キーツの正体
ティーア:テント前
昨日は嫌な思いをした。目の前で人が殺されるところを目の当たりにしてしまったからだ。クァレバの連中からリーナ姫を守っていた時、奴らが城の兵士を殺したことを思い出した。うえ。思い出しただけで気持ち悪くなってきた。
「大丈夫かティーア? 顔色悪いぞ」
と、ケンジが私に近付いてこう言った。
「うん。何とか大丈夫」
「昨日のあれは酷かったからな……キーツって人、あれからずっと怯えているよ」
「ゴメスさんに叱られたからね。まぁ、あれで身勝手な行動は控えるでしょう」
「だな。俺たちもなるべくレクレスさんやゴメスさんの言うことを聞いて行動しよう。この山は危険だ」
「うん」
それから数分後、準備を終えた私たちは再び山を登り始めた。
「まさか、インフィニティポーチに遺体を入れるとは……」
と、ケンジが小声でこう言った。ティルさんがアサシンモンキーに殺された後、ケンジがティルさんの遺体や遺品をインフィニティポーチに入れていたのだ。
「これが終わったら、ちゃんとお墓に入れてあげましょう」
「ああ。その前に俺が死ななければいいが……というか、俺が死んだらインフィニティポーチの中ってどうなる?」
「さぁ?」
ケンジとナルセは会話を終え、協力してバリアを張った。
吹雪は相変わらず強い。この山に三日もいるから、大分この寒さにも慣れたと信じたい。この中での戦いは慣れたけど、まだ手がかじかんでいつものように武器が使えないのだ。
「気を付けろ。アサシンモンキーがいる」
と、ゴメスさんがこう言った。私たちは戦闘の構えを取り、雪の中から襲ってくるアサシンモンキーと戦い始めた。
ヴァリエーレ:山の道中
あれからもう何回モンスターと戦ったのだろう。今日だけでアサシンモンキーの群れ、その後はスノーバッドとスノーウルフの群れ、挙句の果てにはホワイトベアという、凶暴な雪山に住む熊のモンスターも出てきた。皆私たちがやっつけたけど、上に行くにつれてモンスターの凶暴さや強さも増してきている。スノーバットやスノーウルフも、下に生息したものに比べ、攻撃力も生命力も倍以上ある。
「くあーっ! なんだかこいつら強くなってねーか?」
斬り刻んだスノーウルフの死体を蹴り飛ばしながら、ゴンダがこう言った。
「そうだな。上に行けば行くほど、強くなるのか?」
「こんな悪天候の山だもの、それに対応するようにモンスターも進化するってわけ」
武器をしまいながら、ギメキとラロがこう言った。その後、ゴンダはナルセが張ったバリアの中で避難しているキーツを睨み、近付いてこう叫んだ。
「おい、キーツだっけ? お前も少しは戦えよ! いつもこの嬢ちゃんが張ってくれるバリアの中へ避難しやがって! 他の奴らを見てみろよ、レクレスやゴメスのおっさんもそれなりに戦っているし、坊主やエルフの嬢ちゃん、ナイスバディの姉ちゃんや金髪の嬢ちゃん、褐色の嬢ちゃんも戦っているぜ! それに、バリアを使っている嬢ちゃんも戦う時がある! なのに、お前はいつも戦ってねー! そのリュックの中の武器を使って戦えよ! というか、何が入っている? 見せろ!」
「止めろ! 近付かないでくれ! 私は宝やこの山の制覇には興味がない!」
「じゃあ何の目的でここにきた? 観光じゃあるまいし、一体何だ?」
怒りをあらわにしたゴメスがキーツに近付いたが、キーツは悲鳴を上げながらナルセを盾にして逃げた。この人は本当に最悪な人ね。
「おい。あんなバカに構う暇があるなら先に行こうぜ」
「私もそう思う。君に対しての処罰は、この冒険が終わった後で考えよう」
と、ギメキとレクレスさんがこう言った。それに対し、キーツは二人を睨んでいた。いや……私たちを睨んでいるように見えた。
ヴィルソル:テントの中
我らは今、テントの中にいる。吹雪が予想以上に強くなったため、予定を変更して早めに休むことにした。今日は誰も死なずに済んだ。ただ、キーツのことで少々空気が悪くなっているのだが。口論を聞いてはいたのだが、キーツはリュックが取られそうになった時、かなり慌てていた。奴が持っているリュックの中には一体何が入っているのだろうか?
しばらくして、我らは食事をとり、眠ることにした。昨日おとといと同じように我はケンジと一緒の寝袋で眠っている。しかし、ナルセたちはいるが。
「あー……早くベッドの上でケンジといちゃつきながら眠りたいの」
「何言っているの、魔王。ケンジといちゃつくのは私だよ」
この勇者は……我と同じようなことを考えて……いや、ナルセたちも同じ考えか。同じ男を愛する女だ。こうなったら……この任務を終えた後は皆と一緒にケンジを愛してやれ。そう思っていると、何かの音が聞こえた。
「モンスター?」
横にいた勇者が小声で我にこう聞いた。気配を察してみたが、モンスターの気配はないようだ。
「違う」
「じゃあ何の音?」
「周囲を見てみる。我の目は闇夜に強いからな」
本当はクロウアイを持つケンジと共に探ろうとしたのだが、ヴァリエーレのマザーボディに癒されたのか、ナルセとルハラと一緒に熟睡している。
「これが終わったら我も眠ろう」
そう呟きながら、我は周囲を見回した。すると、キーツが持っているリュックに誰かがいる。
「誰かがキーツの荷物を調べているのか?」
「え?」
突如聞こえた男の声を聞き、我は驚いて大声を出そうとしたのだが、勇者がそれに反応して我の口を押えた。その後、我と勇者は後ろを見て、声の主を目にした。
「レクレスさん? どうしてここに?」
声の主はレクレスだった。いきなり現れたから、魔王である我もびっくりする。
「日記を書いていた。冒険中は夜に日記を書くようにしているのだ」
「で、誰が調べているか分かりますか?」
「ゴンダだ」
「もしかして、クロウアイを持っているのか?」
「そうだ。夜の道を歩くときに使用している。一緒に奴の様子を見よう」
我と勇者はレクレスに言われ、少しゴンダの様子を見た。だが、あいつはリュックを閉じた後、自分の寝袋に入った。我と勇者は音を立てずに寝袋から出て、レクレスと共にキーツのリュックを調べた。
「荒らされているね」
勇者がリュックの中を見て、一言こう言った。リュックの中はタオルや洗顔用具、歯ブラシや傷薬があった。しかし、その中に交じって白い粉が入っていた。
「これはまさか、ホワイトソナスか?」
ホワイトソナス。聞いたことがある。こいつは麻薬の一種で、服用すると痛みなどの感覚が和らぐが、その代償として幻を見てしまう。しかも、強い中毒性があるため、何度もこの薬を求める人がいる。
しかし、ホワイトソナスは寒い地域でしか育つことはできない。まさかキーツは、ホワイトソナスを作るために下見にきたのでは? とにかく明日、話を聞いてみないと。その前に、ゴンダがリュックを調べた後、どうなったのか分からない。
レクレスの日記:三日目
ティルが死亡してから、空気が悪くなった。皆キーツが悪いと思っているのだろう。私はあの事故はわざとではないと思っている。どんな理由があろうと自分の荷物を守る行為は納得がいく。それまでは私はそう思っていたが、キーツの正体を知ってからは奴に対して情けをかけないことにした。
この日の夜、ティーアとヴィルソルと共にキーツのリュックからホワイトソナスが入った袋を発見した。ホワイトソナスは寒冷地でしか育たない。キーツはそのためにこの山に来たのだろう。だとしたら、本当に愚かなことだ。
実は、キーツの名は一部で聞いたことがあった。芸能人のパーティーに呼ばれた時、そいつの名前を聞いたのだ。その時はどこかの芸能人のマネージャーだったのだが、彼が急に名の知れる富豪になったことを不審に思っていた。それに、キーツは芸能関係に強いパイプを持っているとの噂も聞いている。もしかして麻薬を使い、芸能人を相手に薬を売りさばいて荒稼ぎしたのだろう。人の人生を台無しにして金を稼ぐなんて、最悪な男だ。すぐに奴の真の正体を暴きたいが、この状況でそんなことをしたら冒険が滅茶苦茶になる。奴のことは後回しにしよう。
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