騒動の後
剣地:部屋
俺はあの後、気を失ったらしい。ヴァリエーレさん曰く、魔力の使い過ぎだそうだ。あの後のことをヴァリエーレさんが細かく教えてくれた。メヘーラジュードの群れは全滅し、ロイボの町は救われた。それから成瀬、ルハラ、ティーアは町で行われている祭りに参加したようだ。で、ヴィルソルはヴァリエーレさんと一緒に俺の看病をしてくれた。
俺は丸一日眠っていた。目を覚ましたら心配した成瀬たちが俺に抱き着いてきた。で、ヴァリエーレさんがいろいろと教えてくれたわけ。
「さてと……明日はゆっくり休むか」
俺はベッドの上で横になり、皆にこう言った。魔力を使いすぎかどうか知らないけど、体がちょっとだるいのだ。
「ケンジ、今すぐ癒すよ」
と、ティーアが俺の前で横になり、優しく抱きしめた。あれ? 何この感じ? 体中の力が抜ける。変な気分がするけど、気持ち悪いとかの類じゃない。体の奥底からリラックスしている感じだ。
「マザーボディってスキルだよ。結構癒されるでしょ」
「ああ……なんかすげー安心する……」
赤ちゃんが母親に抱かれる気分ってこんな感じなのかな。俺は親もいないし、幼いころの記憶とかないから全然分からない。だけど、こんな気分だろうなと思った。
成瀬:部屋の中
「探検家、レクレス・レントゥスがイルシオンシャッツに登るってさー」
「ほう。あのおっかない山に登るのか。大した根性じゃのう」
ルハラとヴィルソルがコーヒーを飲みながら話をしていた。ヴァリエーレさんはティーアと編み物勝負している。で、私は剣地と本を読んでいた。
「しばらくしたらさ、皆でバカンスとかに行かねーか?」
「行きたいけど……依頼とかどうするの?」
「休みの時はきちんと休めってギルドの姉ちゃんが言っていたな。依頼は他の人に任せればいいと思う」
「そうね。この前のセントラー王国での依頼で入ったお金もあるし」
「それに、メヘーラジュードの討伐で結構報酬金貰ったし、奴らの素材を売った金もあるしのう。たまにはいいじゃないか?」
と、ヴィルソルが私と剣地の会話に入って来た。
「ルハラは?」
「あそこで妄想しておる」
ヴィルソルはよだれを垂らし、スケベなことを考えているルハラを指さしてこう言った。
「あいつ、バカンス地で何をするだろう?」
「確実に騒動を起こすじゃろう」
ヴィルソルは呆れたようにこう言った。
しばらくし、テレビを付けたが、どのチャンネルもレクレスって冒険者が山に登るってことしか放送しなかった。
「ねぇ、このレクレスって人有名なの?」
「ええ。ケンジとナルセがここへ転生する前からかなりの有名人よ」
「何度も危険な山を制覇したの」
ヴァリエーレさんとティーアの話を聞き、剣地はテレビを見つめていた。
「この世界にも登山者っているのか」
「この世界にはまだ誰も登ったことがない山がいくつもあるの。レクレスは体が動く限りその山に挑むって言っていたわ」
「何回か死にかけたことがあるらしいけど」
「それでも山に行くって……かなりの根性を持ってる人ね」
私は机の上のお茶を取り、一口飲んだ。
それから後、私たちは久しぶりに町を見回すことにした。町の人たちは私たちを見て、町をメヘーラジュードから救ってくれた英雄と言っていた。なんていうか、こう言われるのは少し恥ずかしい。
「ハーッハッハ! あんなドラゴン、魔王である我にとって敵ではないわ!」
「勇者である私なら、あんなのすぐ片付けられるよ!」
おだてられていい気になったのか、ティーアとヴィルソルが大声でこう叫んでいた。それに合わせて町の人もテンションが上がっている。少しではなくかなり恥ずかしい。
久しぶりに町の中を歩いたな。皆で行動するとやっぱり騒動が起きる。ルハラが手当たり次第に歩く女性にセクハラしたり、ティーアとヴィルソルがレストランで大食いを競い合ったり。それはもう大変だった。
「なんだかんだあるけど、楽しいな」
と、クレープ片手に剣地はこう言うけど……まぁ皆思い思いに動いているからまぁいいか。しばらく戦いが続いたし、少しはリラックスしないとね。と思っていると、ギルドのお姉さんが走ってきた。
「いやー探しましたよ……ケンジさんたちに依頼が……あって……」
「依頼? 誰からですか?」
「ミッシェル・レントゥス。冒険家、レクレス・レントゥスの娘さんです」
どうやら急な仕事が入ったようだ。私はルハラたちを呼び、ギルドへ向かった。
ヴァリエーレ:ギルド会議室
冒険家、レクレスに娘がいるとは思わなかった。あの人は結婚したが、子供のことは何も言わなかったのだ。
「お休みのところ申し訳ありません」
ギルドの会議室、中央の椅子にレクレスの娘であるミッシェルさんが座っていた。私たちが席に座ると、彼女は椅子の横に置いてある箱を出して私たちの前に置いた。
「これは前金です」
「前金? これが? 多すぎでは?」
ケンジは箱の中にある札束を見て驚いていた。札束の数は一つじゃない。ぱっと見で二十くらいはあるだろう。
確かにレクレスは数々の冒険を成功させたおかげで大金持ちである。こんな大金はもしかしたら一部なのだろう。私がそう思っていると、ミッシェルさんが話を始めた。
「あなたたちの話はニュースで聞きました。シリヨク王国のクーデター成功、そしてこの前のセントラー王国の王女、リーナの護衛と裏ギルドのクァレバの殲滅。この話を聞いて、私はあなたたちに仕事を依頼しに参りました」
ミッシェルさんは少し間を置いた後、私たちにこう言った。
「私の父、レクレスを守ってください」
「えーっと……イルシオンシャッツを制覇するまで守ればいいってこと?」
と、ルハラが聞くと、ミッシェルさんはいいえと言ってこう続けた。
「父はイルシオンシャッツを制覇するために、優秀な冒険者を選んでいます。どうやらその中にイルシオンシャッツの宝を狙う輩がいるそうです」
「宝を横取りするつもりなのだな」
ヴィルソルがこう言うと、ミッシェルさんはそうですと返事した。
「父の目的はあくまでも山の制覇です。宝には興味ありません。ですが、宝を横取るために父の命を狙う輩が許せません。皆様、どうか父をお守りください」
と、ミッシェルさんは頭を下げてこう言った。その後、ケンジが立ち上がって机の上のカバンを取った。
「受けましょう。あなたの父親は俺たちで守ります」
ケンジの言葉を聞き、ミッシェルさんの目から涙が出てきた。
「ありがとう……ありがとうございます……」
私の耳に、涙声で感謝する声が聞こえていた。
会話後、私たちは部屋へ戻り、支度を始めた。
「今度の依頼場所は山か……大変そうだなー」
ナルセがリュックを用意しながら呟いていると、ヴィルソルがこう言った。
「ただの山登りではない。イルシオンシャッツは誰も制覇したことない謎の山じゃ。我も名前は聞いているが、道中何があるかさっぱりわからん」
「だけど、なんかわくわくするよねー!」
流石勇者ティーア。こんな時でも気持ちは前向きだ。ちょっとあの子のことを見直した。
「女の人がいればいいなー。そうすれば全裸で体を温められるのにー」
いつものごとく、ルハラの考えることはこればっかりだ。
「出発時刻は明後日。町の門にバスを用意してくれるからそれに乗ってくれと」
と、ケンジが私たちにこう言った。それに対し、私たちは一斉に了解の返事を送った。その後、私は山登りのための本を読みながら、山登りに適したアイテムをリュックに入れ始めた。
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