新しい朝
「お兄ちゃん、今日は一緒行けるのかな?」
「……寄りたい所があるから少し早いが、一緒に行くか?」
「うん!!」
夢を見ている気分であった。
義妹とお義母さんと行ったファミリーレストラン。
ショッピングセンターにも行った。
靴屋の前で出会った美容師さんのお店に行って髪も切った。
胸のうちにあるドロドロしたものがまとわりつかない。
二人と行動するだけで心臓に何かが刺さる気分であった。
――大丈夫だ。俺は妹が思う完璧を目指す。心を冷たくして――
卒業したらどうせ一人だ。
今は義妹に喜んでもらおう。
「あっ、髪に何か付いている。――まて」
俺は義妹の髪に付いたホコリを取った。
流れで髪を撫でる。
「よし、今日も綺麗だ――」
「お、お兄ちゃん!? き、綺麗だなんて――、も、もっと言っていいんだよ!!」
「……気が向いたらな。――お義母さん、行ってきます!」
居間からひょっこり顔を出したお義母さんが手を振ってくれた。
「は〜い、行ってらっしゃい!」
俺と義妹は家を出た。
「らっしゃいませーっ! おはよ、あ――」
俺は店の扉の前で固まってしまった。
どんな顔をして立っていればいいのかわからなかった。
新橋さんは俺を見て口を開けていた。
「な、な、ななな、あなた……太田? よーく見ると太田の雰囲気が……え? どういう事?」
「いや、あの――」
春香が小さい胸を逸しながら口を挟んだ。
「ごほんっ! 健人お兄ちゃんの可愛い妹の春香です! はじめまして!」
「あ、ええ、は、はじめまして? 何これ?」
「お兄ちゃんが新橋さんに話したいって言ってたから来ちゃいました! それでは私は退散します! あ、お兄ちゃん、学校終わったら連絡してね!」
春香は俺から離れて中学校へと向かった。
俺と新橋が向かいあう。
女性と向き合うと俺の心が急速に冷えていくのがわかる。
それでも、俺は向き合うんだ。
「し、新橋さん。……今までパンの耳を用意してくれてありがとう――」
「え、あ、うん。わ、私も笑ってごめんね。……あっ、い、一応用意したけどいる? もしかしてって思って――」
新橋は俺に自然な笑みをくれた。
俺の冷たい心に突き刺さる。
俺は深呼吸をした。
大丈夫。俺は義妹が頼れる男に――
「ありがとう、もう本当にいらないんだ。あっ、今日の昼ごはん用に普通のパンを買おうと思って――、ねえ、おすすめのパンってどれ?」
「お、太田……、あなた――、ううん、それじゃあね、うちの塩パンは絶品だよ! あとあと、ジャーマンサンドや――」
俺は新橋さんのおすすめを適当に買った。
お金を払う手が震えてしまう。
やっぱりお金を使うのは慣れない。
新橋さんはパンを包装しながら俺に言った。
「あ、わ、私ももう登校するから、い、一緒に行かない? ほ、ほら、いいでしょ?」
俺は理解している。
この子たちと近づき過ぎちゃ駄目だ。また迷惑をかけてしまう。
そんな事を思っていると、お義母さんの言葉を思い出してしまった。
――普通の学生生活を送って、友達を作って、勉強をして――
自然と口に出ていた。
「ああ、ここで待つ」
新橋さんは慌てて店の中に入り、ドタバタと音を立てながら――準備を終えた新橋さんが息を切らしていた。
「あ、ちゃんといる。はぁ……、行きましょ!」
俺たちは二人で登校することになった。
生徒の人数がすごかった。
俺はこんな時間に登校した事がない。
何故だろう? 視線を感じる……。いつも以上だ。
それでも嫌な視線と言うよりは。好奇の視線に近い。
新橋さんは乾いた笑い声をあげていた。
「あ、ははっ、はっ、ヤバいと思ってたけど、ここまでイケメンだったとは……。ていうか、あなた、週末に何があったの?」
「ああ、色々考えなければいけないと思ってね」
義妹とお義母さんと――先生のおかげだ。
俺は視野が狭かった。自分の事しか考えていなかった。
変わるんだ。最終目的は変わらない。一人で生きる。でも、この高校生活だけは――
学校に近づくにつれてざわめきが増す。
「あんな奴いたっけ?」
「転校生? 特別クラスの人かな? 芸能関係?」
「隣は彼女さんかな〜? 友達だったらいいな〜」
「うん、単純にかっこいい」
「わ、私声かけてこよ!」
新橋さんが何故か俺と距離をおき始めた。
「あははっ、あなたと一緒にいると面倒事が起きそうね? ほら、あなたの幼馴染ちゃんと玲奈がこっち来るわ。……えっと、太田、今日はありがとう、またお話しようね!」
「うん、またお店でパンを買うよ。――あっ、先生!!」
「え?? なにその嬉しそうな声!?」
校門の前に田中先生が立っていた。
生徒に笑顔で挨拶をする田中先生。
俺と目が合った。
先生は俺の姿を見て一瞬だけ驚いたが、薄く笑ってくれた。
俺は何故か走っていた。ああ、そうか、先生に俺の姿を見せたかったんだ。
真新しい靴は穴が空いていない。走りやすかった。
女性は嫌いなはずであった。
だけど、義妹もお義母さんも女性だ。
新橋さんだって女性だ。
……先生の笑った顔を見たら、俺の心が砕けそうになった。
温かい何かが溢れ出しそうになる。
駄目だっ、俺はまだ壊れたくない。
それでも俺は足を止めない。
俺は先生に飛びついた――
「おまっ!?」
俺は何も考えていなかった。身体が勝手に動いてしまった。
大丈夫。先生は転びそうになった生徒を抱き止めただけ。
先生の匂いが俺の心を安心させる。
困りながらも俺をしっかりと抱き止めてくれる。
「お、おい! じょ、冗談もほどほどにしないか! ……ほら、また教室でな」
「ええ、お願いします」
これの感情が何かわからない。
家族のような愛情? それとも――女性として好きっていう愛情?
だから、俺はそれを知るためにもっと学ぶんだ。
「お、太田!!! わ、私とちゃんと話をしなさいよ! な、なんでイケメンになっちゃってんのよ! わ、私だけの太田だったのにーー!!」
「太田は私がいないと駄目なんだよ! 一緒に登校しよ? 幼馴染なんだからさ」
俺は振り返る。
雨傘さんと野崎さんを見つめた。
「ああ、これからもよろしくな――」
きっと、俺の始まりはここからだったんだろう。
心を壊した俺が――生まれ変わった。
どんな未来が待っているかわからない。
冷たい心はいつの間にか、消えてしまうのか?
俺はもう間違えない。
誰かを傷つける結末にはしない。
だから、俺は――生まれて初めてのとびっきりの笑顔をみんなに見せた。
心からの感謝を込めて――
(偽恋人から本物の恋人になろうと言われたけど断った。頼むから俺を一人にしてくれ 完)
拗らせ可哀想系は長く書けないです。
さっくり完結です!ありがとうございました!
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評価の感じで続き考えます!
次はリセットを更新しつつ、甘い小説を書きます!多分!
息抜きの新作
https://ncode.syosetu.com/n4097gm/
「好きな女子に素直になれない岩崎君と、好きな男子に意地悪しちゃう超絶ギャルの広末さん」




