② 破滅の足音
「突撃射撃 準備! 開始!」
コマンドルームにも怜奈の指示がスピーカーを通して流れてきた。
「ちょっと……!
今のあれに突撃をするなんて無茶苦茶よ!
止めないと」
後ろに控えていたはずの大淀陸上参謀が摩耶の後ろで囁やいた。摩耶は各個に射撃しながら突撃を開始した第32大隊を映すスクリーンから目を離すことなく答える。
「逆よ。あれが正解。
さっきまでの《0020》なら遠距離攻撃する術がなかった。
だから距離を取って制圧射撃であいつのフィルタを削っていくのがもっともリスクが少なかった。でも、今は違う。『皿を持つ男』と同等、いえ、おそらくそれ以上の光学兵器を持っているの。
遠距離での撃ち合いになれば、多分私たちの方が撃ち負けるわ。
ならば距離を詰めて光学兵器の死角に入る。そして、飛天のMDFをぶつけて、強引にでもあいつのフィルタを飽和させるしかない」
「でも、あいつにはこっちのフィルタを無視するあの顎の攻撃があるのよ。近接攻撃なんて危険すぎる」
「それは玲奈も百も承知よ」
危険でも、強引でも、無茶だとしてもやらなきゃなんない時がある。今がその時だ。
と摩耶は心の中で呟いた。そして、今の彼女には祈る気持ちで怜奈たちの動きを見守るしかなかった。そんな、摩耶の気持ちを嘲笑うかのように《0020》の体に変化が現れる。
下半身が黒く変色している。
「変色しているんじゃない。なに……鱗?」
思わず声が漏れる。マヤは目を細め、スクリーンを凝視する。細かな菱形の鱗襄のものが体表に浮き出できているようだった。それに伴い、下半身が横に伸長していく。
ブツン、ブツンと脚が根元から外れていく。
キュロロロロ
再び《0020》が咆哮する。新たな体を手に入れた歓喜の声にも聞こえた。
ザシュリ ザリ ザリ ズササササ
蛇体のような新たな下半身をうねらせ、《0020》は猛然と動き始める。
若葉2曹の声が響く。
「《0020》 西方向に移動開始!」
突進してくる《0020》を正面に捉え、優子の額に汗が滲む。さっきと同じ状況だ。いや、状況はなお悪い。
それでも!
優子はギリッと奥歯を噛み締めた。
やらないわけにはいかない。
もう一度、いや、何度でも止めてやる
「久美! 珠子! 止めるよ!!」
優子はハチェットを構えると迫り来る《0020》に向かい走り始めた。
スクリーンに映る《0020》。その表示のすぐ下に表示される数値がみるみると減っていく。
1200
1120
1040
《0020》との距離を示す値だ。
960
1000を切った瞬間、《0020》の右の爪がぐっと伸びた。
ザッ!
それを跳躍でかわす。そのまま、ハチェットを《0020》の顔面に振り下ろす。
ガツン
「きゃっ!」
顔面にハチェットを叩きつける直前、左の爪で払われる。優子の飛天は蹴られた毬のように弾け、地面に叩きつけられる。さらに追い打ちをかけようと《0020》は右腕を大きく振りかぶる。
「させないよ!」
久美がその腕に絡みついた。両腕で右の爪にがっちり掴み、両足を《0020》の胴体を挟む。
《0020》は困惑したように地面に転がった優子と右腕に絡みついてきた久美を見比べる。どちらを優先して攻撃しようか迷っているように見えた。だが、それもほんの一瞬のことだ。左の爪を絡み付いている久美に向けようとする。
「うしゃ!」
と、その左手に今度は珠子が取りついた。久実と同じ要領でがっちりと爪を固定する。《0020》は両側に2機の飛天をぶら下げる格好になった。
キュロロロロロ
苛立たしそうに咆哮を上げ、口を大きく開ける。鋭い牙がギラリと光った。そのまま、久美に噛みつこうとする。が、その首に優子が抱きつき、両手、両足でぎりぎりと締め上げる。
キュロロロロロ
《0020》は3機の飛天をぶら下げたまま上半身を持ち上げ、勢いよく地面に打ちつけた。飛天へのダメージを吸収するようにフィルタの赤い膜が地面と飛天、飛天と《0020》の間に生じる。
DDは上半身を持ち上げ、何度も優子たちを地面に叩きつける。
「ぬぬぬ」
「ううううう」
「ぐっ」
3人は渾身の力を振り絞りDDの攻撃に耐える。
「絶対ッ、放しちゃダメよ!」
「「り、了解!」」
2021/04/18




