⑦ フィルタ喪失
地面に崩れ落ちたのはボロボロになった飛天の残骸だった。
ザシュリ
その飛天を踏み潰す巨大な脚。
「《0020》 健在!」
コマンドルームにオペレーター三谷若葉2曹の悲鳴のような声が響く。
若葉の言葉通り《0020》は傷ひとつなく、悠然と立っていた。
「大隊の全力攻撃でも駄目なのか」
衣笠参謀の口から呆然としたつぶやきが漏れる。
「いいえ。まだです」
摩耶は腕組みをしたまま答えた。いや、誰かに向けて言ったのではなく、摩耶自身に言い聞かせたものだったのかもしれない。唇は固く引き結ばれて、なにかを待っているようにメインスクリーンに映る《0020》を見つめていた。
「スーパーファイヤフライ 《0020》に到達まで後、5秒」
レーダー監視の睦月2曹の声。
ヘリ部隊が放ったミサイル群。先の2射目の時、射程ギリギリでヘリ部隊が放ったミサイルが時間差をおいてようやく届いたのだ。
その数、16発。
「…… 4 3 2 1 着弾!」
ファイヤフライの弾頭が《0020》の直前でバラける。ミサイルも対DD用のFS弾頭だ。
バシュ
バシュ
バシュ
バシュ
バシュ シュ シュ シュ
しかし、弾頭は全て《0020》のフィルタの赤い障壁に阻まれ、目映い光球に変ずる。相変わらずDDに傷一つつけられない。それでもヘリ部隊からの攻撃は続く。
「続いて第2波 着弾します」
が、第2波も1波と同じく全てフィルタに無効化させられる。
「第3波 着弾」
睦月の声が無機質にコマンドルームに流れた。これが最後のミサイル群だと誰もが認知していた。
バシュ
バシュシュ
バシュン
半数近くの弾頭が無効化される中、不意に赤い障壁が黒く変色してかき消えた。
と、同時に。
ズン!
ズガン!!
弾頭が《0020》に当たり、炸裂した。紫色の飛沫が飛び散る。
キュロロロロロ~
異形の者が初めて苦しげな悲鳴を上げた。
「やった!」
摩耶は思わずこぶしを握り、小さく叫んだ。
《0020》のフィルタが飽和した瞬間だった。
それに気づいたのは摩耶だけではない。
「全機 AP弾に切り替え! 5射目準備!!」
怜奈がすかさず叫ぶ。美佐緒の声がそれに続く。
「MOP 再ポインティング開始……
エンゲージ! 確度 90.5
カワチャン ジンク タマ MOPデータ送れ!」
優子は丁度ハンドキャノンを拾い上げたところだった。射撃管制タブを開きMOPを起動させる。久美や珠子も同様に《0020》との光学測距データをデータリンクにアップロードする。
「データ 受理 補正 確度 98.5
5射目 準備 …… ファイヤ!」
第1、2、4中隊の飛天がほぼ同時にキャノンを放つ。3方向から徹甲弾が襲いかかる。12発の弾芯が《0020》の皮膚にめり込み、抉り、引き裂いた。
ギギギギ
ゴガァ
苦悶の咆哮を上げ、《0020》は身を捩らせる。体を揺らす度に紫色の体液が噴水のように吹き出た。
「6射ッ! ファイヤ!」
美佐緒は容赦なく再度の射撃を命じる。
ズカッ
ズガン
ズガガ
数発が《0020》の左肩に命中して、肩から上腕部をごっそり破砕する。切断された左腕が中空を舞い、地面に叩きつけられる。
キュロロロロロ
《0020》は断末魔の叫び声を上げ、身をよじらせた。全身が紫色の体液、DDの血液に染まっている。
「7射ッ ファイヤ!!」
6射目と同様、恐るべき正確さで全ての弾が《0020》に突き刺さる。
ドウン!
土煙を上げ、ついに《0020》はその巨体を大地に横たえた。
2021/04/11
 




