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8/26 ①

【8/26(火)】


チャイムが鳴る30秒前に扉を開けて教室に入ると、そこには鷹梨さんや山内夏美、そのほか10名程度のクラスメイトがぽつりぽつりといるだけだった。


山内夏美は机に座って友人と大きな声で喋っている。まったく朝から元気がいい。そういえば山内も鷹梨さんと同じ女子バレー部だけど、教室では一緒にいるイメージじゃないよな。


ええっと、鷹梨さんは、ああ、静かに座って澄ました顔で本を読んでる。


こういう場合、ちゃんと鷹梨さんに挨拶したほうがいいのかな。そりゃ目が合えばひとこと「おはよう」くらいは言うけれど、彼女本読んでるし……。邪魔したら「何、本読んでるんだけど。私の読書を邪魔するほどあなたの挨拶に価値があると思ってるの?」とか言ってきそうな気もする。よし、とりあえず、しれっとスルーしよう。


昨晩から今朝にかけてどのテレビ局も「隕石接近」「地球滅亡」に関する話題を報じ続けていた。NASAが開いた記者会見の模様や専門家へのインタビュー映像を流したり、国内外で政治的、経済的、文化的にどのような影響が出始めているか、そんな内容を放送したりしていた。


総理大臣とか偉い政治家さんたちとかは「国民の皆様におかれましては普段通りの落ち着いた生活を送っていただくようお願いいたします」みたいなことを言っていたけれど、みんなそうも普段通りになんかしてられないだろう。


うちの母さんだって昨日家に着いた途端「どうしよ〜、ゆう〜」と言って脚に抱きついてきたし。


その意味では僕は模範的な国民なのかもしれない。こうして今日も普段通り学校が始まる30秒前に教室に到着しているというわけなのだから。まあ、普段通りがあんまり模範的ではないが。


そんなくだらないことを考えながら僕は自分の席に座った。


すぐには担任も来ないだろうとTwitterを見ていると僕に席に誰かが近づいてきた。


しまった、やっぱり挨拶するべきだったか。「恋人があなたのことを待っていたのに無視?」とかなんとか言い出すぞ。


僕は眉をひそめて少々嫌悪感をにじませた表情をしながら顔を上げた。始業のチャイムが鳴り始めている。


「ねえ、神崎」


そこに立っていたのは山内夏美だった。


「あんた今日、昼休みヒマ?」


「まあ、暇じゃないこともないけど」


「じゃあさ、話したいことあるから弁当持って屋上来てよ」


はい席についてくださ〜い、と言いながら担任が教室のドアを開けて入ってきた。


「じゃ、よろしく」


いや、ちょっと、という僕の声は自分の席に戻っていく彼女に届くことはなく朝のホームルームが始まった。担任は教室を見渡して、やっぱりですね〜、と登校している生徒数の少なさを嘆いている。


さて、どうしようか。山内になぜか僕の今日の昼休みをキープされてしまった。いや、別に僕自身が山内のことが嫌だとかそういうことではない。僕は構わない。ただ鷹梨さんはどう思うだろうか。そこが気がかりだ。


大体、いきなり「今日、昼休みヒマ?」ってなんだよ。あ、そうか、昨日のLINEはそういうことだったのか。俺に話があるからわざわざ今日学校に来るかどうか確認したのか。


しかし、2日連続の呼び出しとはね。しかも違う女の子から。昨日は体育館裏、今度は趣向を変えて屋上か。何の話なんでしょうね。


……まさか、まさかまさかの愛の告白!?


って、そんな突然モテキが到来するわけもないか。同じ小中だし「最後に同窓会しようよ!」とかそんな話だろう。


僕はその後の授業中、昼休み開始と同時にいかに鷹梨さんに捕まらないように教室を抜け出すか、あるいは、万が一捕獲された場合にいかなる弁論術でその場を切り抜けるかを考えていた。


4限の終わりを告げるチャイムが鳴った。僕はちらっと鷹梨さんの席の方を見た。すると、彼女はこちらを一瞥することもなくスッと立ち上がって教室から出ていってしまった。


僕のこと気にしていないみたいで助かった。いや、ちょっとは気にしてほしいんだけど……。


山内もすでに教室にいなかったので。僕は弁当を持って、ひとりで階段を上がり屋上に出た。


どこまでも広がる青い空に無数の雲が浮かんでいる。流石にクーラーの効いている教室の中よりも暑さはきつかったけれど、屋上を通り抜ける風は心地よかった。


貯水タンクが作った日陰の中に山内は座っていた。どこか遠くを見るような目で。


「山内」


「ああ、神崎」


彼女はうつむきがちな視線のまま、らしくない覇気のない声で言った。


僕はハツラツ少女山内夏美の元気の無さに戸惑いつつも彼女の隣に座って弁当箱を開いた。


「それで、話って?」


僕がそう聞くと山内は静かに話し始めた。

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