① 肥大する恐怖
「後退!
距離を取りつつ再度制圧射撃!」
怜奈の指示が飛ぶ。それに応えるように美佐緒の声が続いた。
「MOP ポインティング 継続
FS弾に切り替え 機動射撃 後退 散開
射撃準備!
5、4、3、2、1、ファイヤ!」
ブウウン
赤い障壁がすべての砲弾を弾く。
キュロロロロロ
勝ち誇ったように《0020》は咆哮する。
「なに、あれ?」
コマンドルームで成り行きを見守る摩耶が小さく呟いた。《0020》の左肩がぼこぼこと膨らみ、隆起する。と、にょきにょきと伸びる。
「腕が再生した!」
摩耶は絶句する。先の砲撃で千切れた左の一番上の腕が現れたのだ。
しかし、再生とは少し違う。復活した腕は巨体なカニの爪のような形状をしていた。それは元の《0020》ではなく『皿を持つ男』の物だ。
「仲間を喰らって能力を取り込んだってこと……」
摩耶はびくりと身震いした。
「再射撃準備!
ヘリ部隊からのミサイル攻撃も加える。
距離も取りなさい。各自 およそ8000をキープ。
指示、こちらで引き取ります!」
玲奈は一言宣言する。
「FS弾 セット!
MOP トレース ポインティング!
各ヘリ スーパーファイヤフライ 2連射
射撃準備!」
その時、《0020》は左腕で自分の右腕を掴むと、そのまま引きちぎる。だらだらと紫色の液体が吹き出るがすぐに、肉塊が成長して新たな腕が生じた。左腕と同じく巨大な爪だった。
「…… 2、1 ファイヤ!」
飛天たちのキャノンが一斉にFS弾を吐き出す。無数の火の矢が《0020》を取り囲む。が、全てフィルタに阻まれ、本体には届かない。
「ファイヤフライ到達まで5秒!」
時間差でミサイルが迫る。16機の戦闘ヘリが放った総計32発のミサイル。
キュロロロロロロ
潰れた右目がボコボコボコと半球上に盛り上がる。中心が割れる。そう、まるで蕾が開き、大輪の花を咲くようだった。向日葵を連想させる形状の中心は金色に光っていた。
チカッ
花弁にあたるところから光が発する。目映い光が空を引き裂く。中空で無数の火の玉が沸き起こった。
「ミサイル 全弾 破壊!」
「ヘリ部隊に損害
ストリクス2号機、4号機撃墜 5、7号 ローター被弾 緊急回避運動中!!」
コマンドルームにオペレーターたちの緊迫した状況報告が響く。
「『皿を持つ男』の断裂系光学兵器と同じです」
「やって くれるわね……」と、摩耶は苦々しく呟く。
つまり、《0020》は完全に『皿を持つ男』の力を自分に取り込んだのだ。
「ヘリ部隊 散開 《0020》より20キロ後方待機!
第1、2、4中隊前進。
全機で囲んで押し込む!」
それは怜奈の声だった。
2021/04/18




