⑥ 制圧射撃
「こちら第2中隊。
射撃予定ポイントに到達」
青色の飛天に搭乗する朧月美佐緒3佐はモニタに映る《0020》を見つめながら言った。
《0020》は4本の腕で1機の飛天をつかみ、残る2本の腕で何度も殴りつけていた。飛天は無惨に凹み、ひしゃげていた。
距離1000メートルからの27(ふたなな)式主力戦車の120mm弾筒付翼安定徹甲弾の直撃でも貫通できない高硬度カーボンナノファイバー製の飛天の装甲をあれほど簡単に破壊するDDの膂力の凄まじさに美佐緒は寒気を覚えた。
そして、何よりMDFを貫通してくるあの正体不明の噛みつきが最大の脅威だ。大隊長がチュッポを破棄しても制圧射撃を急がせる理由も分かる。幸い敵には《0010》のような光学武器は持ち合わせていないようだ。ならば遠距離で制圧するのが一番安全。
「第2中隊各機 MOP 起動。
各個 照準 開始」
「…… リー ポインティング ロック
データ送る」
「ダイ ロック 送る」
「カナ ポインティング ロック
データ送る」
隊員から次々と自機と《0020》との光学測距データをデータリンク上へ上げられている。
「ムン ポインティング ロック データ 送ります」
「スカウター、リー、ダイのデータで射撃データ構築
確度 67
……
カナ、ムン データ 追加 補正
確度 89に上昇」
コマンドルームからのリンク報告を聞き、怜奈は素早くタクティカルマップへ視線を走らせる。
第4中隊は後方へ移動中。《0020》からの距離3800~4200。
第2中隊は既に攻撃位置に到達。距離8000から10000。
自機を含め、第1中隊は未だに移動中。距離は12000程度。丘があって《0020》を直接視認できない。
ヘリ部隊はようやく20キロ圏に到達。ミサイルのギリギリ射程外。
瞬時に情報を読み取る。
「射撃準備!
第2中隊 FS弾 直接射撃
第1中隊 HE弾 間接 機動射撃」
「でも、大隊長、第4中隊がまだ、5キロ離れてませんよ」
「構いません。フィルタが守ってくれます。
ミサ、カウントお願い」
「り、了解。
ターゲット《0020》 MOP 同期 クリア!
5、 4、 3、 2、 1、 発射」
《0020》の北に位置する高台に位置する第2中隊の飛天4機のハンドキャノンが同時に火を吹いた。4発のFS弾頭は着弾直前に無数の火の玉になり《0020》のフィルタを焼く。
ヒュルルルルル
少し間をおいて、風を切る音ともに第1中隊4機と玲奈の大隊長機のHE弾が直上から襲いかかる。
《0020》の周囲に無数の土柱が沸き起こる。
「ヘリ部隊のミサイル追加。
2射目ッ、準備!」
丘陵を乗り越えながら怜奈が叫ぶ。
「ターゲット位置変わらず。
ヘリ部隊、射撃管制エンゲージ
スーパーファイヤフライ 発射準備!」
土煙がもうもうと上がり、《0020》を視認する事が出来なくなっていたが、移動しているようには見えなかった。そのため、美佐緒は再照準はせず2射目を敢行する。
「…… 2、 1、 ファイヤ!」
第2中隊、第1中隊の火砲が再び火を吹いた。
「3射目! …… ファイヤ!!」
間髪を入れず、美佐緒の号令とともに3射が撃ち込まれる。
砲撃をしながら、玲奈以下、第1中隊の飛天が最後の丘をかけ上る。スクリーン上の視界が一気に開けた。ちょうど3射目の砲撃が着弾したところだった。ここからなら直接射撃ができる。
「第1中隊、攻撃ポイントに到達。
FS弾に切り替え」
「4射目 準備!」
怜奈の声に美佐緒の宣言が重なる。
「ファイヤ!」
第1中隊、第2中隊、合計9機の飛天のハンドキャノンが《0020》に撃ち込まれる。
スカウターからの映像をコマンドルームでも皆が固唾を飲んで見守っていた。
大隊の総力を上げた制圧射撃が一段落し、もうもうと立ち上った土煙が少しずつおさまる。薄くなる煙の中、黒い影がゆらりと動き、そのまま、地面に崩れ落ちた。
2021/04/11




