冒険の終わり
剣地:ボロボロになった城の最上階
何だ、あのバカでかい化け物は! 壁の中からいきなり現れて、我を起こしたとかなんか言っているし! というか、あれモンスターなのか?
「何じゃあれ!」
「変な銅像が動いているよー!」
ヴィルソルもティーアも混乱している。二人があれを見て驚いているなら、あれはモンスターじゃなさそうだ。じゃあ何だ? 古代の兵器か?
「何だいあんた? あんたが何を言おうがここの宝は全部私の物だ! 欲しくてもあんたにはやらないよ!」
ラロは化け物に向かってこう叫んだ。化け物はラロの方を見て、右手の斧を高く振り上げた。
「死ネ、愚カ者」
化け物は目にも見えない速度で斧を振り下ろした。斧の直撃を受けたラロは、無残な姿になってその場に崩れ倒れた。この光景を見ていた成瀬とヴァリエーレさんは俺に近付き、こう話した。
「あんな斧の一撃喰らったら、またあの神様の元へ行っちゃうわよ」
「どうするの……私たちだけじゃああれは防げないわ」
「けど、皆の力を一つにしてもやられるぞ……」
俺たちが会話をしていると、化け物は俺たちの方を見た。
「ソコノ貴様モ宝ガ目的カ?」
どうやら化け物は俺たちが宝を目当てにここにきたと思っている。冗談じゃない! 宝のために命を懸けてられるか!
「違う! 俺たちは山を登りにきただけだよ!」
「ソコノ男モ同ジ理由デキタノカ?」
どうやら化け物は入口で隠れているレクレスさんたちの存在に気付いているようだ。レクレスさんとゴメスさんは部屋の中に入り、化け物にこう言った。
「我々はこの山の頂上へ行くために、ここへ参りました」
「宝の存在なぞ、ホラ話としか思っていませんでした」
「我々の目的は宝ではありません」
レクレスさんたちの話を聞いた化け物は、目を赤く光らせてこう言った。
「分カッタ。珍シイ人間モイルノダナ。宝ヨリモ、山ヲ登リタイトハ……」
化け物は俺たちに近付き、再び目を赤く光らせてこう言った。
「頂上ハコノ城カラ数分デ到着スル。道中モンスターハ出ナイカラ安心シロ」
「道案内か。ありがと」
「ソレト、帰ル時ハ王家用ノ緊急脱出トンネルガアル。ソレヲ使エバ三日デ下ニ戻レル。我ハマタ、コノ部屋ヲ見守ルトスル……」
化け物は語り終えると、元の位置に戻った。そして、目から出る光が消えた。俺は深呼吸をし、皆の方を振り返ってこう言った。
「少し休んだら行くか」
成瀬:城の外
ついにイルシオンシャッツの頂上へ到着する。アルバリーク城跡から歩いて数分って言っていたから、本当にすぐに頂上だろう。
城から出て数分歩くと、レクレスさんが大きな声で叫んだ。
「頂上だ! 頂上が見えたぞ!」
そう言うと、テンションが上がったレクレスさんは走り出した。
「あ、ちょっと待ってくださいよ!」
危ないと思ったのだろうか、剣地が慌ててその後を追って走って行った。私たちも急いで向かった。
「はぁ……はぁ……やっと追いついた……」
私は剣地とレクレスさんに近付こうとしたのだが、目の前の光景を見て動きが止まった。
目の前に広がるのは雪が積もった山々、遠くにあるのは塔や城の姿、そして広大な草原と砂漠、それに海が見えていた。
「すごい……」
隣にいるヴァリエーレさんは、この光景を見て感動している。
「あれ、セントラー城じゃない?」
「そうだな。もしかしたらリーナ姫がいるかも」
「じゃああっちはプラチナタワーだね」
ルハラたちは楽しそうにこんな会話をしている。で、ゴメスさんは涙を流しながらこう言った。
「生きている間に……この山の頂上へくることができて……本当に良かった……いい物を見させてもらった……」
どうやら、ゴメスさんもここへ来るのが夢だったのかもしれない。私はそう思った。レクレスさんは制覇の証にと、私たちと一緒に頂上の写真を撮った。
「では、今日はここで休むとしよう」
「そうですね。いろいろあって疲れました」
というわけで、今日はここでキャンプを張り、休むことになった。安心安全な王家のトンネルがあると化け物は言っていたが、あれでも数日はかかる。あと少し、頑張ろう。
剣地:イルシオンシャッツ頂上
便所に行きたい。
夜中、俺はそう思って簡易トイレの所へ向かった。さっさと用を終えてテントの中に戻ろうとしたのだが、なぜか成瀬たちが外で座っていた。
「まだ起きていたのか」
「あ、ケンジ」
ルハラが俺の存在に気付いた。その後、成瀬たちは俺に夜の頂上の風景を見せた。
「へぇ、昼とは違って結構幻想的だな」
夜の風景は明るい時と違い、人が住んでいる所では明かりが点いていた。それに、電車のような物が走っているのか、早く動く光もあった。
「この世界って、結構発達しているな」
俺はこう呟いた。ここへ転生して、最初に思ったのはファンタジー作品のような場所だなと思っていた。だが、実際は車もあるし、電気もある。魔力だけど。魔法みたいな力と科学が存在するせいか地球より文明が発達している。
「ケンジ、この世界は広い。その分人もたくさんいるわ」
「いい人もいれば、悪い奴もいる」
「人がいるだけ、ギルドの依頼があるんじゃないのかな?」
ヴァリエーレさんとティーア、ルハラが俺にこう言った。
「はは。確かにそうだな。人がたくさんいる分、いろんなことがありそうだな」
俺は笑いながらこう返した。その時、ヴィルソルが咳をし、俺たちにこう言った。
「この光景を見て感動するのはよいが、風邪をひくぞ」
「はーい」
その後、俺たちはテントの中へ戻って眠りについた。
それから、俺たちは王家のトンネルを使い、下に戻ることにした。あの化け物の言う通りモンスターは出てこなかった。だが、坂が急でうまく歩けなかった。何度転んだことやら。だけどその結果、化け物の言う通り三日で入口に戻れた。
俺たちはゴメスさんの家へ行き、ゴメスさんと別れることになった。
「この冒険は死ぬまで忘れません。悲しいことや辛いこともありましたが、いろいろと学ぶこともできました」
ゴメスさんの言葉を聞き、俺たちは別れの言葉を言った。そして、帰りの車に乗ってイルシオンシャッツから去って行った。
イルシオンシャッツから近くのギルドへ行き、俺たちは今回の仕事の報告を行った。
「護衛には成功。イルシオンシャッツも制覇したと。しかし、レクレスさんの連れと別の目的で同行した冒険者四人、合わせて五人が死亡したと」
「冒険者のラロって姉ちゃんが相方のギメキを殺害しました」
「あらら、こんな事件があったのですね。で、ラロさんは?」
「イルシオンシャッツで亡くなりました」
俺たちは今回の任務のことを細かく説明した。キーツが麻薬売買をしていたこと、ゴンダさんが麻薬のせいでおかしくなったこと、そして、皆がどうやって死んだかを。ただ、アルバリーク城の宝のことは伏せておくことにした。宝があると欲深い奴が知ったら、またあの化け物の餌食になるだろうから。
「では、依頼人であるミッシェルさんをお呼びします。彼女は今別の所にいますので、それまでこのギルドで待機をしていてください」
というわけで、俺たちはこのギルドで一晩過ごすことになった。ミッシェルさんには連絡が付いたが、到着は明日のようだ。まぁ、明日だったらいいか。俺はそう思いながら、用意された部屋へ向かった。
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