② 総力戦
「大隊の全力で戦うべきです」
と鈴谷怜奈1佐は言った。
怜奈の言葉に摩耶は双美山上空の侵食球に目を向けた。それはいまだに中空に何事もなかったように浮かんでいた。
「侵食球の状況はどうなっているの?」
「変化ありません。
歪率 98~99.99%で安定。
時空震 検出できません」
睦月の言葉を受け、摩耶は怜奈に言った。
「ダメよ。侵食球はまだ消失していない。
つまり、またDDが出現する可能性がある。
全戦力を注ぎ込んだら、三体目が顕現した時に対応できなくなるわ」
「だからこそ、です!
三体目が顕現する前に全戦力をもって速攻であのunkownを倒すべきです。
それにあれはカテゴリー4の可能性が高い。
だとすれば、全力で当たらないと対抗できません」
怜奈の意見も理解できた。もしも、あれがカテゴリー4であるなら4機程度の飛天の攻撃でDDのフィルタを飽和させるのは難しい。その間、新たにDDが顕現すれば戦線を支えられなくなるかもしれない。
「速攻で行きましょう。私も出ます」
摩耶はスクリーン上の怜奈をじっと見つめる。
怜奈も見つめ返す。
摩耶はふっと息を吐いた。
「すぐに使えそうな戦力はないかしら?」
摩耶は後ろに控える三人の参謀の方を向くと質問した。
「航空団による支援が可能です。
更和基地に支援戦闘機部隊が待機しています。
現地到着時間は10分」
衣笠航空参謀が答えた。
「同基地には陸自の戦闘ヘリ部隊も待機してます」
隣に立つ陸上参謀、大淀美琴が補足する。手元のタブレットへ視線を落としす。
「ヘリは30分ほどで到着します」
再び顔を上げ、淀みなく答えた時に、メガネがキラリと緑色の光を反射させた。
「ヘリ部隊の出動を要請して下さい。
支援航空機は遅滞作戦用の爆弾を搭載させていつでも出せるように準備させてください」
摩耶は少し黙考すると参謀たちに指示をだした。そして、怜奈の意見に同意した。
「分かりました。
第32特務大隊の全力で《0020》を排除します。
大隊指揮は鈴谷1佐に任せます。
今、戦闘ヘリを要請したからそれも使って頂戴。
その代わり、第3小隊をこちらに貸してもらうわ」
「了解」
怜奈の言葉に軽く頷く。
「長良1尉、聞こえる?」
「聞こえます」
「第3中隊はこれよりコマンドルーム直轄とします」
「了解」
「では、第3中隊は直ちに双美市内まで後退。そこで防衛線を敷いて下さい。
防衛線のデータは追って送ります。」
「了解」
そこで摩耶は再び、振り返る。そして、情報参謀の妙高山を手で呼び寄せた。
「双美市に退避勧告を出してください。
……例のあれの退避を最優先でお願いします」
耳元で囁くと妙高山は無言でこくりとうなづいた。
黄色いカラーリングをされた飛天4機が双美山を山頂に向かって移動していた。巨大な足が双美山の大地をえぐり、土くれを巻き上げながら突き進む。
「第4中隊は《0020》と双美市の間に進出せよ。
配置は今、送信しました。受け取れてる?」
「受け取れてます」
コックピット内のタクティカルマップに映し出された画像を確認しながら川内優子1尉は答えた。
「敵の移動速度次第だけど第1、2中隊が合流するまで交戦は極力避けて。
相手の能力は不明だから距離は5000メートルより縮めないで」
「了解」
優子は怜奈に答えるとメインスクリーンに映る0020に目を向けた。距離はまだ10キロほど離れていた。丁度、0020と双美市の直線上の真ん中に布陣している。
「横隊で臨む。
各機の距離は5000メートルを維持。
配置は今、送ったけど、できるだけ遮蔽物を活用して」
スクリーンにスーパーインポーズされている隊員に向かい指示を飛ばす。
「0010みたいな飛び道具があるからですか?」と山形珠子1尉が質問してきた。
優子は首を振る。
「残念ながら不明よ。
今から私たちがそれを調べるの。
気合い入れなさい。そして、敵の手の内が明らかになるまでは慎重に行動すること。
では、散開!」
2021/04/11




