引退試合②
試合の方は、紅組・飯島くんと白組・藤本くんによる投手戦だった。両者三塁を踏ませないピッチングで無失点に抑える。すると6回裏、白組は8番の西本くんが2ベースで出塁すると、続く藤本くんが送りバントを決め、1アウト3塁。ここで両チーム初めて三塁に走者が出る。ここで紅組ベンチが動き、投手が左腕の柳田くんに交代。
打席に立つのは1番の片岡くん。俊足の左打者だ。ただ、左投手に関してはやや苦手意識があり、紅組が絶体絶命のピンチで左投手である柳田くんを起用するというのは想定内のパターンだ。
結局片岡くんはどん詰まりのファーストゴロで2アウト3塁。2番の吉村くんに打順が回る。吉村くんは左投手に相性がいい。しかし、吉村くんは明らかに勝負を避けられたフォアボールとなり、2アウト1,3塁。3番の松井くんに打順が回る。
松井くんは強打の左打者だ。しかし、元々左投手には相性が悪く、簡単に2ストライクまで追い込まれた。しかし、松井くんはファールで粘り、フルカウントまで持ち込む。そして10球目・・・
松井くんの打球は、ライト方向へぐんぐん伸びていった。先制の3ランホームラン。白組ベンチは大騒ぎだ。
そして7回表、3点を先制した白組は藤本くんに代わって私が最終回のマウンドに上がった。
◇ ◇ ◇
打順は3番の新井くんから。新井くんは左の強打者だ。しかも、左投手も苦にしない。そして初球、私が投げたスプリットボールをライトへ持って行かれた。しかし、結果はファール。そして、私は2ストライクに追い込み、新井くんを三振に取ることができた。これで1アウト。続く打者は4番の克樹だ。強肩強打の大型捕手にしてUー15の正捕手。
私は西本くんからのサインをチェックする。西本くんが指示したサインは・・・敬遠だった。そして、白組の指揮を取る関口コーチのサインも敬遠。結局、克樹は敬遠となり、1アウト1塁。5番の中村くんに打順が回る。中村くんは左の強打者だ。しかし、左投手には相性が悪く、私は簡単に2ストライクまで追い込んた。しかし、私は1塁に克樹がいることを気にしすぎたのか、結局はフルカウントにしてしまった。そして8球目・・・
中村くんの打球は、ライト方向へぐんぐん伸びていった。2ランホームラン。これで3対2。1点差だ。当然、紅組ベンチは大騒ぎ。そして、私は西本くんから、「どこ投げてんだ!失投やぞ!」と言われてしまった。
しかし、私は6番の浅井くんをサードゴロに打ち取り、2アウト。あと1人だ。打席に立つのは7番の三浦くん。私は三浦くんを簡単に2ストライクまで追い込んだ。しかし、結局はセンター前に運ばれ、2アウト1塁。次は8番の薮田くんだ。私は1塁ランナーを気にしすぎたのか、カウントを悪くし、ストライクが取れないまま3ボールとなってしまった。ここで西本くんがタイムをかけ、私に「最悪歩かせてもいい。次は投手や」と言ってきた。結局、薮田くんはストレートのフォアボールで2アウト1,2塁。9番の柳田くんに打順が回る。そして私は柳田くんを3球三振に仕留め、ゲームセット。3対2で白組が勝利した。
◇ ◇ ◇
試合が終わると、互いに礼をし、父兄と下級生のいる観客席にも深く一礼をした。しかし、陽もすっかり西に傾いてしまった。
「なぎさ!高校でも頑張れ!父ちゃんは最後まで応援しとるで!」
私が観客席に向かうと、お父さんが私に向かって大声で叫んでいた。・・・お父さん、恥ずかしいからやめてよ。そして、最後はチームのみんなと握手しながら、トンボとローラーを取りに行く。そして・・・
「3年生、グラウンドにも一礼するぞ!気合い入れて、整備するぞ!」
「おーっ!!!!!」
私達3年生は、それぞれ整備用具を持って、日高監督の合図とともに、夕陽に照らされたグラウンドへ駆けて行ったのであった。