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8/26 ③

「密会……? 何のことかなあ」


「あら、記憶が飛んでしまうほどディープな密会だったの?」


何だよ、ディープな密会って。まさか山内の頬をつねったことがバレてる……?


いや、現場を目撃されていたなら、さすがの僕も気がつくはずだ。


「神崎君、悪いことは言わないわ。別に怒ってるわけじゃないの」


「何のことだか」


「あくまでもしらを切るつもりなの? なら私にも考えがあるけれど」


「考え?」


「今から山内夏美を呼び出して三者面談をしましょう。そこでしっかりと事情聴取をして事実関係を確認するわ」


「ふん、勝手にすればいいさ」


さすがの鷹梨さんでも実行に移したりは……。


「そう」


鷹梨さんはスカートのポケットからスマホを取り出して電話をかけ始めた。


おい、マジでやるのかよ。


「あ、もしもし山内さん?」


あ、のぞみ、どうしたの〜? という山内の声が電話越しに聞こえる。


「あの、実はね」


「わかったわかった。全部話すから!」


僕は必死に、けれども小声で鷹梨さんに訴えかけた。


鷹梨さんはスマホを一度顔から遠ざけ「あ、そう。わかったわ」と僕に向かって言うと、再びスマホを耳に当てた。


「山内さん、ごめんなさいね。やっぱりなんでもないわ。それじゃあ」


電話を切った彼女は軽くため息をついた。


「さあ神崎君、話していただきましょうか」


僕は観念して、昼休みに屋上で山内とふたりで話をしていたと白状した。ただ、ひとまず、事の詳細は省いた。


「で、山内さんはあなたにどんな話をしたのかしら?」


「ええっと、ほら、僕と山内は小中が一緒だったから、その時の思い出話を少々」


「わざわざ人を騙してまでしたかった話が昔の思い出話?」


「そ、そういうこともあるんじゃないかな」


「本当にそれだけ?」


「そ、そうだよ」


ほっぺたつねったのはちょっと言えないからな……。


「じゃあ、山内さんに確認してみましょう」


そう言って鷹梨さんは再びポケットからスマホを取り出した。


あー、もう全部白状するしかねえ!


「わかった、わかったよ鷹梨さん。全部言うから!」


「最初からそうすればよかったのよ」






「ほっぺたつねり合いっこねぇ」


鷹梨さんは軽蔑の眼差しで僕の顔を覗き込んでくる。


「いや、つねり合ってはいない。僕がつねっただけ……」


「ふん、どっちでもいいわ。とにかく、あなたは私という存在がありながら他の女とイチャイチャしてたわけでしょう」


「だ、だからさ。山内が頼んできたんだよ。別に僕がつねらせてくださいって言ったわけじゃないんだ」


「で、どうだったのよ」


「え?」


「つねってみてどうだったのよ」


「えっと、夢を見ていたわけじゃないってわかったんじゃないかな」


「そうじゃなくて! どうだったの、何ていうかその『感じ』は」


なんだよ「感じ」って。柔らかかったです、とは言えないしな……。


「何とも、何とも思いませんでした」


「どうかしら。あなたのことだから欲情したりしたんじゃないの?」


そういう表現をするな……!


「な、何? 鷹梨さん妬いてんの?」


今の今まで僕を睨みつけて鷹梨さんはさっと目をそらした。


「な、何が言いたいの?」


「だからさ、僕がほかの女の子と少し話をしていただけでそんなに追求してくるってことは、鷹梨さん嫉妬してるんでしょ」


彼女はくるっと向き直ってスタスタと歩き出した。僕は足取り軽くついていった。


「嫉妬とかそういうことじゃないの。双方の同意に基づいて成立している交際関係において相手を裏切るような行為はあってはならないのよ。私は、神崎君、あなたのしたことは倫理的に許されざる行為だということを指摘しているのよ。だいたい『ほかの女の子と少し話をしていただけ』じゃないでしょう。屋上でイチャイチャしてたんでしょうが」


「ほう、じゃあ、どうしたら許してくれるんだ」


「私の頬もつねりなさい」


鷹梨さんは立ち止まって振り返った。


「ほら」


「どういう論理展開だよ」


「いいから」


「それ相応の理由がないとな」


「理由……?」


「そう、山内は『地球が滅んじゃうなんて、夢なんじゃないか』っていう理由だった。そういう理由がなけりゃあ、人の頬なんてつねたり出来ないよ」


鷹梨さんはうつむきがちの顔で少し考えた後、静かに言った。


「神崎君とこうして付き合えたこと、夢じゃないって確かめたいから……」


なんだよ、それ……。


僕はゴクリと唾を飲み込み、彼女の顔に右手を当てて親指と人差指で優しく頬をつまんだ。


「ほら、夢じゃないよ」


彼女の顔がだんだん赤くなっていく。


僕はその姿のいじらしさに我慢できなくなってしまい、パッと抱きついてしまった。


「夢じゃないよ」


「ちょっと……!」


鷹梨さんは慌てた声でそう言って僕から逃げようとしている。


「あのね、通学路で抱きついて来ないで! 誰が見てるかわからないんだから」


「いいじゃないか。『双方の同意に基づいた交際関係』なんだろう」


「馬鹿言いなさいっ! 親しき仲にも礼儀ありよ!」


「まったく、ツンツンなんだから鷹梨さんは〜」


僕はそう言って鷹梨さんにポカスカ殴られるまで抱きしめ続けた。


もしこの日の午後の通学路で異様な男女を見かけた人がいたら、その件については口外を控えてもらえるとありがたい。




【地球滅亡まであと8日】

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