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圧倒的な力


ティーア:マスカレードファイト会場入り口付近


「フゥンッ!」


 サキャリの拳が襲ってきた。私は横に飛んで回避したが、地面に命中した奴の拳は地面にめり込み、周囲にひび割れを発生させた。素手でこんなに威力があるとは……。正直驚きものだ。


「おやおや、避けたようだね。だが、これはどうだ!」


 奴は素早い動きで私に蹴りを入れた。


「ゴフッ!」


 この一撃は、私の腹に命中した。まずい……骨が折れる音が聞こえた……私は地面に倒れ、起き上がろうとしたのだが、骨が折れたせいで痛みが全身に走り、力が入らない。


「おやおや。今の一撃が致命傷らしいね」


 サキャリは笑いながら私に近付いてきた。まずい……今魔王は遠くで戦っているから助けに呼べない……この状況、自分で何とかしないと! だって私は……勇者だから!


 私は痛みを我慢し、深く深呼吸をした。このおかげで痛みをごまかすことができた。


「ほう。まだ立ち上がるのか。小娘のくせに素晴らしい根性だな」


「うるさいなー」


 私は剣を構え、サキャリに向かって放り投げた。だが、サキャリは飛んできた剣を片手で受け止めてしまった。


「剣を投げて攻撃したつもりかい? 君、剣の使い方が分からないのか?」


「へっ、あんたに言われなくても分かっているよ」


「おやおや、そんな態度をしていると……全身の骨をへし折って殺しちゃうよ」


「やってみなよ、筋肉ダルマ」


 私の言葉を聞き、サキャリは私に向かって剣を投げ返してきた。予想通り。私は魔力を発し、剣の中にある魔力を操作し始めた。


「何! 剣が途中で止まっただと!」


「隙あり!」


 私は驚いているサキャリに向かい、右の太ももに剣を突き刺した。


「グアッ!」


 足に攻撃を受けたサキャリは、短い悲鳴を上げてその場に片膝をついた。


「さて、もう一回!」


 私は槍を装備し、片膝をついたサキャリに近付き、左の太ももに槍を突き刺そうとした。だが、途中で槍の矛先は止まってしまった。


「油断していたよ。だけど、今度は油断しない」


 しまった! 奴はファントムアーマーを強化したな! ファントムアーマーは魔力を込めれば込めるほど、防御力が上がる!


「さーて、今度こそ……俺の一撃であの世へ送ってやる!」


 相手の攻撃がくる! 今は体が痛くて自由に動けない……いや、あれを使えば避けられる!


「死ね!」


「スカイウイング!」


 私はスカイウイングを使い、サキャリの攻撃を飛び上がって回避した。


「スカイウイングか……厄介なスキルを持っていたのか!」


 下では、サキャリが悔しそうにこう言った。さて、次はどうしよう。体の痛みは増してきているし、これ以上戦ったら折れた骨が臓器に突き刺さる恐れがある。速攻で決めよう!


「これ以上あんたみたいな筋肉ダルマと戦っていたら、骨が折れちゃうよ! だから……一気に決める!」


 私はこう言ったが、サキャリは大声で笑いながら私に向かって叫んだ。


「一気に決めるだと? 冗談を言うのが好きらしいな、君は。この戦いに勝つのは俺、死ぬのはお前だ!」


「いーや、逆だね。死なない程度にやるから、安心してよ」


 私は光の槍を出し、それに闇を込め始めた。光と闇が交わると、とんでもない威力の合体魔力となる。それなら、サキャリが使っている強化したファントムアーマーを破壊することができるかもしれない。ついでに、あいつを倒すことも可能だ。


「何だ……光の槍に、闇の波動が……」


 今だ! あいつが油断している隙に、この光と闇が混じった槍をぶん投げた。槍はあいつの足元に命中した。サキャリは攻撃が外れたと思い、ホッとしたような表情を見せた。油断したな。この槍は相手を刺すだけが攻撃じゃない。


「外したようだな……ん? 何だ、この音は?」


 槍の方から激しい音が聞こえる。この音の正体は、槍の中でぶつかり合っている光と闇の音である。もし、何らかの衝撃があったら、中の光と闇は大きく破裂するようにしてある。そう。私があの槍を地面に投げたのは、衝撃を与えるため。槍の攻撃は、ここから始まる!


 槍が地面に刺さった直後、光と闇は大きな音を立てて破裂した。混じりあう光と闇は大爆発を起こし、周囲に白と黒の煙を上げながら爆風を広げていった。


「グォォォォォォォォォォ!」


 爆発音の中から、サキャリの悲鳴が聞こえる。これが聞こえる限り、奴はまだ生きているってことだ。


 爆発が止み、私は傷ついた体で爆心地へと向かった。周囲は真っ黒に焦げており、その中央に黒焦げとなったサキャリが倒れていた。倒れたサキャリに近付いた私は、奴が生きているかどうかを調べた。


「生きているみたいだね」


 その後、私はナディさんに連絡をするために、無線のボタンを押した。


「爆発音がしましたが、何かありましたか?」


「いやー、証拠を探している時に監視カメラに姿を映しちゃって……」


「もしかして……追手と戦っていました?」


「うん。でもこっちは倒したから大丈夫です」


「そうですか。今、あの爆発音を聞いた近所の人から通報を受けています。もし、戦う時は静かにお願いします」


「分かりました。すみません」


「それで……ヴィルソルさんの方はどうですか?」


「魔王の方も終わった」


 この時、私は遠くの方で魔力を感じた。しまった、サキャリ以外にもう一人敵がいるのか! しかも、そいつは魔王の近くにいる!


「敵がいます。しばらくしたら連絡をします」


「分かりました」


 ナディさんと会話をした後、私は急いで魔王に連絡を入れた。


「魔王!」


「なんじゃ勇者。それよりも、さっきの爆発はなんじゃ。あれじゃあ近所迷惑だろうが」


「ナディさんにも叱られた。そんなことより! 敵が近くに」


「いるんじゃろ。我も察しておる。雑魚だけかと思ったがのう」


「今、さっきの戦いで骨が何本か折れたみたい。悪いけど、一人で戦える?」


「余裕じゃ。勇者、お主は魔力を使って体を癒しておれ。この戦いが終わったら合流しよう」


「了解。負けないでね」


「フッ、我が負けるか」


 魔王も敵の存在を察しているようだ。さて、魔王に言われた通り、魔力を使って体を癒していよう。




ヴィルソル:マスカレードファイト会場の離れ


 ただならぬ気配がする。どうやら我の戦う相手は、相当手慣れのようだな。


「出てこい。さっきから魔力を感じているぞ」


「あれれ? このお嬢さん、僕たちのことに気付いているみたいだよ」


「それじゃあ、結構強いみたいだね、マー君」


 会話をしているのか。じゃあ、敵の数は最低でも二人。だが、我が感じている魔力は一人分だぞ。


「何をこそこそ話している。出てこないなら、こっちから行く」


 我は闇の魔力を発し、声のした方へ発射した。だが、途中で闇の魔法は吹き飛んでしまった。軽くやったつもりだが、闇を弾き飛ばすとは、やはり……こいつは強いな。


「じゃあお望み通りに姿を見せよう」


 その後、我の前に黒服と似たようなスーツを着た男性が現れた。ただ、こいつは片手に腹話術で使うような人形を持っている。


「では初めまして。私はメニール。この子はマー君と言います」


「どうも、初めまして! 僕の名前はマー君です! 覚えてくださいね!」


 て……敵は腹話術を使うのか? にしても……このメニールという男、戦う気はあるのか? さっきから腹話術しかしておらぬではないか!


「それじゃあ早速お嬢さん、僕と遊んでよ! メニールお兄さん、協力してー」


「分かったよ、マー君!」


 奴らが会話をした直後、マー君人形は音を立てながら変形し、銃のような形になった。まさか、人形を武器になるとは思わなかった。


「さぁ、ハチの巣ごっこで遊びましょ!」


 どうやら……この戦い、予想外のことが起こりそうだな……油断せずに戦おう。


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