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謎の廃墟


レクレスの日記:五日目


 二人目の犠牲者が出てしまった。キーツに関しては、特に悲しみがあふれてこない。奴がろくでなしだからかだろうか? しかし、あんな奴にも家族や慕っている人間はいるだろう。そう思うと少し切なくなる。死体を回収し、この冒険が終わった後で墓にでも入れてやろうと思っていたが、スノーシャークに食べられてしまい、死体の回収は不可能に近いだろう。


 この後の道のりは険しいだろう。ゴメスさんはそれ以降の道は分からないと言っている。これから挑むのは本当に前人未到の地。何が起きてもおかしくはない。心して行かねば、また犠牲者が出てしまうだろう。




成瀬:テントの前


「うが! うぎゃァァァァァァァァァァ!」


 私は叫び声を聞き、何事かと思って起き上がった。声の主はゴンダだった。大人しく魔力で眠らせていたけど、今になって起きたみたい。


「あれをよこせ! 早く!」


「ちょっと失礼します」


 私は昨日、ヴィルソルがやったみたいに睡眠作用のある飲み水を魔力で作り、ゴンダに飲ませた。それを飲んだゴンダは暴れていたけど、しばらくして眠り始めた。


「何だ? 何があった?」


 と、剣地があくびをしながら起き上がって来た。私は事情を説明すると、剣地は考えながらこう言った。


「この人、どうする? 麻薬中毒は魔力で治せないだろ?」


「ええ。だけど放置するのも危険だし……」


「眠っている間、俺のインフィニティポーチの中に入れておくか?」


「起きたらどうするの?」


「うーん……」


 私の問いに対し、剣地は考え始めた。倒れた人や気絶した人をインフィニティポーチの中に入れることはあったけど、もしインフィニティポーチの中で起き上がって暴れたらどうなるのだろう? 私はそれが不安だった。


「話は聞いたぞ」


 そこに現れたのはヴィルソル。ヴィルソルは爆睡しているゴンダに近付き、闇の魔力で作ったロープで縛り始めた。


「こいつの世話は我がする。暴れた時にもう一度睡眠水を飲ませる」


「分かった。無理するなよ」


 と、剣地はヴィルソルにこう言った。今日もヴィルソルは戦いに参加できないだろう。こうなったら私たちが頑張るしかない。


 数分後、私たちは出発することになった。ここから先はゴメスさんでも知らない道だという。レクレスさんは出発前に戦える者は前に出て、バリアや負傷者の手当てができるものは後ろに下がれと伝えていた。その話を聞いた私たちは念入りに話し合い、こう歩くことにした。


前の方:剣地、ヴァリエーレさん、ティーア、ギメキ、レクレスさん、私


後ろの方:ヴィルソルと爆睡中のゴンダ、ゴメスさん、ルハラ、ラロ


 この順番で行くことにした。


 しばらく歩く中、私たちは何度もモンスターに襲われた。キーツの命を奪ったスノーシャーク、雪崩の中に潜んで命を狙うアサシンモンキー、無我夢中で私たちに襲ってくるスノーバッドとスノーウルフ。どれもこれも一度戦ったことのあるモンスターだった。何度も戦ったせいで、私は対処法もどのタイミングで攻撃すればいいか把握している。経験のおかげで私たちは難なく前に進むことができた。


 数時間後、前を歩く剣地とヴァリエーレさんの動きが止まった。


「どうかしたの?」


 私がこう聞くと、剣地は目の前を指さした。そこには、大きな廃墟があった。


「まさか……この山にこんなものがあったとは……」


 ゴメスさんは驚きながらこう言った。


「秘境の地の廃墟か……何かあるに違いない!」


 レクレスさんは興奮気味にこう言うと、速足で先に行こうとした。


「あ! ちょっと待ってください!」


「無暗に先に行かないでくださいよ!」


「何があるか分からないのにー!」


 剣地とヴァリエーレさんとティーアはレクレスさんの後を追って行った。その途中、レクレスさんの姿が急に消えた。何事かと思い、私たちは急いでその場に向かおうとした。


「おいおい……何がどうなって……」


 剣地が慌てながらこう言った直後だった。


「え? おわっ!」


 剣地は悲鳴を上げながら姿を消してしまったのだ。


「ケンジ!」


 ヴァリエーレさんとティーアは剣地の名を呼んで近付こうとしたのだが、二人の姿も急に消えてしまった。一体どうなっているの?


「ちょっと待て。我が確認してくる」


 ヴィルソルは爆睡しているゴンダを私に任すと、前に出て調べ始めた。その後、ヴィルソルはため息を吐きながら戻ってきた。


「落とし穴じゃ。どうやら侵入者対策に作られた罠らしい」


「罠って……じゃあここは……」


「昔のお城かもねー」


 ルハラの言葉を聞いたギメキとラロが、目の色を変えて先に走って行った。


「あの話は幻じゃなかった!」


「お宝があるかもしれないわ!」


 二人はそう話しながら、先に進んでいった。


「ああもう、あのバカ共は……」


 二人の行動を見たヴィルソルが、呆れてこう言った。その直後、廃墟の二階から音が聞こえた。


「何かくる、構えろ!」


 私とルハラはヴィルソルに言われた通り、戦いに入れるように身構えた。前にいるギメキとラロも異変に気付き、剣を抜いていた。どうやら、箱のような何かが私たちのいる場所に向かって落ちてきたようだ。だが、一体誰がこんなことを。


「何だよ、ただの箱か。驚いたぜ」


 と、ギメキは落ちてきた箱を剣で突き始めた。その直後、箱の中央部分にある黒い紋章が赤く光出し、箱からガシャガシャと音が聞こえた。


「な……何だ、何だ!」


 ギメキとラロは驚き、急いで私たちの所へ戻ってきた。箱は音を立てながら変形を始めた。後足が現れ、続けて前足も現れた。そして、ライオンのような顔が現れ、大きな声を上げた。


「これもトラップか?」


「そのようじゃ。一旦下がろう」


 ゴメスさんがこう言うと、ルハラは慌ててこう反論した。


「ちょっと待って! ケンジたちも落っこちたままだよ!」


「じゃああの化け物を倒すのか?」


 私は少し考えたけど……出てきた答えは一つしかなかった。


「私がやります。すぐに終わるのでちょっと待っていてください」


 私はそう言って前に出て、両手に魔力を発生させた。次に両手を前に出し、発生させた魔力を増幅させた。そして、力を溜めて一気に解き放った。解き放った魔力はビームのように発射され、謎の箱に命中し、爆発した。


「なんと……これほどの力があったとは……」


 私の実力を見たゴメスさんが、目を開いてこう呟いた。だが、戦いはまだ終わってなかった。ボロボロになった箱は黒い煙を上げながら、私に近付いてきた。ところどころショートしているようだし、一部小さい爆発が起きている。嫌な予感がする。まさか自爆する気?


「皆下がって! あの様子だと爆発するかも!」


 私は大声でこう言ったが、その声を聞いたのか、ゴンダが起き上がった。


「ごァァァァァァァァァァ!」


 ゴンダは力任せで闇の縄をほどき、剣を構えて箱に向かって突進していった。


「何! 我の闇が!」


 ヴィルソルは慌ててゴンダの後を追おうとしたが、ゴンダは私とすれ違いにこう言った。


「俺が犠牲になる。その後は任せたぜ」


 私はえっと思い、走るゴンダの姿を見た。途中、ゴンダは私の方を見てウィンクをした。まさか、一時的に我に戻ったのか?


「うォォォォォ!」


 ゴンダは箱に突進し、私たちから箱を遠ざけた。その時、ゴンダは大声でこう言った。


「皆! 死ぬなよ! そんでもって、悪い奴に騙されて俺みたいになるなよ!」


 その直後、箱は大きな爆発を起こした。爆発の威力は強かったのか、少し離れている私たちまで爆風が届いていた。もし、ゴンダが遠ざけてくれなかったら私たちは爆発に巻き込まれて死んでいただろう。


 煙が止み、私は爆発の中心へ向かった。地面は真っ黒に焦げ、辺りには箱の部品らしきものが散らばっていた。だが、ゴンダの体や身に着けていた衣類は辺りにはなかった。それらが粉々になるほど、あの爆発の威力は大きかったのだろう。


「そんな……」


 何だろう……すごく悔しい……すごく悲しい……。あの時、どうしていればゴンダは犠牲にならずに済んだのだろう。私がバリアを張っていれば助かったのかな? 私が魔力で箱を吹き飛ばしたら助かったのかな?


「ナルセ。落ち着け」


 ヴィルソルがこう言って、私の頬を軽く叩いた。


「何をどうしたって、考えたって、時は戻らない。後悔する気持ちは分かる。だが……前に進むしかない。それしかできない」


 ヴィルソルはこう言って、私を優しく抱きしめた。その後、私は大きな声で泣き始めた。


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