負け犬の逆襲
剣地:ミニマコーザ城上空
圧倒的な力の差を前にして、アーサーはやけくそになって俺に襲い掛かってきた。何も考えずに剣を振るうため、俺はアーサーの動きを見切ることはできなかった。できるのは、アーサーの攻撃をかわすことだけ。むやみに反撃すれば、アーサーの剣によって一閃を受けるだろう。傷は受けるけど、多分死なないが。
「うォォォォォォォォォォ! 勝つのは私だァァァァァァァァァァ!」
もはや、駄々をこねる子供のようだ。アーサーはひたすら剣を振り回している。当たるか当たらないかは、運任せなのだろう。
「こうなったら難しいな……」
この状態のアーサーを止める方法は、実力行使しかない。言葉であれこれ言っても、冷静になることはないだろう。俺は銃を持ち、アーサーの足を撃って動きを止めようと考えた。しかし、剣を振り回している以上、足もかなり大きく動く。そのため、なかなか狙いを定めることはできなかった。
「くたばれ!」
しまった! 銃の狙いを定めるのに集中して、アーサーの動きを見ていなかった! 何とか攻撃をかわしたが、アーサーの剣先が俺の頬をかすった。
「まだまだだ!」
アーサーは俺に向かって剣を投げた。飛んできた剣を弾いて地面に叩き落としたが、もう一つの剣が俺の右肩を貫いた。俺がダメージを受けたことを把握したのか、アーサーは笑いながらこう言った。
「どうだ? これで参ったと言え!」
右肩が県に突き刺さっただけで、参ったと言えるわけがない。俺は呆れつつ、立ち上がってこう言った。
「右肩を貫いただけで、相手を倒したと思うなよ。これ以上に危険な傷を、俺は何度も受けてきた。この程度の痛みでくたばるかよ」
俺は目の前にいるアーサーに接近して蹴り飛ばし、右肩に突き刺さっている剣を引っこ抜いた。邪神とか戦っていた時に比べたら、この程度の傷はかすり傷レベルだ。それに、俺も成瀬みたいにはいかないが、それなりに魔力による治癒法の特訓をしている。この程度の傷ならすぐに治る。
「チッ、治したな……」
与えた傷がすぐ治ったことを知ったアーサーは、悔しそうに舌打ちをした。そして、再び俺に襲い掛かった。
「また私の剣で、貴様の肩を貫いてやる!」
「そうはいくかよ」
アーサーは俺に向かって突進してくる。今がチャンスだと思い、俺はすぐに銃を構えなおし、アーサーの足に向けて発砲した。俺が放った弾丸は、アーサーの右足の関節に飛んで行き、そのまま貫いた。
「ガッ! グワァァァァァァァァァァ!」
足を撃ち抜かれたせいで、アーサーは悲鳴を上げながら右足の関節を抑えた。手で押さえて痛みを和らげようとしても、もうアーサーの右足は動けないはずだ。体中に走る痛みで魔力を開放できないし、逃げようとしても動けない。勝負あったな。
「勝負あったな。降参してくれ。これ以上の戦いは無駄だ」
「降参だと……そんなことはしない。弱き人々を救うまで、私は倒れない、私は死なない!」
突如、アーサーからとんでもない魔力を感じた。少し油断した。まさか、アーサーにこれほどの力があるとは思わなかった。
「最後の手段だ……貴様のような強者を倒すため、取っておいたのだ」
「何をするつもりだ?」
俺がこう聞くと、奴は俺の問いに答えるかのようにこう叫んだ。
「トリガースキル、ルーザーズドッグリバージ!」
何だ、それ? 新しいスキルか? 長い時を過ごすうちにいくつか新しいスキルが出てきたのは知っているが、ルーザーズドッグリバージって名前のスキルは聞いたことがない。新種のスキルか? そう考えていると、アーサーが俺に向かって飛びかかってきた。アーサーの右手は俺の喉を掴んでいる。く……苦しい。あれほど弱っていたアーサーが……こんな力を持っているなんておかしい。俺は苦し紛れに足を動かしてアーサーを蹴り飛ばし、後ろに下がった。
「ハァ……ハァ……グルルルルルルルル……」
おいおい、あのスキルを使った後から、アーサーは凶暴な犬のようになっているじゃねーか。犬のモノマネをしているのかって思ったが、さっきよりアーサーの魔力が強くなっている。まさか、ルーザーズドッグリバージというのは、弱った時に使うと、逆に強くなるスキルなのか? そう思っていると、アーサーは剣を持って俺に襲い掛かってきた。
成瀬:ミニマコーザ城ベランダ
ここなら空での戦いがよく見える。私たちは戦いが終わった後、あの部屋の近くにあったベランダにきていた。中じゃ剣地の戦いが見られないし、どんな状況かも知ることができない。
「あれ、ケンジじゃない?」
「そうだ。あんな所で戦っているのか」
ティーアとヴィルソルが指さす方向には、空に浮いている剣地とアーサーの姿があった。剣地が圧倒していると思ったが、アーサーから感じる魔力が少し変だと私は思った。
「この魔力は何? 変に強くなっているような気がする」
どうやらヴァリエーレさんもこの魔力を感じているようだ。ヴィルソルなら何か知っているかと思い、私はヴィルソルに近付いた。
「何の気配か分かる?」
「アーサーの奴、何かしらのスキルを使ったかもしれない」
「禁断スキルかなー?」
ルハラがこう言うと、ヴィルソルは首を横に振って答えた。
「この戦いの後のことを考えている奴が、禁断スキルを使うはずがない」
「じゃあ、何で急に強くなったのかな?」
「心当たりがある。ルーザーズドッグリバージって名前のスキルが最近開発されたらしい。そのスキルは、手負いの傷を負うか、病などによって体が弱った時に真価を発揮するトリガースキルだと聞いた」
「それって禁断スキル?」
「いや、禁断スキルではない。じゃが……本当に弱っている時にスキルを使うと、逆に弱る可能性があるが……」
と、心配そうにヴィルソルが呟いた。
この作品が面白いと思ったら、高評価とブクマをお願いします! 感想と質問も待ってます!




