③ 第4中隊接敵
「リテンションフリー!」
「リテンションフリー!」
「起動正常」
「ガンキャリー オープン!」
「ハナ 起動……」
「ダイ 起動正常」
「翼 展開」
「MDF 起動 ……」
「……コンプリート」
「クリア……」
「……正常……」 「……コンプリート!」
「起動」
「起動」
「起動正常!」
第35特務大隊の第1、第2小隊の飛天が続々と起動を始める。
「第2中隊 全起動完了」
「第1中隊 全起動完了」
「了解。
第1、第2中隊 前進。
散開して0020に北方向から接近。
敵正面の第4中隊と戦闘ヘリと共同して遠距離攻撃で仕留める」
第2中隊隊、中隊長朧月3佐と第1中隊の箕輪1尉は指示に無言で頷いた。そこへオペレーターからの連絡が入る。
「戦闘ヘリ部隊、現地到着までおよそ17分
デーリンク 送ります」
タクティカルマップに戦闘ヘリのマークが追加された。
17分…… それまで、あいつ大人しくしていてくれるかな
マップ中央に表示された赤い三角マーク、そしてスクリーンの先、双美山山頂へと視線を移動させた。距離は10キロ近く離れているので豆粒位にしか見えない。《0020》というマーキングがなければ見逃すかもしれない。マーキングの直ぐ上にコマンドルーム経由で送られてくるスカウターの画像が投影されていた。上から見ると鎌首をもたげた蛇のように見えた。
不意にスカウターの画像から《0020》がフレームアウトした。
「《0020》動き出しました!
進行方向 090 真っ直ぐ双美市に向かっています。
速度、およそ毎秒40メートル!」
早い!
タクティカルマップに目をやると、赤い三角マークが右へじりじりと動いていくのが見えた。その先には4つの黄色い丸が待ち受けていた。防衛線を敷く川内優子たち第4中隊だ。0020と優子たちの間は既に5000メートルを切ろうとしていた。
「第1、2中隊、全速!
第4中隊。 優子! 抑えてっ!!」
スクリーン全面。もうもうと地面を抉りながらつき進んでくるDD。《0020》のタグの横にR5820と表示された数字が5780、5740、5700とみるみる減っていく。
「攻撃準備! 麻衣の戦法で行くわよ。
あいつの手前の地面を崩して動きを抑える。
HE弾 セット!」
「HE弾 セット」
「セット」
「HE セット!」
「射ェーー!」
4機の飛天がハンドキャノンを一斉に発射した。突進してくるの《0020》の目前の地面が沸騰したように沸き立つ。炸裂した土砂に姿がかき消える。構わず飛天たちは連射する。
しかし、土煙を突き破るように《0020》が姿を現した。長い胴体をうねらせ蛇のように地を這いずるように進んでくる。
「ダメ! 止まんないよ」
中歩3尉が絶望の声を上げる。弱音を吐く歩に優子は毅然と言い放つ。
「諦めるな! なんとしても止めるのよ。
ここを抜かれたら双美市内に一直線よ!」
「でも、どうやって?」
「力ずくで、よっ!!」
優子は持っていたハンドキャノンを放り投げると、猛然と突進してくる《0020》に向かって走り出す。両手を広げ、《0020》を真っ向から受け止めた。
ブウウウン
虫の羽音のような音とともに優子の飛天と《0020》の間に赤茶けたMDFの干渉膜が現れる。
「ぬぅおおおおお」
気合いを込めて咆哮するが、《0020》は止まらない。
明らかに飛天は押し負けていた。懸命に踏ん張っているが両足が地面を削りながら、ずりずりと後退を余儀なくされた。
「あ、歩…… 手伝いなさい」
「うへっ、マジぃ……?」
優子の命令に、歩はあきれたような声を漏らしたが、すぐにキャノンを置くと《0020》に向かって走り出す。
ブゥウン
歩の飛天が優子に並ぶ。
2機の飛天が力を合わせて《0020》を押し止める。
《0020》の動きが止まった。
2021/04/11