうだい」
「……
軽いめまいに苦しみながら怜奈は素早く状況を整理して結論を弾き出す。
「友理奈、加奈子は後方の高台に移動。スカウターと連携してMOPデータを構築。
ヘリ部隊は《0020》を中心に散開展開。
距離20キロ維持。時間差でファイヤフライで攻撃。敵の進行を遅滞させて。発射タイミングはヘリ部隊に委任。
第1中隊及び楓は私とともに《0020》を迂回。目標と双美市外縁部に再展開。
ワンよりコマンドルームへ!
航空支援要請
航空機による遅滞爆撃をお願いします」
2021/04/18




