かじらなかったキミ
りんご、りんご。
まっかなりんご。
美しい深紅のりんごさん。
愛する小人に、「私を食べて」と誘う、
熟れた果実を差し出す。
それを頬張る小人は気づかない。
誘われる先が、永久の眠りであることに。
まるで、りんごに色を奪われたような
真っ白な頬を、彼女はそっとなでる。
あぁあんなに赤かったのに。もっと赤が必要だわ。
赤くないから目覚めてくれないんだわ。
彼女は赤を探した。そして見つけたのだ。
流れ出る美しい赤を。
彼女は次々と彼に赤を与えた。
彼女の周りにはもう誰もいない。一面の赤。
真っ赤に染まる恋人は、まだ目覚めない。
誰よりも愛おしい赤い恋人よ。
いつになったら目覚めてくれるの?
「目覚めなどしないのに……」
鏡の奥の誰かがつぶやいた気がした。
かじらなかったキミは、
失われた愛に狂い、赤の女王となる。
これは最高のバッドエンドだ。