煙と化した男
リュッセは瀕死のジュメルを見て呆れていた。もう瀕死の状態なのに、まだ戦おうとしているからだ。
「もう戦いは終わりだ。これ以上動くと死ぬぞ。貴様のような奴でも、死に対する恐怖はあるだろう」
「ゲヒヒヒヒヒ……残念、オイラは死ぬことは怖くない。一番怖いのは、ボスからの信頼をなくすことだ! 信頼をなくすくらいだったら、お前を道連れにして死んでやる! 禁断スキル、スモックボディ!」
禁断スキルと聞き、リュッセは剣を構えた。剣を構えるリュッセを見て、ジュメルは笑いながら叫んだ。
「無駄だ! オイラのスモックボディは剣なんかで防げないぜ!」
叫び声を上げた後、宙を舞うかのようにジュメルはリュッセに襲い掛かった。ジュメルの攻撃に合わせ、リュッセは剣を振ったのだが、刃がジュメルに命中した際、煙のような物が発生した。それを見たリュッセは驚き、後ろに下がった。
「煙だと!」
「ゲヒヒヒヒヒ! スモックボディは体を煙に変える禁断スキル! 剣で斬ってもオイラにはダメージはない!」
「煙の体になるのか」
「その通り! だからこんなこともできる!」
ジュメルは魔力を発し、右腕を煙にして周囲を煙だらけにしようとした。その時、リュッセはあの毒の臭いを察し、急いで鼻を抑えた。
「毒か……また同じ技を」
「魔力を使えばオイラの煙は毒となる。グヒヒヒヒヒ! それに煙だから、あの小屋の中にも簡単に入ることができるぜ! 止められるなら止めてみろ!」
この言葉を聞き、リュッセは休憩室にいるヤーウと仲間たちのことを心配した。だが、動揺した隙を狙ってジュメルはリュッセに近付いた。
「さぁ……オイラの毒で死ぬか、オイラの煙で死ぬか? どっちかの二択になっちまったなぁ!」
「二択? 違うな。私は死なない。貴様のような外道に、人に選択肢を与える権限はない!」
「ほざけ……青二才が!」
リュッセの挑発を聞き、激怒したジュメルは煙を発しながらリュッセを追った。ジュメルをわざと挑発したおかげでリュッセが狙われるようになった。これでヤーウたちに攻撃の矛先が向かわないだろうとリュッセは安心した。しかし、何かしらやらないとジュメルを倒すことはできない。ヤーウたちが休んでいる今、自分が戦わなければならないと思い、リュッセはジュメルから逃げながらいい案がないか考え始めた。
「ホーラホラホラ! 考える時間はやらないよ!」
ジュメルの攻撃範囲はかなり広い。どれだけリュッセとジュメルの距離が開いていても、煙を利用した攻撃がリュッセを襲う。これはまずいと思いながら、リュッセは逃げていた。しばらくし、リュッセは神殿の上に立ってジュメルからの攻撃を逃れていた。だが、煙となったジュメルは宙を泳ぐかのように上り、神殿の上にいるリュッセに近付いた。
「逃げても無駄だ! 煙となったオイラから逃げることは不可能だ!」
「グ……厄介だ」
本当に何か手はないか、煙となった奴を消し去る方法はないかとリュッセは考えた。すると、煙となった奴の言葉でリュッセは察した。煙ならいずれ消滅するのではないかと。だが、消滅する時間を待っていたら確実に毒の煙で自分がやられてしまう。なら、消滅する時間を早めることは可能だ。リュッセはそう思い、剣を握って強く振り、衝撃波を発した。
「衝撃波か。そんなものでオイラは死なないぜ。煙の体に衝撃波を放っても、すり抜けるだけだ」
リュッセが放った衝撃波はジュメルに命中した。だが、煙の体となったジュメルにはダメージはなかった。しかし、衝撃波が当たったことで彼の体は宙に舞った。
「おいおい、手足と頭がぶっ飛んじゃったよ。普通の人間ならこれで死ぬか致命傷になるかだが、オイラは煙だから死なないぜ」
そう言っていると、リュッセが放った衝撃波がジュメルの顔に命中し、煙となった。ジュメルの煙はリュッセに近付き、徐々に頭の形となって行った。
「無駄だぜ。勝てないからってやけになるなよ」
「お前、煙のことを知らないだろ」
「ゲヒヒヒヒヒ。そうだが、それがどうした?」
「煙はいずれ消える。時間が経過すれば貴様は死ぬ。だが……貴様の毒は厄介だから、こうやって手を出している」
「ヒヒヒヒヒ! 消えるわけねーだろ! 魔力さえあれば、煙はいつだって復活……あれ?」
この時、ジュメルは自分の手足が煙のように薄くなっていることを察した。驚く表情を見たリュッセは笑みを浮かべながら、ジュメルにこう言った。
「もう時間のようだな。消えかけているぞ」
「ま……まだだ! まだお前を倒す時間はある! 勝負は終わっていないぞ!」
リュッセは剣を強く振り、ジュエルの顔を煙にした。その瞬間、煙の色は薄れて行き、徐々に消えた。周りにあったジュメルの体だった煙も頭と同じように薄くなっていき、空に上がりながら消えて行った。
「ふぅ……哀れな奴」
リュッセはそう呟くと、神殿から降りてヤーウたちがいる小屋へ向かった。
ティーア:神殿内
もう一度このおっかない神殿内を歩くことになると予想はしていた。ただ、あまりここで戦いたくはない。下手に動いたら罠にかかって死ぬかもしれないのだ。
「うげー、またあった」
ルハラが目にしたのは罠にかかって命を落としたロストジャスティスの団員。慌てて先に行こうとして、罠に引っかかったのだろう。敵だけど、ちょっと可哀想だな。
そんなことを思いながら先に行くと、前から大きな魔力を感じた。はぁ……この魔力は感じたことがある。ケンジたちもこの魔力を感じているようで、呆れた顔になっている。ニートゥムがこの先にいる。多分、私と決着をつけるために残ったのだろう。
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