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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました 〜サイドストーリー〜  作者: 林海
第六章 新たなる道へ編

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第5話 名付け


 「真、あなたの考えていることは解っている」

 明るい美岬の声。

 いろいろなことを考え込んでしまっている俺の耳に、ダイレクトに入ってくる。

 さすがは、厳しい訓練を重ねてきた基礎体力だ。出産という大仕事を終え、もう回復しつつあるらしい。


 「真、この子に生きて欲しい人生に、ふさわしい名前を。

 真と私の子に、最初の贈り物をお願い」

 うん、そういう約束だった。

 俺が考えるんだ。


 「美岬という名前は、別の世界への旅立ちを意味しているんでしたよね」

 美岬の両親に遠慮して、そういう言い方になった。

 この場では、美岬本人に聞くよりも、その両親に聞くのが筋だからね。

 美岬と義両親、頷く。


 「であれば、幸運なことに俺たちは、その旅立ち自体はできたと思うんです。

 あとは、幸せにその旅を続けたい。そして、次の世代であるこの子には、安住の地を見つけて欲しい。

 なので、広さを表し、かつ心がゆったりと落ち着いた状態をも表現する『悠』の字か、そこにたどり着く意味の『到』を使いたい。

 女の子であれば、『到』は硬いイメージの字なので、美悠で『みはる』にしようかと思っていました。

 で、男の子ですから、そのまま一文字で『到』ならば『ゆき』、『悠』ならば『はる』だと女の子っぽいので『ゆう』で良いかと思っています。

 あとは、この子の顔を見て決めようと……」


 そこまで言ったところで、個室のドアがノックされた。

 ドアが開き、慧思と和美(なごみ)ちゃんが現れる。

 おそらくは慧思、新幹線で俺の後を追うように東京から来てくれて、駅で和美ちゃんと待ち合わせしたんだろう。


 「来てくれたんだ」

 「ありがとう」

 「日をずらそうかとも考えたけど、美岬ちゃんの体力なら大丈夫かもと思って来ちゃった」

 「おお、男の子かぁ」

 なんてあいさつがあって。

 慧思も、当然のように男の子が生まれる意味を解っているからね。我が事のように喜んでくれた。


 「で、名前は決まったのか?」

 と慧思が聞く。

 「ああ、今、その話をしていたところだ。

 『到』で『ゆき』、『悠』ならば『ゆう』、そのどちらかにしようかと思っているんだ」

 「『悠』で『ゆう』にしとけ」

 お、慧思にしちゃ珍しい。

 いつもの言い難いことを言う時の、申し訳ないっていう態度がない。


 「なぜ?」

 「『到』は『転倒』に通じるなんて屁理屈は言わんけどな、でも、少しでも名前としてありふれた字にしとけよ。

 俺が言うんだから間違いない」

 「あれっ、慧思、自分の名前で苦労したのか?」

 慧思という名は、僧侶である祖父が付けてくれた名前で、慧思禅師という僧から来ているらしい。なんでも、聖徳太子に生まれ変わったと言われている高僧らだとか。


 「ああ、文字どおりだ。

 僧侶になるとしたら偉大過ぎる名前だし、ならないとしたらわけが判らん。じいさんも、初孫に舞い上がって付けた名前なんだろうな。

 で、名前って、無意識にも本人が一番影響を受ける。

 たぶん、俺がこの性格になったのも、この名前のせいってのはあると思うよ。

 となると、『悠々』と生きる方が良くないか?

 まして、禅宗に繋がりがあると、『到』の字は『暫到和尚(ざんとうおしょう)』とか『新到(しんとう)和尚』なんて言葉が浮かんでな……」

 まったく以って、こういう知識では慧思には敵わない。


 「どういう意味だ?」

 「暫到がお客さん、新到が新米って意味だ」

 「ああ……。なるほど。

 だけど、それなら、『悟りに到る』ってことも言えないか?

 到るという字に、悪い意味はないのじゃないか?」

 屁理屈ではなく、単純にそう疑問に思ったんだ。


 慧思の言葉は簡潔だった。

 「双海、悟りに到って欲しいのか、この子に?」

 「えっ、まぁ、よく生きて欲しくはあるけど……。

 親として、この子に悟りに到って欲しいとまでは思ってないなぁ」

 「親として、それを願うのならば問題ないだろうさ。

 どこかに到るほどの一廉の人物になって欲しい、それは、願いとして当然のものだ。

 だが、双海、お前の望みはそこじゃないだろ?」

 ああ、確かにな。

 慧思、お前の言うとおりだ。


次話、フィナーレです。


長くお付き合い、ありがとうございました。

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