④ 力くらべ
「《0020》 停止。
カワチャン チュッポ 両機で《0020》を押し止めてます」
オペレーターの矢矧尚子3佐の声。
怜奈はタクティカルマップへ一瞥を加える。
第1中隊、第2中隊が攻撃予定地点に到達するのには後2分ほどかかりそうだった。戦闘ヘリは更に10分はかかる位置だ。
「急ぎなさい!」
今の怜奈にはそう叫ぶぐらいしかやることはなかった。
「はっ!」
「いやーーっ!」
《0020》の左サイドから仁通久実2尉、右からは山形珠子1尉の飛天がマチェットを振りかざして襲いかかる。
ブン
ブゥン
《0020》は最上段の腕を広げて二人の攻撃を受け止める。バチバチとフィルタ干渉膜が発光した。
膜の赤味が一瞬濃くなる。と、久実と珠子の飛天が後方に弾きとばされた。
「うあっ!」
「きゃっ」
返す刀で、《0020》は、最上段両腕で力比べをしている優子と歩の飛天の顔を殴りつけた。
ブッ
ブブン
ブン ブン
MDFに護られ、優子や歩の飛天に《0020》の拳が届くことはなかったが、FCは確実に削られていく。
「カワチャン FC 90 …… 86 …… 83」
「チュッポ FC …… 85 …… 81 」
「相手の方が腕が2本多いよ!」
《0020》を必死に押さえながら歩が悲鳴を上げた。立ち直った久実と珠子が助けようとマチェットを構え直すが、優子は止める。
「私たちはいいから。こいつの足を攻撃して!
こいつの動きを止めるのが最優先よ!」
優子の指示に従い、久実たちはマチェットを《0020》の足へと振り下ろす。が、マチェットもまたフィルタに弾かれる。それを見て歩は叫んだ。
「足も6本あるよ! こいつの動きを止めるより、こっちのフィルタが先には飽和しちゃうよ!」
「いいのよ! 1本でも2本でもぶった切れば、動きが鈍る」
「むちゃくちゃだよ」
ブン
愚痴る歩の飛天の顔に《0020》の鉄拳が打ち込まれる。MDFの効果でダメージはなかったが、歩は左頬に微かな圧を感じる。
「あ“ーーーー
女の顔に気安く手をあげんじゃない!!」
歩はお返しとばかりに右大腿部の20ミリ機関砲を《0020》の顔面に打ち込む。
ブブブブブ
《0020》の顎の辺りに薄紅色に発光して叩き込まれ弾丸がバラバラと弾き飛ばされる。
キュイーン
金属の板がぶつかりあったような甲高い音が響き、《0020》が顔をのけ反らした。
「あっ、オフった」
《0020》の頬にツーと紫色の液体が一筋垂れる。20ミリ機関砲がつけた傷だ。
「おお、オフったよ。
私ってば天才!」
『すり抜け』。
通称「オフる』。MDFに攻撃を加えていると希にフィルタが飽和していないのに攻撃が貫通することがあった。メカニズムは分かっていない。だから、狙ってできる訳ではない。
それが起きた。
まさに偶然の賜物だ。だから、ずっと20ミリ機関砲を撃ち込んでいたがその後はやはり全部フィルタに弾かれていた。
例え、まぐれだとしてもそれは、《0020》に与えた最初の有効打だ。歩が喜ぶのも無理はない。しかし、それはDDにとっては真逆の意味になる。
《0020》の目がキューーっとつり上がった。余っている両腕で歩と優子の飛天の首を掴むとぐいっと上半身を持ち上げる。そして、ぐるりと体を回す。
「うわっ」
「きゃっ!」
優子の飛天は放り投げられる。宙を舞い、足を攻撃しようとしていた珠子の飛天にぶつかった。2機の飛天の間に干渉膜が現れる。フィルタは削られたがダメージはない。
素早く立ち上がる優子の目の前に、6本の腕でがっちり抱きしめられた歩の飛天の姿があった。
「このッ は、な、せ!」
もがく歩を《0020》はじっと見下すように見つめていた。と、口も鼻もない顔面の真ん中に一筋の線がピリリッと縦に入った。
ペロリ
縦の線はめくり上がり、左右に拡がった。その左右の端に凶悪な牙が生えている。
「うぇ、キモい」
食虫植物のハエジゴクのような《0020》の口に歩は顔をひきつらせる。
ガッ!
《0020》は飛天の肩口に食らいついた。
「い、痛っ、痛い!」
歩の口から苦痛の悲鳴が上がった。
2021/04/11




