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奪われゆく魂


 剣地たちが帰還のパーティーを開く少し前の出来事。邪神の心臓がある神殿から脱出した後、ニートゥムは別の大陸にいた。


「ガハッ……ぐ……グガァァァ……」


 苦しそうに右腕を抱えつつ、ニートゥムは森の中を歩いていた。本来なら、町の病院へ行こうと思うのだが、この状態は病院へ行くのは無理だとニートゥムは悟っていた。


 しばらく歩くと、ニートゥムの動きが止まった。そして、狂ったような笑い声でジェロディアを振り回し、近くの木や草を斬っていた。隠れていた動物たちはニートゥムを恐れ、急いで遠くへ逃げ去った。


 数分後、暴れていたニートゥムは再び立ち止まり、悲鳴のような叫び声を上げた。その後、辛く呼吸をしつつ立ち上がり、ジェロディアを見つめた。


「はぁ……はぁ……こんなことになるなら……こんなもん手にしなきゃよかったな……」


 と、ジェロディアを手にしてしまったことを後悔した。それと同時に、自分の弱さをニートゥムは察した。


「ようやく理解できた……だから……俺は勇者になれなかったのか……クソッたれ、今……ようやく理解できても……」


 自分の心の弱さ、欲に弱いこと、暴力的な所を自分で感じ、それをフィレは見抜いていたとニートゥムは思い、涙を流し始めた。


「まだ……間に合うか? いや……間に合ってくれ」


 そう呟くと、ニートゥムは魔力を開放して空高く飛び上がった。向かった先は、ナンミが住んでいる家。エクラードから追われている二人は遠く離れ、人がこないようなところで生活していた。ニートゥムは家の前に立ち、ドアを叩いた。


「誰? こんな夜中に……」


「俺だ、ニートゥムだ」


 そう言うと、ナンミは急いで扉を開け、荒い呼吸をしているニートゥムを中にいれた。


「どうかしたの? 一人なの? イエミツって人は?」


「イエミツの奴は知らん、魔力を感じない。それより……ここにきた用は……最期にお前に会いたくて……」


 この言葉を聞き、ナンミは驚いた。ニートゥムが荒い呼吸をしているため、体力が消耗していることを把握していたが、まさかニートゥムが弱っていたとは思ってなかったのだ。


「どうして? 病気なの、誰かに傷を……」


「ジェロディアに全て乗っ取られそうだ。腕も、足も、頭も、魂も」


 ニートゥムがそう言うと、突如笑い声を上げた。だが、ニートゥムは自分で自分を殴り、笑い声を止めた。その光景を見たナンミは、ジェロディアの仕業だと感じた。


「あの剣に乗っ取られそうなの?」


「ああ……今すぐにでも捨てたいが……そうはいかないみたいだ。その場に捨てても……金魚のフンのようについてきやがる……完全にこいつに呪われたようだ」


 説明を聞き、ナンミは涙を流しながらニートゥムを抱きしめた。


「こんな状態なのに……私に会いにくるなんて……」


「お前に全て託したいからだ……世界で唯一、愛したお前を……」


 震える手でニートゥムはナンミの涙を拭き、少し笑ってこう言った。


「ジェロディアが俺の全てを奪うまで、一緒にいてくれ」


「分かっている。あんたが嫌だと言ってもずっと一緒にいる」


 そう言うと、二人はその場でキスをした。これが生涯最後のキスになるだろうとニートゥムは思い、ナンミを強く抱きしめた。




 その日の早朝、ナンミは寒さを感じて目を開いた。


「う……さむ……」


 そう呟き彼女は隣を見た。そこには、一緒に寝ていたはずのニートゥムの姿がいなかった。窓は開いており、そこから風が入っていた。


「ニートゥム……」


 突如、消えてしまったニートゥムを探すため、ナンミは急いで衣服を着て、外に出ようとした。だが、机の上にあった手紙を発見し、手に取った。


 愛するナンミへ。


 こんな俺を愛してくれてありがとう。今になって、ようやく勇者になれなかった理由が分かった。俺は心が弱い、そして暴力的だ。勇者に向いてない性格だったのだ。師匠は誰よりも俺の真の性格を把握していた。もし、エクラードの連中がここの場所を把握してここにきても、文句を言わないでくれ。全部俺が悪いから。


 それと、ナンミにイエミツの財産の隠し場所を教えておく。奴の魔力はもう感じないから、ティーアたちが倒したと考えられる。もう誰も手を付ける奴はいないから、ナンミが貰ってくれ。


 もし、ティーアたちと会うことがあれば奴らを恨まないでくれ。全て俺がまいた種だから。こんな形で別れることになってしまい、心から申し訳ないと思っている。もし、俺の子供が生まれたら、俺を反面教師として育ててくれ。ニートゥムより。


 ニートゥムの手紙を読み、ナンミはその場で項垂れた。彼女の中でできた感情は、悲しみでも怒りでもなく、自分でも分からない感情だった。




ティーア:エクラード


 エクラードからニートゥムの魔力を感じる。あの野郎、エクラードに戻って何をするつもりなのだ? そう思いつつ、私は入口へ向かった。そこで、私は傷だらけの門番を見つけた。


「ど……どうしたの!」


「ティ……ティーアか……」


「傷が広がる、静かにして!」


 私は急いで傷の手当てをしたけれど、門番の傷は治る気配はなかった。


「そんな……」


「傷が酷い……俺はもう……ダメだ……」


「口を閉じて……喋っちゃダメだよ。死んじゃうよ」


「無理だ……もう何も見えない」


「ティーア、ニートゥムの奴が戻ってきた……変な魔力を身に着けていた……」


「あれはもう……人じゃない……化け物だ……」


「喋らないで! 死んじゃうよ!」


 何度も喋るなと言ったけど、自分の最期を悟った門番は私にニートゥムがエクラードを襲いにきたことを伝えた。そして、息絶えた。


「く……うう……」


 ニートゥムに対して、怒りと憎しみが湧き出てきた。あの野郎……絶対に許せない!


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