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狂気の宴


剣地:マスカレードファイト会場とされる廃ビルの前


 俺は仮面を付けたルハラと共にマスカレードファイトの会場へ向かっている。


 数日前、俺たちはナディさんと一緒に作戦を練っていた。話し合った結果、こんな感じでまとまった。


・三チームに分けて行動する。

・一チームはマスカレードファイト会場に忍び込み、ブレアがこの大会を開催している証拠を探し出す。

・別のチームはマスカレードファイトに参加し、派手に暴れて会場侵入組の動きをサポートする。

・さらに別のチームは本社に侵入し、ブレアの悪事の証拠を集める。


 行動内容が決まった後、この三チームをどうやって分けるか話し合いを始めた。で、こんな感じに決まった。


・マスカレードファイト参加チーム 剣地、ルハラ

・マスカレードファイト侵入チーム ティーア、ヴィルソル

・セブンワーオン侵入チーム 成瀬、ヴァリエーレ


 ティーアとヴィルソルの組み合わせは不安だけど、この二人は仕事の時はしっかりやるだろうと信じ、この組み合わせにした。


 で、俺は戦わされる奴隷の役になり、富豪役のルハラに連れられてこの会場に入ることになった。


「そろそろ会場です」


 ナディさんの同僚が俺たちにこう言った。俺たちの乗る車は、人の気配がない地域に建っている廃ビルへ向かっていた。


「このビルはカモフラージュです。会場は地下となります」


「このことはティーアとヴィルソルに伝えましたか?」


「はい。二人とも、すでに会場内に侵入したと思われます」


 あの二人はもう行動しているのか。気が早いな。だけど、仕事が早く片付くなら、それでいいか。


 そうこうしているうちに、車はビルの前に着いた。ビルの前に立っている黒い服の男性が、周囲を見回しながら俺たちに近付いた。そして、窓を開けるように指示を受け、ナディさんの同僚は窓を開けた。


「悪魔を泣かしたのは誰だ?」


「ダンテとバージル」


「よし、通れ」


 黒服の男性は、俺たちを駐車場の奥へ誘導した。さっきの悪魔を泣かしたのは誰だという質問は、マスカレードファイトへ入るための暗号のようなものだ。それに対し、ダンテとバージルと答えなければ中には入れない。この情報はナディさんが前もって手に入れたものだ。


 俺たちが車から出ると、黒服の男性は俺たちにその場で止まるように指示をした。


「今から身元を調べる。面倒だが、少し待っていてくれ」


 その後、黒服の男性は俺たちの身元を調べ始めた。前もって身元を調べるためにありとあらゆることをチェックされることは前もってナディさんが情報で手に入れている。チェックを抜けるために、俺とルハラ、同僚の男性は身元が分からないように、特殊なスキルを使って身元をごまかしている。本当はいけないことだけど、事件調査のために必要だから、許可を得てやっている。


「そこのエルフの少女はステラか」


 黒服の男性はじろじろとルハラを見つめた。今のルハラは富豪役。だが、服装は白い肩出しのワンピース。富豪が付けているような宝石やネックレス、指輪は付いていないのだ。


「本当に金持ちか?」


「私、宝石とかネックレスには興味ございませんの」


 ほー、本当に富豪のようだ。いつものルハラとは全然違う。


「で……そこの奴隷はコゴローというのか」


 そうだそうだ。俺は今、偽名でコゴローと名乗っていた。


「そうだ。俺がコゴローだ」


「こんな若さで奴隷になるとは、哀れだな。フッ」


 なんだ、こいつ。人を見下しやがって。ぶん殴ってやろうか。


「すまん。不幸な奴を見るとつい笑いが出てしまう。では、会場へご案内します」


 その後、俺とルハラは同僚の人と別れ、マスカレードファイト会場へ向かった。




ヴィルソル:マスカレードファイト会場


 我と勇者は、見張りの目をごまかしながらなんとか地下のマスカレードファイトの会場へ侵入することができた。我らは他の連中をごまかすために、仮面を被っている。この仮面、ナディが用意してくれた仮面であり、この中にナディたちと連絡が取れる超小型マイクが装備されている。しかも、電波も妨害されにくい特殊なものを使っている。便利な世の中になったもんだのう。


 おっと。そんなことより仕事だ。仕事。何とか我らがたどり着いた先は、テレビで見たバーのような内装だった。仮面を被った参加者が大量にいて、酒やつまみをおいしそうに口にしていた。


「あの人たち、全員が有名人だよね」


「ああ。仮面のせいで顔が分からないが」


 そう。ここへくるにはとんでもない額の金が必要だ。それをポンと出せるのは大企業の幹部化社長クラスの人間、あるいは超有名芸能人だけだと思う。仮面を付けているのは身元がばれないため、もしばれて情報が洩れてマスコミが騒いでも、仮面で顔が分からない。いざという時のために対策をしているのだろう。この光景を見てマスカレードファイトの名前の意味を知ったような気がする。


「勇者、人ごみの中を移動するぞ」


「うん」


 我らは身を隠すため、人ごみの中を移動し始めた。そうすれば怪しまれないだろう。道中、我は部屋の間取りを目で調べていた。ここはいくつか部屋が分かれている。まぁ、酒を飲む場所や軽食を取る場所がメインだが。しかし、中央の部屋のど真ん中には、でかい穴が開いている。直径百五十メートル位だろう。我の考えだが、ここで奴隷を戦わせるのだろう。その頭上では巨大な球体が回っていて、そこに人と人同士が戦っている映像が流れている。どうやら、過去に行われた試合を流しているようだ。この戦いの映像では、人同士が剣で斬り合いをしている。こんなことが行われているのか。そして、ここにいる連中はそれを見て楽しんでいる。本当に愚かな者たちだ。


 しかし、我らがここに入ってきたのは、愚かな行為を見るためではない。セブンワーオンの社長、ブレアがここの大会の指揮をしている証拠だ。それを見つけて、こんな愚かな場所は潰してしまおう。


「魔王、あそこを見てよ」


 勇者が我の肩を叩き、こう言った。勇者が指を指す方向は、関係者しか入れない扉があった。


「あそこに証拠がありそうじゃない」


「そうじゃのう。しかし、護衛もいるし、人目も付くだろう。あそこに入ろうとしただけで不審者に思われる」


「だよねぇ……うーん……」


 すぐに証拠を見つけたいのだが、このままでは身動きができん。どうしようか。


 我が悩んでいると、突如部屋中に大きな音楽が流れ始めた。


「うっわ! うるさ!」


「何じゃこれは!」


 我と勇者が耳を抑えながら周囲を調べると、球体の映像が切り替わり、黒いスーツを着た男性の映像が流れていた。


「ようこそ皆さん、マスカレードファイトへ! 司会はおなじみ、アナルド・ホライズンがお送りします!」


 どうやら、このイベントを仕切る男が現れたようだ。それなりの人気のようで、女性から黄色い声援を送られている。見た目は四十手前、体形はそれなりに筋肉質。顔はまぁまぁ。どちらにしろ、ケンジの方がカッコイイ。


「戦士たちの準備が終わり次第、マスカレードファイトを始めたいと思います! まず初めに行うのは、天国か地獄です!」


 アナルドがこう言うと、闘技場らしき場所の床が大きな音を立てて動き始めた。公園とかにある遊具のような物が現れ、地面には不気味な色をした液体が流れてきた。


「これから戦士たちはここで戦ってもらいます! 下に落ちたら溶解沼に落ち、ドロドロに溶けて死んでしまいます! この戦いで生き残る者はいるか? それとも全員死ぬのか? さぁ、ゲームの始まりを待ちましょう!」


 その後、映像は消え、再び過去の試合の様子が流れ始めた。だが、観客はその映像には目もくれず、近くにある部屋へ向かった。


「あそこの部屋、賭けをする部屋だったよ」


「これから始まる戦いの賭けを行うのか。人の殺し合いで賭けをするのか……本当に愚かな連中だ」


 我は賭けを行う部屋に集まる愚か者たちを見て、ため息を吐いた。そして、闘技場へ目を戻し、ケンジの無事を願った。


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