河内商業野球部①
「楓ちゃんのとこは、お父さんとお兄さんが河内実業の野球部OBだっね?」
「はいそうです」
「君のことはお父さんやお兄さんからよく聞いてるけど、男子に引けをとらない球を投げるんだって?」
「そうみたいですね・・・」
「動画で君のピッチングを見たんだが、やはりコントロールと変化球、そして打者のタイミングを狂わす投球術は高校でも通用すると思う」
「ありがとうございます」
松村監督は私に色々話をかけてきた。そして、
「実は俺の娘も来年から高校生なんだが、ウチの野球部に入りたいって言っているんだよ」
「え?でも河商って女子野球部ありますよね?」
「それが女子野球部の誘いを断ってしまったんだわ。入りたいのは男子の野球部だけだってね。これには女子部の監督もさすがにカンカンだったわ」
「そうなんですか?」
「・・・かく言う君も、ウチの女子野球部の誘いを断ったんだよね?」
「はい、そうですけど何か?」
「鳴尾の日高監督から、君のことを色々聞いたんだ。本気で甲子園のマウンドで投げようとしていること。そして、女性初のプロ野球選手になること。君の目標はこの2つで間違ってないね?」
「はい!私は絶対に甲子園のマウンドで投げますし、女性初のプロ野球選手になります!」
「しかし、ここで君の目標を妨げる大きな壁がある。現在、高野連は女子選手の公式戦参加を認めていない。君や松村楓のような男子に引けを取らないスペックを持ちながら、『女子である』だけの理由で甲子園を目指すことすらできない。公式戦に出ることすらできない。ただ、俺は高校野球の一指導者して、君や楓の夢を実現してあげたい・・・と思っている」
松村楓。この夏、ガリバーズカップを制した淀川中央シニアの2番セカンド。私が所属する鳴尾シニアも準決勝で涙を飲んだ。楓ちゃんの打撃センスと守備は男子と引けを取らない。しかし、河内商業の監督と同じ名字とはね・・・
「あの松村監督、松村楓って、監督の・・・」
「ああ、俺の娘だよ」
「やっぱりそうでしたか。彼女のスペックは男子並みでした。私もガリバーズカップの準決勝で、彼女に何球も粘られたし、挙げ句の果てには右方向に持ってかれてタイムリーを許しましたからね」
「それは俺が男子に勝てるよう、英才教育を施したからな。だから小学校の時はバイソンズのジュニアチームに選ばれたし、男女の体力差の違いが明らかになる中学校でも男子を差し置いて大阪東シニアのレギュラーになれた」
松村監督は楓ちゃんの話をし始めた。そして、
「そういう君も、お父さんからの英才教育を受けてきたんじゃないのかね?」
松村監督が、私にあることを言ってきたのだった。