剣地の出番
ルハラ:観客席
今からケンジが出るゲームが始まる。いつもケンジの戦いを見ている私としては、ケンジが難なく勝つだろうと思っている。しかし、今回の戦いはケンジが人を殺すかもしれないのだ。もし、ケンジが手をかけなくても、攻撃を受けてバランスを崩したせいで溶解液に落下して死亡。そんなことになったらケンジは自分のことを攻めるだろう。だけど、ケンジのことだし、きっと何か考えを持っているはずだ。それに賭けるしかない。
「さーて! そろそろ次のゲームが始まるぞー!」
司会者の声が聞こえた。それを聞いた私以外の観客が歓声を上げた。あんなものを見てよくテンションを上げていられるね。ここの連中は心がないのか?
「さぁ、奴隷共の入場です!」
煙と共に、入場口から奴隷たちが無理やり連れてこられた。中には戦いを嫌がる人、戦いから逃げようとする人がいたが、黒服の男性が無理矢理戦いの場に繰り出していた。その中に、ケンジがいた。
「さぁ、試合が始まります!」
ちょっと待って! こんなに早くケンジが戦うなんて聞いてないよ! あーもう! 大丈夫かな、ケンジ。絶対に死なないでよね。
剣地:闘技場
はぁ、やるしかないのか。
俺は共に心の中で呟いた。他の奴隷は戦う気がなく、逃げようとしている。だが、黒服の野郎がそれを邪魔している。
あー、自分が助かる方法はいくつかあるけど、できれば他の奴隷も助けたいな。どうすればいいんだろう。
「坊主! よそ見をしているとあの世行だぜ!」
おっと。殺す気満々の奴隷もいるようだ。俺は攻撃を飛んで回避し、後ろに下がった。
「やるようだな、坊主」
「死にたくないなら、俺の考えに協力してくれよ」
「無駄だね! 何をどうあがこうが、結局は殺しあう運命だよ!」
どうやらこいつはこの先のことを考えた結果、どうしようもないことを察しているようだ。だが、そいつは足を滑らせてしまった。
「んなっ!」
「捕まれ!」
俺は手を差し伸べようとしたが、奴隷は俺の手を払ってこう叫んだ。
「ろくでもない未来があるのなら、死んだほうがましだ!」
奴隷はこう叫んだ後、溶解液へ落ちてしまった。クッ! 助かるはずの命を……あの奴隷はこの場に来たら、どうしようもないことを察していた。だから死を選んだ……。他の奴隷を見回すと、皆はあの奴隷の死を見て動揺しているようだ。だが、そのうちの一部がいきなり大声を出した。
「あーっひゃっひゃ! どうせ死ぬなら殺しまくって死んでやる!」
何訳の分かんねーことを言っている! クソ、どうやら頭がおかしくなったようだ、こんなものを見られたら、正気でいられねーからな!
「死ね! 死ね、死ねェェェェェ!」
「おーっと! ビロンって奴隷がおかしくなりましたー! 手にした槍を振り回し、攻撃をしています!」
司会者が面白そうにこう言った。それを聞いた観客席から、笑い声が聞こえた。あいつら! あんな状態の人を見て笑えるなんて、あいつらの方がおかしいんじゃねーのか? その時、ビロンが俺に向かって襲い掛かった。
「死ね、クソガキ!」
やばい! あいつのターゲットは俺のようだ! 俺は高く飛び上がり、上の段へ飛び移った。ビロンは高く飛び上がった俺を見て、柱を登り始めた。
「殺してやるから、そこで待っていろよ!」
「おいおい、あくまでも俺を殺す気かよ」
俺はそいつから逃げようとしたのだが、目の前に奴隷が現れた。
「ヒィッ! こっちへくるな、俺も巻き添えになる!」
「うーん……仕方ねー、おっさんも一緒に逃げるぞ!」
俺は怯えている奴隷のおっさんの手を引っ張り、先へ逃げた。その後もビロンは俺たちを狙い、走ってきた。
「待て! 逃げるな、臆病者!」
「しつこい奴だな」
仕方ない。俺はそう思い、魔力を使って頂上まで高く飛び上がった。
「うわ! 何だ、あの奴隷!」
「あいつ、強い魔力を持っているのか!」
「優秀な戦士がどうして奴隷に!」
観客席から驚きの声が上がっている。司会者の野郎も。
「何と! まさか、これほどの魔力の使い手が奴隷の中にいるとは思わなかった! さて、彼が今後どんなことをしでかすか注目です!」
と、興奮しながら実況していた。さて、どうするかな。今の行動で派手に目立ったし、変な行動はできないな。
俺が座って考えていると、助けた奴隷のおっさんが下を見て俺にこう言った。
「坊ちゃん、あいつが迫っている」
下を見ると、先ほどのビロンって奴が、俺たちを追ってジャングルジムを登っていたのだ。どれだけ俺たちに執着心があるのか。
「ゼハハハハハ! お前を殺せば、俺はヒーローだ!」
戦う気がある以上仕方がない、あいつを気絶させれば何とかなるか? 俺はそう思い、武器を取ろうとした。だが、ゲーム開始前に渡された武器は槍だった。しかも、かなりボロボロで一回でも相手に命中すれば壊れそうだ。
「こんな装備でまともに戦えるか!」
俺はそのぼろい槍を、投げ捨ててしまった。地面にぶつかった槍は、そのまま折れてしまった。そんな中、いきなりブザーが鳴り響いた。
「五分経過です! 死んだのが一人だけ! 何だよ、一人だけかよ。なら、もう少しこのゲームをヒートアップしましょう!」
その時、前にあるモニターに誰かのシルエットが浮かんだ。影じゃあ誰か分からなかったが、手には銃らしきものが握られていた。
「自称マスカレードファイト一のガンマン、ベガート! ベガートの登場だァァァァァ!」
司会者の叫び声の後、奴隷の入場口から煙が上がり、そこからカウボーイハットをかぶり、茶色いマントを羽織ったおっさんが現れた。
「ベガート、好きに暴れていいよー!」
「それではお言葉通り、暴れていきましょう」
その後、ベガートは俺と同じように高く飛び上がり、ジャングルジムに着地した。着地時に近くにいた奴隷は、悲鳴を上げながらその場に座り込んだ。
「だ……誰だ、あんたは!」
「さっきの説明聞いてなかったの? 俺はベガート。この大会一のガンマンさ」
ベガートはこう言うと、その奴隷に向かって拳銃を撃った。
「あの世で言いふらしな、最高のガンマンに額を打ち抜かれたと」
あいつはそう言うと、次々と奴隷を撃ち殺していった。あの野郎、息を吸うように人を殺しやがって! 俺がそう思っていると、あいつは俺たちを追っていたビロンに近付いて行った。
「ケッ、ガンマン気取りのバカ野郎か! お前には用はない!」
「私も君と同じ意見だ。君みたいな雑魚には用はない。死んでもらおう」
ベガートは俺たちを追っていたビロンを撃ち殺した後、俺たちの方を見てこう言った。
「そこで待ちな。戦うならそこで戦おうじゃないか」
あいつは俺たちと戦うつもりだ。だが、俺が助けた奴隷のおっさんは悲鳴を上げてその場に座り込んでいる。そして、今の俺には武器がない。いつも使っている武器は使えないため、今はナディさんが預かっている。こうなったら、魔力で戦うしかない! 俺は両手に雷を発し、ベガートがくるのを待った。
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