3 二つ目
すいません、サブタイトル変更しました。
ぼーっとしたまま、ただ天井を眺める。
部屋の窓の外に微かな気配を感じ、焦点の合い切らない視線を向けた。
スズメとかヒヨドリぐらいを予想していたのに、慧思の顔を発見して少しビビる。
視線が合ったのを確認すると、こいつ、窓を開けて部屋に入ってきやがった。コンビニの袋と濡れた靴を片手に下げている。
「風邪は大丈夫か?」
いきなりのご挨拶だな。
お前な、ここは二階だぞ? 積まれた雪も利用して外からよじ登ったんだろうけど、近所の人に見られたら、警察を呼ばれかねんぞ。
「言いたいことは解る」
こいつってば……。
「美岬ちゃんが早退したから、もしかしたらここにいるかとも思ったんだけど。
まぁ、来たとしてもすぐに帰っただろうと思ってさ。ちょっと覗いて、お前が寝ていたらそのまま帰ろうと思ってたんだ」
相変わらずいい読みだが、おかげで俺、まだ何もしゃべっていないのに会話が成立してる。
まあ、喉が痛いので、とても助かる。
心配してくれたのはありがとうな。
「お前が疑問を感じるって言ってた、幹細胞の特集の雑誌とアイスを買ってきた。食おうぜ」
って、お前もかよ。
ついでに、またダッツかよ。
ああ、気を使ってくれたんだね。よく解るよ。
で、これがさっきと同じバニラなのは、気を使ったと言うより、慧思の財布の事情だな。
内心で突っ込みながら、溶けかけのかなり緩くなったのを食べる。
一気に食いきったあと、慧思は空いたカップをコンビニ袋に戻し、そのまま立ち上がる。
「じゃあな」
「おい、早いな」
「風邪を移されたくない」
「そりゃそうだ。まぁ、ありがとうな。
代金は?」
ダッツのアイスだけならともかく、雑誌もある。
「気にするな。
替わりに、醤油が終わってた。一瓶貰えるか?」
「いいぞ。
階段下の収納に一本入ってたはずだ。持ってけ」
「サンキュー」
「ちょっと待て。
そのまま帰るなら、玄関から帰れ。鍵は、ポストに入れておけよ」
そう言って、鍵を放る。
「ん」
慧思は片手でキャッチする。
窓から帰られたら適わん。
俺の嗅覚の問題があるので、双海家では醤油は相当に良いものを使っている。
丸大豆から作り、杉の樽に二年寝かせた醤油だ。
醤油ってのは不思議なんだよ。
良いものにしたときは大して気が付かないのに、落としたときの不満はとても大きい。
冬休みの初めての訓練合宿のときに、慧思は俺が持ち込んだ醤油の味を覚えた。その時は、普通の顔して食っていたくせに、自宅に帰っていつもの得体の知れない特売醤油を使ったら、喉を通らなかったそうだ。
「こんなケミカル臭してたっけ、コレ」って、俺に聞くな。俺の十六年の人生で、十五年も前に通り過ぎたところだ、そこは。
匂いなんてものは、自分で判断しろ。
で、「これが普通でしょ」と言う妹の弥生ちゃんの顔を見て、「これはいかん」と思ったと。
その後、俺のうちで使っている醤油は、売っている店がそう多くはないので、買い貯めてあるストックから分けることになった。
ま、あいつも生活厳しいし、雑誌とかもわざわざ買ってきてくれたのだから、差額はお駄賃にして物々交換でよしとしよう。というか、俺がそう考えると慧思は思っている。だから、それに乗るってのが正しい。
胸元の開いた割烹着で実験って、いろいろな意味で危ないんじゃないだろうか?
だって、そこから自分についているホコリが外に出ちゃうだろうし、薬品が飛んできた時に防ぐこともできない。こういうのって、実験の基本だったんじゃないだろうか?
そんな疑問から、いろいろと情報を集めだしたけど、雑誌には何も答えは書いていない。
まぁ、疑問に思ったことを確認するのは訓練のうちとされているけど、こんな高度な生物学関係のことなんて、俺に判るわけないかな。
次回、三つ目、四つ目 の予定です。