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同級生を彼女にしたら、世界最古の諜報機関に勤務することになりました 〜サイドストーリー〜  作者: 林海
第五章 新たな事態?編

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6 式根島にて


 式根島は、ほぼ記憶にあったとおりの姿のままだった。

 

 港に船をつけるのは目立つので、磯場の釣りポイントにつけてもらった。

 人数もいるけど、荷物も釣具が目立つしで、釣り人として不自然さはない。

 ただ、駐在さんの目は怖い。すべての船の発着を日課として見ているからね。でも、駐在さんに手が回っていることは考えなくていいだろう。

 それが救いだ。


 美岬には海を見ていてもらう。

 慧思が、レンタカーを借りに先行する。

 俺と美鈴(メイリン)で、足場を確認しながら荷物を車道脇まで運ぶ。二人で二往復必要だった。

 最後に、美岬が転ばないよう、エスコートする。足場はよくないからね。


 「まださぁ、つわりも来ていないのに、気を使い過ぎだよ」

 笑いながらそう言われても、「はいそうですか」ってわけにもいかないじゃんか。


 クーラーボックスはずっしりと重い。

 アオダイにイサキがたくさん。真鯛も大きいのが一匹いる。

 遊び半分で釣ったムロアジは数え切れない。

 四人で、一週間は無理にしても、四日は確実に食いつなげる量だ。ムロアジをすり身にしたり、干物にして保存食とすれば、さらに籠城期間が伸ばせる。

 鮮度のいい魚は、内臓から頭、ヒレまで捨てる場所がないから、なおのことだ。

 つわりで嫌われさえしなければ、魚はカルシウムも多いしね。もっとも、肝は妊婦には自粛してもらうけど。


 慧思が車を転がして現れた。

 荷物を積んで、貸別荘をやっているホテルでチェックイン手続き。

 米はあるので野菜を確保したら、慧思と二時間、みっちりと待ち伏せ体勢を整える。


 武器は一切持ってきていないから、現地調達。

 こういう時のために、現金は常に持ち歩いているけど、出ていく額が大きい。でも、この買物以降は安上がりで済むはずだ。

 慧思が太いPEの釣り糸と、重りを買ってきた。ヤスと特大の釣り針もだ。

 これだけあれば、相当に戦える。

 周囲は林で囲まれているので、その中にトラップを掛けるのにも使える。

 さらに、当然のことだけど、建物のクリーニングも行う。


 そうしたら、米を炊いて、大量のお刺身で食事だ。

 次の食事は、美鈴に中華風の魚の蒸し物でも作って貰おう。

 たぶん、全員で食事を取れるのはあと数回。

 そのあとは、常に最低1人は見張りに立たねばならないだろうな。



 さて、ここまでしたら、落ち着いていられる間に、問題の再検討だ。

 任務は、「なにを於いても先ず、美岬と美鈴の安全を確保。

 そして、食事にも最大限の注意」だった。


 「さて……」

 と切り出すと、慧思の目が泳いだ。なんだろうなとは思ったけれど、構わず話す。

 「この2つが意味することは、美岬と美鈴に、すでに何か一服盛られている可能性があるということだ。

 なぜならば、未遂であれば、相手を捕まえるまでは、盛られていたということ自体が判らないはずだ。

 つまり、すでに盛られているということになる」

 そう言って、俺、慧思の目が泳いでいる理由に思い至った。


 ……美岬の妊娠は、一服盛られているからではないのか。

 女性ホルモンのバランスをいつもの周期から崩し、その結果……。

 そこに気がついて、慧思は気を使うあまり挙動不審になっているんだ。


 美岬と目が合う。

 美岬も、同じ結論に達している。

 「取材やロケの場合、料理を作ったあと、その料理の撮影があって、その後に試食になる。

 つまり、一回は必ず目が離れるのよ」

 冷静に冷静に。

 美岬、そう自分に言い聞かせながら話している。


 「検診はしっかり受けよう。

 異常がなければ、なんの問題もない。俺と美岬の子ということは動かない」

 俺も、同じく自分に冷静でいろと叱咤しながら話す。


 「あなたたちの考えは解る。

 でもね、そうすると私はどうなの?

 私には恋人はいない。だから、妊娠はしないよ」

 美鈴が言う。


 確かにそうだ。

 だが、美鈴に一服盛るのは至難の業だ。基本的に、このネトゲ廃人は家から出ない。コンビニ弁当すらも買うことはない。買い貯めた食材を使った、自炊中心の食生活に介入するのは難しい。美鈴の食習慣は生まれた元の国のままなのだ。

 そんな中で、美鈴に無理にもなにかの薬を盛るとしたら、どんな症状を引き起こさせるか明確な目的が必要だ。


 美鈴は、身体は健康だけど、その生い立ちの不幸さは、未だその精神に影を落としている。誕生日だって判らないから、本人がこの日と決めた日でお祝いするくらいだ。とはいえ、日常を過ごすのに問題はない。

 弱点を突くとしたら、やはり精神的に不安定になるような薬に……。


 「美鈴、自殺願望ってあったりする?」

 口調は柔らかいけど、単刀直入に慧思が問う。

 こいつ、俺と同じ結論に達している。


 「今さらそんなものはない、とは言えない……」

 まぁ、そうだろうな。

 親からも捨てられ、道具として育てられた美鈴は、人を拒絶しながらも孤独には耐えられない。だから、順当にネトゲ廃人になったのだ。

 そんな美鈴に、一服盛らせるわけにはいかない。


 そうか。

 見えてきた。

 対象の狙いは、「分断」なのだ。

 美岬と「つはものとねり」の分断。

 美鈴と「つはものとねり」の分断。


 妊娠した美岬は、一定期間、確実に「つはものとねり」から分断される。

 本人の、「つはものとねり」から距離を置くという意志とは関係なく、だ。

 となると、問題は、この間の久野さんのリクルートと言うことになる。あれで、美岬は未だ「つはものとねり」の一員と見做された。


 美鈴もだ。

 美鈴も、ネトゲ廃人の生活は、ひたすらに目立たないという目的から成立している。

 自殺という行動が、成功しても失敗しても、それは目立つ。

 一定期間、事態によれば永遠に、「つはものとねり」と分断されることはやむを得ない。

 ネトゲの世界での活躍は無視するとしても、それだけ実生活で目立たずいた美鈴が注目されるとしたら、それはやはり、この間の久野さんのリクルートと言うことになる。あれで、美鈴は「つはものとねり」の一員と見做された。


 となると、対象はまたアメリカってことのなるのか?

 久野さんは、民間軍事会社(PMSC)にアクセスしていたからね。

 ただ、それはそれで簡単に頷けない。

 そんな単純な問題ならば、アメリカとの伝手でなんとでもなる。

 それに、久野さんによる、今までの任務の見直しも原因の一つと考えるのであれば、対象はアメリカではない。アメリカをも含む、国家横断的ななにかの組織だ。

 それも、秘密結社に近い。


 かといって、フリーメーソンだの、薔薇十字団だのを信じるほど俺たちはナイーブではない。歴史上の一定の働きを認め、かつ今でも一定の影響力があることさえも認めてもだ。

 特に今回の件は、「友愛」とか「相互扶助」のような、ふわっとした目的ではない。

 明確な意志が感じられるのだ。

 そして、組織員に対しても、明確な強制力を持っている。「他人に薬品を飲ませる」というハードルを超えさせる程度には、だ。

 このハードルは結構高い。

 場合によれば、自分が殺人犯になることを容認する覚悟が必要なのだ。


 もう一つ。

 美岬と美鈴に共通するのは、通常以上の感覚を有していること。

 美岬は赤外線が見えるし、美鈴はその指先で極めて少ない電位の差を感じ取ることができる。

 ……だからこそ、美岬と美鈴を一つのカテゴリーで、俺たちは考えてきた。


 しかし、美岬と美鈴(メイリン)で、それぞれに対して別の種類のものという認識で、異なった目的があり、それが極めて厳密なものだとしたら……。

 そして、それがなぜ今なのかと考えると……。


 問題は、一気に別の顔を見せ始める。


次回、陰湿、の予定です。

ようやく、雨ですね。

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