さて、押しかけ弟子入り志願を見極めてやろうか。
お読み頂きありがとう御座います!!
『ナガースフ』を目指す『アルゴー』は順調に航海を続けていた。
「船長、おはようございます。今日も順調ですね」
「おう、アレス坊か、おはよう。順調が一番よ」
昨日は盗みを働いた奴を海に蹴落としたしねぇ。やっぱりしばらくは盗人には気をつけなきゃだな。コレでここでの盗みはヤバいと知らしめないとな。
タマと一緒に船を散歩…じゃなく見回っていると乗客同士て何か揉めている。
「この船は使えるって!!お前は馬鹿なのか??時間が掛からない事がどれだけ有利か分からんのか??倍払っても利益が出るぞ!」
「お前こそおかしいぞ?沈没の危険を考えれば危険な賭けだ!陸路なら沈む事はないだろう?時間も金も掛かっても安全を取る!」
なるほど使えるか使えないかで言い合いになってたのか…。
「あの…沈没の危険はかなり少ないですよ。この船は鋼鉄製でして耐久性が段違いです。座礁の危険は空中と海中のオートマタで警戒して、さらに光と音で障害物を感知する魔導具も備えて航行してます。魔導船なので海流や天候に大きく左右されず、魔物もこの船の魔法で近寄りにくいし、攻撃は全方位で防御します。それに何と言っても船長はあの『不沈のヴィーグル』ですしね」
「り、陸路なら絶対沈まない」
「魔物や盗賊の危険性は?悪天候で橋や崖が崩落の危険性は?馬車が壊れる、馬が逃げたり病気になる事は?つまりですね、危険性は陸も海も変わらんのですよ。正直この船と比べたら陸路の方が返って危険性は高いんですよ。危険で費用が掛かって時間も掛けて陸路を使うのはお勧めしませんよ」
「ほら見ろ!この船の有用性が分からん奴は店をたたむ事になるぞ!!」
「そ、そんな事にはならない!」
「ちなみに、『コックスナル』の十老頭のサガン様からウチの辺境領に正式な交易を結びたいとのお話もありましてね、『アルゴー』様様ですよ」
「さ、サガン様だと??…」
「おいおい、その話は本当か??」
「ええ、今度ウチの辺境領にいらっしゃると」
「やっはりこの船は買いだな!おい、お前!使わないならそれで良いぞ。俺がお前の分も儲けてやる」
そのまま男は行ってしまった…どうやら仲間に知らせに行った様だ。残された男は呆気に取られて立ち尽くしている。
「使うも使わないもあなた次第ですよ。もう少しでリュピタルに行く予定ですし、他にも働きかけています。どちらかでは無く両方上手く使う方のも良いですよ」
オレはそれだけ言ってその商人から離れた。そう、自分で選べば良いのだ。船では全部回れないのだからね!ただし、船の方が早いなら使った方が利口ではあるね。
そんな事も有りながらも船は進み遂に王国の港町『ナガースフ』に到着した。馬車や乗客が降りて行く中で船に乗船して来たのは『ナガースフ』の領主である。
「アレス殿、待ちかねていたぞ。この前は王国への出仕が有ったのでな」
「領主様、お忙しい中わざわざのお越し痛み入ります。ではご説明はこの船の管理をしている『アルゴー』が行います。御質問も『アルゴー』に聞いて頂ければお答えします」
フワフワ浮いた球体がやって来た。
『領主様、ご説明させて頂きます『アルゴー』で御座います。何事も私にお聞き下さいませ』
「おお!!これは凄い!コレはオートマタなのか?」
『領主様、この船自体が巨大な魔導船オートマタで御座います。今話しておりますのは『アルゴー』の分体で御座います』
オレはほとんど喋らず『アルゴー』が相手をしていく。領主様は随分と関心を持っていたね。正直『ダーラムス』の領主様より興味が無いのかと思っていたのだけど、中々どうして質問が尽きない程である。
恐らくは王国の港町としての役目が中々果たせずにいた領主様は、この『アルゴー』が王国の旗を掲げて他国に行く事に、コチラが思っていたよりも大きな期待を掛けていた様である。
『アルゴー』の案内で船内を隈なく回った領主様は大変に満足した様子で、食堂で会食をした際にも料理の美味しさに感動して、
「この料理が食べれるならこの船に住みたいくらいだ」
と大絶賛していた。オレはチャックに親指を立てた。『ターディス』の領主様もチャックの料理を絶賛し、店を出さないかとまで言ってくれた。やっぱりチャックはコックとして凄腕なんだなぁ〜って改めて思ったよ。
こうして領主様の船内見学が終わると案の定と言うか街の人も見学をしたいと言ってきた。オレは2日間出航を伸ばして見学会を行った。
やっぱり人気は食堂で見学会を開いた3日間通いつめた人もかなり居たようだ。また、相変わらず密航者が入り込み、5人がもはや恒例となったヴィーグル船長の喧嘩キックで海に蹴り落とされた。
見学会の最終日にチャックの部下が飛んで来たので何事かと行ってみると、食堂に人だかりが出来ていて、大声で叫んてる女の子がいる。
「弟子にしてくれるまで絶対に離れないんだから!!!」
「おい!いい加減にしろ!!お前の様な奴を雇うわけ無いだろ!!」
「お前に聞いてない!!コック長にお願いしてるんだ!!邪魔するな!!」
「何だと!!叩き出してやる!!」
「ちょっと待て。おいお前、そこに居ると仕事の邪魔だ」
「弟子にしてくれるの??」
こりゃあチャックも困った顔をしている。部下達は今にも飛び掛かって叩き出しそうだ。
「ハイハイ!皆さん、オレが話すよ」
女の子はキッとオレを睨んで言った。
「アンタ誰よ!アタシは弟子になるまで絶対に動かないんだから!!」
「オレはこの船のオーナー代理で冒険者S級特待員のアレスという者ですよ。君の名前は何ていうんだい?」
「あ、アタシはキャサリン!世界一のコックになりたいの!!」
「キャサリンはこの街の人?」
「違う!!ランカスター領の村からやって来たの!両親は死んでもう居ない!」
「ランカスター領…とにかくコチラで話を聞くよ。こっちにおいで」
「嫌!!絶対に動かない!」
「仕方無いなあ…」
オレはキャサリンがしがみついていた鉄のテーブルをミスリルの鋼糸で斬った。呆然としているキャサリンを鋼糸で持ち上げて椅子に座らせる。斬ったテーブルを【金属使役魔法】ですぐに直した。固まったままのキャサリンの向かいに座って話し掛ける。
「お弟子さんになりたいのにお師匠に迷惑掛けたらダメじゃない?」
「こ、こうしてくれないと…話も聞いてくれないと…」
「ランカスター領で何かあったの?」
「…領主様に雇われた両親が…料理が美味くないって…屋敷を追い出されたの…」
「…それで?ご両親は?」
「その前の食堂に戻ったけど…お客が来なくなって…借金も返せなくて…お父さんとお母さんは材料を取りに山に入って…魔物に…」
「キャサリン、チャックがランカスター家のコックだったのを知っているの?」
「知ってる…だから食べに来たの…」
「チャックの料理はどうだった?」
「凄く美味しかった…だから弟子になりたかったの」
「オレの名前はアレス=ランカスター。君の両親を追い出したのはウチの父だ。それも知ってる?」
「うん…追い出された…両親と同じ人…」
「そう。追い出されたのはオレも同じだよ。キャサリンがチャックに弟子入りしたいならチャックに認めて貰いなさい。この船は実力主義だ。実力の無い者はこの船に雇わないよ」
「どうしたら…」
「チャック、試験してやって欲しい。ダメなら船を下ろす、良いなら皿洗いからだ」
「坊っちゃんがそう言うなら…おい!こっちに来い!この野菜で何か作ってみろ!」
キャサリンはチャックの元に行き、髪を束ねて手を洗い、野菜を見ながら使う野菜を洗って包丁でそれぞれ切り出した。
油を温めて野菜を素揚げして、それに塩と何かを混ぜたものを振りかけて出来上がりだ。
だが、チャックはその手際以外を見ていた様だ。
オレとチャックはその素揚げの野菜を食べてみる。素揚げした野菜は根野菜であった。素揚げの温度が良いのか見た目は綺麗だ。野菜の揚り具合がどれも丁度良く、振りかけた混ぜ塩が良い味を引き出している。
「混ぜたのはハーブと柑橘系、にんにくと香辛料も少し…などだな。中々良い味だね」
「流石は坊っちゃん。良く香辛料まで分かりましたね。お前達も食ってみろ」
部下の人達にも食べさせると「ほお…」「なかなか…」なと印象は悪くない。
「チャック、どうする?」
「そうですね、まずは料理の良し悪しは正直関係無い、それはオマケだ。料理を志す者は料理をする時にするべき事が有ります。料理に入る前、入った後、作った後を見ていたが全てキチンとやっていましたね」
キャサリンは料理を出した後で使った道具も綺麗に片付ける事を忘れなかった。チャックは最初からそれだけを見ていたのだね。
「良いだろう。皿洗い機担当からだな。やってみろ!」
「あ、ありがとう御座います…宜しくお願いします…」
「さあ!キャサリン、泣いてる暇はないよ、そろそろ下準備の時間だからね。チャック、後は頼むよ。『アルゴー』キャサリンの乗組員として登録。部屋と制服の用意を宜しく」
『かしこまりました。キャサリン様、部屋にご案内します』
「あ、はい…」
キャサリンは『アルゴー』に付いて部屋に向かった。
「皆さん、迷惑かけますけどキャサリンの事、宜しくお願いしますね!」
チャックの部下達は納得してくれたようだ。良かったよ…。
こうしていきなり押し掛けてきた弟子入り志願は何とか弟子入りに成功したようだね。
しかしながらあの父には怒りを通り越して呆れ果てるな…人に対しての誠意などという物が完全に欠如している。
やっぱりオレがケリを付けるしか無いと思うわ。
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